やさしさに触れて
クインクは悩んでいた。自分が、縁もゆかりも無い自分がこれほどまでにお世話になっていいのかと。
確かに自分が一人で出来ることなど数えるほどだ。いつだって兄に頼り切ってきた。
けれどもそれは身内だからだし、自分も多少なりとて兄のためにゴミを拾って売りに出したり拾った食料がちゃんと食べられるように加工したりといったことはしていた。
「私が・・・このままお世話になっていいんでしょうか・・・」
クインクはルナに手を引かれながらつぶやいた。それを聞いてルナはぴたっと立ち止まり、そして元の小さな体になったクインクの目線に合わせるようにしゃがみこんだ。
「もちろん、私がそう望んだからね」
「ルナ・・・さんが・・・?」
「そう、貴女を助けたい。私が神様じゃないことはわかってるの、でもね?それでも、貴女を見て見ぬふりをすることはできない」
どうしてそこまで、とクインクは思った。まだ理由が見えてこない。彼女が善意で自分を助けてくれたことはわかるがそれだけではクインクは安心できなかった。
今までのつらい経験が彼女にルナが不意に考えを翻し、自分を見捨てるのではないかとそう思えてしまうのだ。
「どうして、って思うよね?」
「・・・それは・・・はい」
少し困ったようにそう笑っていうルナ。誤魔化そうとして、それでも意を決してクインクは頷いた。本当なら不興を買うようなことはするべきでない相手だが、ルナが自分に真摯に向き合ってくれている事を感じ取る事が出来たからだ。
「私も色んな人に助けられているからだよ」
「助けられてる・・・?」
「うん、危ないところを何度も。だからあなたを助けることは私を助けてくれた人たちへの恩返しでもあるの」
ルナの頭にはルルイエやアダム、エトナ―に両親がいる。そしてFクラスの仲間の姿も。
皆がルナを助けてくれた。心と体、いろんなものを。
「私は私、だけど同じくらいみんなが私の事を誇りに思ってくれる存在でもありたい」
「・・・」
「だって私は皆の事が大好きだから。父さんも母さんも、ルルイエ先生もディーン先生も、友達も」
クインクはそれを聞いて、そしてルナの笑顔を見て心の底から思った。
(この人についていきたい・・・いつか、この人に恩返しがしたい)
そっと手を伸ばして、ルナの手を取る。そして、自分からルナにお願いした。
「ルナさん、私をあなたの使い魔にしてほしいです。きっと、後悔はさせませんから!」
「はい、こちらこそよろしくね」
ギュッと手を握り、頬を染めて、決意に満ちた目でそう言うクインクにルナは笑顔で答えた。
「まあ、使い魔契約の仕方知らないんだけども・・・」
「ですね・・・」
二人はそのままルナの自宅へと向かう。
「ただいまー」
「おかえりなさい、ご飯できてるわよ」
「わぁい」
「あら、小さな子も一緒?どうぞこっちへ来て頂戴」
いつもの様子でアリシアが出迎えるとルナは笑顔で、クインクはルナに手を引かれて食卓へ。
アリシアは突然増えた頭数に全く動じることなく、既に待っていたイングリッドと共にテーブルにお皿を並べる。
「今日のお昼なーにー?」
「炒めたベーコンとジャガイモにチーズをたくさんかけた奴よ。あと玉ねぎのスープね」
「やった」
クインクの身長に迫るパンがナイフで切り分けられていく。しかし驚くべきか三等分されてルナともう一人に一つずつ、残った三分の一を三人で分けている。
「さ、三分の一・・・?」
イングリッドはちらとクインクの表情を見るとその量に呆気に取られているのを見ると心の底から安心したような表情を浮かべるとパンを自分が食べるのと同じように小さく切ったものをいくつかお皿に乗せて渡した。
「はいどうぞ・・・あなた、お名前は?」
「く、クインクです」
クインクはパンを受けとりながら恐縮した様子で答える。イングリッドはそれに笑顔で答えつつ、クインクに念を押した。
「クインクちゃんね、私はイングリッド。私も居候だから遠慮しないでね・・・あと、此処の人達はすごく食べるから遠慮しないで『これくらいでいいです』って言ってね」
無理して食べなくていいからね?と彼女が念を押すのでクインクは不思議に思ったが、エルドがクインクが体を折りたたんだら入りそうな大きな鍋を持ってきたのでその意味をすぐに理解した。
「おや、お客さんだな!どんどん食べてくれ!」
クインクはボルブよりも大柄な大男が目の前に現れたので仰天したが口を挟む間もなく自分の前にジャガイモとベーコンが顔が隠れそうなくらい盛られたのを見て別の意味で仰天した。
「え、エルドさん・・・そんなにその子は食べられないかも・・・」
「そうか?小食だな!」
どこか悪いのかい?と言いながらバゲットをまるかじりし始めたのを見てクインクは呆然としている。
(よかった、この子は普通の子だ・・・)
イングリッドは自分と価値観の近い子がやってきたことに安堵を覚えていた。
食事量に関してはルナは非常識もいいところなのである。そしてエルドもルナも食べたがりであり、食べさせたがりである。山盛り作って山盛り食べてしまう。
『自分もこれくらい食べるし、これくらいあった方がいいよね?』
という優しさがイングリッドを幾度となく襲っていたのである。




