おひるごはん
クインクは差し出されたパンを遠慮がちに受け取ると紙包みを剥いでパンを見やる。
「こ、これ・・・食べていいんですか・・・?」
渡されたのはバゲットに野菜とハムを挟んだシンプルなサンドイッチだった。
クインクはそれを見つめて困惑した様子でコロンを見ている。彼女からすればこのような食事を用意してもらう事すら初めての事だろう。
「もちろんですよ、フラウステッドさんも遠慮しな・・・あれ、もうない・・・」
ルナは遠慮なく食べた。恐ろしく速い。クインクはそれを見てようやく一口。
「・・・!」
「なかなかでしょ?顔を見ればわかりますよぉ」
クインクの目がぱあっと輝いたのを見てコロンは笑顔で頷いた。そしてルナほどではないにしろ彼女もまたアッという間にサンドイッチを平らげてしまった。
「さてと、腹ごしらえも済んだことですしこれからの事でも考えましょうかぁ」
コロンがそう言うと二人はうーんと考え込む。
「手続きが少々面倒になってしまうが、上級悪魔となるとそのままというわけにはいかない・・・最終手段と思っていましたが使い魔の契約をするべきでしょうな」
「なんでですか?」
「上級悪魔は既にこの街に限らず対処できる人物が限られるんですよ。聖人様がいる場所だからまだいいが、それ以外の場所で上級悪魔が出てきたら大騒ぎになりますよ?」
キョトンとしているクインクだったが、隣に立っているルナもキョトンとしている。
(この子の感覚じゃわからないかぁ・・・)
周囲に怪物が多すぎるせいで尺度がバカになっているルナとしては上級悪魔がどういったものかまったくピンと来ていないのである。そして当然ではあるが体が急激に強くなったクインクもだ。
「上級・・・」
そう言えば、とルナはエトナ―の言葉を思い出してみる。
『ああん?悪魔のランクか?そうさな・・・私にとっちゃ大悪魔か上級の古参以外は誤差」
まったく参考にならなかった。しかしこうも付け加えていた。
『装備無しでアダムが対処できるのは上級よりの中級までだ。神器一つ貸し与えりゃ上級クラスの中位までかな』
そう言っていた。そしてその後ろでアダムが「俺は対人専門だ」と愚痴っていたのも。
それらを踏まえてルナは考えてみて・・・
「とりあえず、すごい・・・!」
「そういうことですな」
コロンは早々に諦めた。元よりそう言った説明は苦手である。
「あとは使い魔として契約してもらうことになるのですがぁ・・・」
「ですが?」
「ぶっちゃけ専門外なのでわかりません」
ルナは派手に転んだ。
「それじゃあどうしたら?」
「詳しい人を呼ぶか・・・監視してくれる人を探さないと・・・」
上級悪魔が野放し、実際はかなりヤバい案件であったがルナはそのさらに上位の存在であるし、二人の師匠はそれらを軽くあしらう存在であったためにルナはふわふわした考えのままクインクと並んでぼんやりしていた。
「そうだ、じゃあルルイエ先生を呼べば・・・」
ごそごそとハンドベルを探すルナ。しかし・・・。
「しまった、忘れてきた・・・」
着替えた際に学校に持っていく鞄に入れてそれっきりになっていたようだ。
頭を抱えるルナを他所にクインクはおずおずと答える。
「あの、上級悪魔って・・・?」
「ん?ああ、あなたの事ですよ。ほら、そこの鏡みてもらって」
コロンが指さす先には姿見があった。クインクはベッドから降りた際に流石に少し違和感を感じていたようだが、鏡に映った自分の姿の前にはそれも吹き飛んだ。
「だ、だれこれ・・・」
クインクは鏡にうつった自分の姿に驚き、固まった。鏡に映った目の前の人物もまた、自分と同じように驚いた表情で固まっている。
「聖人様!大変です!上級悪魔が突然現れたと・・・!」
「騒ぐな、こっちでも察知してる」
エトナ―は司祭の葬儀を行いながらもエトナ―はあたふたとやってきた聖職者に答えた。
周囲の面々は皆、司祭に祈りを捧げていたがエトナ―は経典を閉じると頭を掻いた。
「方角と距離が違って無けりゃ魔法学校の方だな・・・まさかな」
どうにもとある人物の顔がちらつく。そのとある人物というのはもちろんルナのことである。
「私が出る。上級っても一人だ、問題児ならボコボコにして魔界に追い返せば済む話だしな」
「神器と悪魔祓い達は召集しないんですか?」
「上級になってくると居るとかえって邪魔になるんだよ。刺激してヤケを起こされても面倒だしな」
エトナーは杖を手に司祭の勤めていた教会を後にした。葬儀は自分が居なくとも回るが上級悪魔ともなると対処をミスると周りに被害が出る。エトナ―としてはあまり同僚の葬儀を蔑ろにしたくなかったが、これも仕事である。
「さぁて、問題起こしたのはどこの誰だァ?」
魔法学校へと到着し、エトナ―は門が閉じられている事に気付いた。どうやら今日は休日らしい。
「マジかよ、めんどくせえ」
門の隣に小さな勝手口があるのに気付き、エトナ―は何食わぬ顔でそこに向かうと扉を開けた。
扉を潜って学校の敷地内に入ろうとすると透明な壁がエトナ―を阻み、同時に電流が流れたがエトナ―は焼ける肌を無視して通り過ぎた。
「服が燃えなきゃ無問題、邪魔するぜー」
肌に痛々しい痕が付いたが彼女はまるで気にしない。実際は無茶をして通り過ぎようとすると複数の防犯装置により黒焦げになってしまう。魔力や生命力を燃料にしてしまう電撃と炎などが体内で起こるのだ。
普通なら即死しかねないが死なない彼女には無駄なことだった。




