聖人襲来!
魔法学校をエトナ―はてくてくと歩いていく。気配を追っていくので迷いは無い。
悪い気配ではないのが不思議ではあったが、事故で生徒が呼び出したりした場合命にかかわることがあるのは同じなので油断はできない。
「ここらへんか・・・あれ?ここってあの校医のセンセーのとこじゃん」
前回の実技大会の折にサボって保健室で駄弁っていた事を思い出してエトナ―は首を傾げた。
こんな場所で上級悪魔が?どうして?と。しかもこの場から動く気配もない。
「まあ、踏みこみゃわかるか」
くよくよ悩んでもしょうがない。そもそもそう言ったこととは無縁のヤツである。
そのままずかずかと中に入ると保健室のドアを開け放った。
ばん!と音を立てて開いたドアにルナは軽く飛び上がった。
「おっす!上級悪魔の気配がしたんでやって来たぜ!」
「うわびっくりした」
入って来るなりぐるりとエトナ―が周囲を見渡すとコロンとルナ、そして悪魔が一人立っていた。
「あーん?見覚えのあるような奴がいるなぁ?」
「まるでチンピラみたい」
「しっ!」
ずいっとクインクの前に立つとじろじろと彼女を観察する。そしてん?と加えて何かに気付いたように顎を掴んで顔立ちを見始める。
「お前・・・あの時のインプか?なんでまたこんな姿に・・・悪魔の生き血でも飲んだか?」
「えっ!お知り合い・・・っていうかわかるんですか?」
ルナがすっかり様変わりしたクインクに一目で気付いたエトナ―に驚いた様子で答えた。
そしてコロンはそことは別の所で驚いていた。
「あたりめぇよ、今まで何人ガキから大人になるまで面倒見たと思ってんだい。ガキがどんな大人の顔になるか、大抵はお見通しよ」
「ほぇー」
ルナちゃんがどんな男泣かせになるかもお見通しよ、と笑いながら抱き着いた。
そんなエトナ―にコロンはすみせんがぁ、と断りを入れて尋ねた。
「ちょ、ちょいと気になる事をおっしゃってましたね。お伺いしても?」
「ん?何をだい?」
「悪魔の生き血がどうとか・・・」
コロンの疑問を聞いてエトナ―はああ、と顎に手を当てて考えるそぶりを見せた。
ルナを時折ちらっと見ている辺りに何かしらの心当たりはあるようだった。
「子供が減ったんでこういった話もとんとご無沙汰だったんだが、悪魔って奴が急成長したり体が変化したりするのにはいくつか理由があるのよ」
「ほほぉ、成長・・・」
エトナ―は対峙した経験と、仲を取り持つ仕事の関係から悪魔に対する知識は地上の誰より豊富だ。
そんな彼女が言うところによると・・・。
「悪魔の血はエネルギーの塊だ。大人の悪魔は体の隅々まで行き渡らせつつ、体内に留め置くことができるが子供はそれができないからエネルギーを蓄えられる器を大急ぎで作るワケだ」
「彼女の体の変化はそのせいですか」
「十中八九な」
クインクはエトナ―に対して少しだけ遠慮したような態度で部屋の隅にいる。そしてそんな彼女を見てエトナ―は優しく微笑んで頭に手を置いた。
「ルナちゃんを頼ったんだな、人見る目あるぜ。人・・・とはちょいと違うところもあるが・・・まあいいさ、教会には上手い事言ってやるから早いとここの子の使い魔になっちまいな」
「聖人様・・・」
「兄ちゃんの分まで生きるなら頑張らねえとな・・・見ててやるから思うように生きてみな」
間違えたなら叱ってやるから。とエトナ―は笑う。クインクはそれを見て少しだけ嬉しそうに頷いた。
頼れる大人が居ると安心できるのは人も悪魔も同じらしい。
普段の素行を知らない分余計にそう思うのかもしれないが。
「しかし上級悪魔との契約となると色々と問題がありませんか?」
「そうか?・・・そうだったな、普通は問題か」
権威でごり押しする気満々だったエトナ―はクインクの頭を杖でコツンと軽くたたいた。
「ひゃっ」
「こうしてガス抜きしてやりゃあいい。育った器は元には戻らんが見た目と魔力にセーブは簡単に掛けられる」
ふひゅーっ、とまるで空気が抜けるように体が縮むと同時に首にチョーカーが巻かれ、日光教のシンボルが取り付けられた。
「へっへっへ、主人とお揃いだ。それでお前さんもランクを誤魔化しな」
「ほぇー」
おっきくなったと思ったらまた元に戻った。その変化についていけずぼんやりしているクインクと悪魔の封印という桁外れの事を当然のようにやるエトナーに呆然とするコロン。そしてお揃いということでどこか嬉しそうなルナ。
「ルナちゃんと違ってお前さんは力を解放する必要に迫られる事が多いだろうから、一旦解放する方法も教えてやる」
「そんな便利な方法が」
「ああ、チョーカーが伸びるから引っ張ってシンボルを口に咥えるんだ。そうすりゃその間だけ解放できる」
「どうして咥えると解放できるんですか?」
「シンボルが悪魔の唾で穢れると弱まるんだ。封印は本来清らかなものだからな」
クインクはそれを聞いてシンボルを引っ張って口に咥えた。すると体が大きくなる。放すと元に戻る。
何度かやると何故かどや顔でこちらを見ていた。
「すごいです?」
どこか自慢げなクインク。
「すごい!」
何故かルナも隣に立って目を輝かせている。エトナ―は噴いた。




