フラウステッド家にて
ルナとエルドがもりもり食べていくのを見てクインクも意を決して食べ始めた。
「美味しい!」
一口食べて目を輝かせるクインク。皆と笑顔で食事をとる事がとても楽しい。それらが合わさると料理が何倍も美味しく感じた。
感じたのだが
「うぷっ」
小柄かつイングリッド同様に粗食だったクインクは当然ながら山盛りのベーコンポテトを前に顔が青くなっていた。
イングリッドは自分のお皿のポテトをこっそりルナに流していたので顔色は普通だが、以前の自分を見ているように見えて複雑な顔をしていた。
「ルナちゃん、クインクちゃんはそろそろお腹いっぱいだと思うよ」
「そうなの?」
ルナがクインクの方を見るとパンを齧った状態で硬直している。その顔色が悪いのを見てルナは自分の空になったお皿とクインクのお皿を取り替えた。
「そうだった、イングリッドちゃんの時もそうだったね」
「私はあの後トイレで吐いたよ」
「え」
イングリッドの言葉にルナと聞こえていたエルドは驚いた表情で一瞬硬直した。
「よし、それじゃあルルイエ先生を呼んで使い魔の契約を結んじゃおう」
紆余曲折はあったがルナはハンドベルを手に裏庭にやってきた。クインクはまだお腹をさすっていたが大事な事なので我慢我慢。
ハンドベルを振る。クインクとイングリッドはハンドベルらしからぬ音が響いたので飛び上がって驚いた。
「「うひゃあ!」」
おたおたする二人を他所にルナの合図を受けたルルイエは景色から滲むようにその場に現れた。
『はぁい、頼れる先生の登場よ』
ルルイエはそう言うとルナの前に立った。ただその表情からはやや疲れが見える。
「お忙しかったでしょうか?」
『いいのよ、ただちょっと魔界でバカやったヤツが出たってだけ』
ルナが遠慮がちに尋ねるとルルイエは一瞬だけ顔をしかめたがすぐに笑顔を見せた。
そしてその隣で青い顔をしているクインクを見て首を傾げた。
『なぜインプがこんなところに?』
「この子を私の使い魔にしようと思って」
その言葉を聞いてルルイエの顔がひきつった。マジで?という感じが顔に出てしまっていた。
『る、ルナちゃん・・・あのね、貴女ならもっといい子が・・・』
「この子が良いんです、それに助けるって約束しちゃったので」
人間が下級悪魔を使い魔にするのとルナの本体である大悪魔が下級悪魔を使い魔にするのでは意味が異なる。
大悪魔にとって下級悪魔とは『部下の部下』もしくは『部下の道具』と言っていい。
それを知っているルルイエは非常に面倒くさいという気持ちと言葉を飲み込みながらルナに事情を尋ねる。
『そ、それで・・・どういう経緯で?』
「魔界から地上に出てきたときに助けたんですけど、どうにも普通の子じゃないので」
『普通じゃない?』
どこからどうみてもただのインプ・・・と思いかけてルルイエはクインクの首元に光るルナと同じ作者の日光教のシンボルを見てキュッとなった。
(またあの・・・バカ聖職者!エ・ト・ナ・-!かぁぁぁぁ!)
いえーい、ぴーすぴーす!と空にエトナ―が能天気に笑う姿が映り、ルルイエは心の中で七転八倒した。
あのバカは許さない、どこかできっちり面倒を押し付けてやると心に誓ってルルイエはクインクを見やる。
(ルナちゃんほどじゃないけどかなり強力なのを・・・儀式も無しにほいほい作り出しやがって・・・!ぶっ殺すわよ!)
ぐぎぎと歯ぎしりしながら睨まれるのでクインクは今にも食べたものを吐き出しそうだった。
そんな事はお構いなしにルルイエはクインクの額に触れた瞬間になるほど、と納得した。
上級悪魔、そうランク付けさせるだけの魔力を秘めている。そしてルナほどでは無いにしろ彼女もまた善性を持った希少な存在。おそらくは弱い個体だったが故に他者の痛みを知る存在。そして幼いが故に彼女はまだ穢れていない。
それが何かしらのきっかけを得て肉体と魔力に大きなブーストを掛けられて存在を上位のものに押し上げられた。
(ルナちゃんとの相性の良さは間違いなく高い、縁が紡がれ、意思が重なった・・・)
賽子を取り出すと手のひらに転がした。簡便なものだが流れを読むには最適な一振り。
彼女との相性を占ったところ・・・。『良し』の卦が出た。
最初は虫けら同然の下級悪魔との契約ということでイライラも重なっていたルルイエは彼女をひっそりと処分しようかと思っていたがルナとの相性と彼女が曲がりなりにも上級悪魔の素質があるということで及第点を上げることにした。
『仕方ないわね、それじゃあ使い魔の儀式をやろうかしら』
「いいんですか!」
『特別よ?』
「わぁい」
ルルイエはなんだかんだ言ってこの笑顔に弱い。惚れた弱みというやつだろうか。
手を振るとルナとクインクの足元に魔法陣が浮かぶ。
『使い魔の契約は双方の同意があればさっさと終わるわ、手を出して、魔力をその掌に集めて頂戴』
ルルイエに言われるままに二人は掌に魔力を集める。ルルイエは杖を取り出して二人の手を交互に指し示すと二人の魔力が糸のように伸びてお互いの体に繋がる。
『使い魔の儀、簡単なものだけどこれでいいわ。二人はお互いを察知し、お互いを助け合う』
そしてお互いの名前を書いた羊皮紙を取り出した。
『此処に名前を書いてちょうだい』
手渡された羊皮紙に二人は名前を書く。クインクはすんなりと済んだが・・・。
「あれっ、消えちゃった」
書く度に文字が消えてしまうのでルナは不思議そうにしている。
『真名じゃないとダメよ。契約できないじゃない』
「そうか、正式な契約だからダメなのか・・・」
ルナはそう言うとさらさらと自身の真名を書いた。
「これでよし・・・と」
『おめでとう、初めての契約書の作成ね。貴女、とっても光栄よ』
ルルイエはクインクを見やると彼女が震えているのに気付いた。
ああ、どうやらこの契約の価値がわかっているようね。とルルイエは勝手に想像していたが・・・。
(やばい、食べ過ぎで吐きそう)
(やばいあの子吐きそう)
クインクは普通に食べすぎで吐きそうになっていた。緊張ももちろんしていたが元々吐きそうだったのでそれが拍車をかけた形だ。そしてそれを察することが出来たのは経験者のイングリッドのみ。彼女はこっそりと家から水の入ったバケツとタオルを持参していた。
『契約は成った、大悪魔との契約は絶対よ。心しておきなさい』
「・・・」
『聞こえた?』
「・・・」
怪訝そうな顔をしたルルイエだったが・・・。
「おええーーー!」
『ちょ・・・ぎええええ!』
「うわあ!やっぱり吐いた!」
ルルイエが顔を覗き込んだ際にクインクが盛大に吐いたので阿鼻叫喚の坩堝と化した。




