たすける・・・よー!
コロンはルナが自身のイメージを理解して治癒術をコントロールできていることに感心していた。
そしてそれが目視できるレベルで出力されていることにも。淡く優しい光、まさしく聖術のそれだ。
(もともと悪魔はこういった魔力的なことに親和性が高いのは知っていたが・・・悪魔って治癒術つかえましたかねぇ・・・?)
権能として怪我の治癒や病魔の退散を使える悪魔は多い。しかし彼らは神の加護や恩寵によって患者を癒すわけではない。言い換えると『然るべき資格を持ち、知識と経験から理解して行動した結果できる』からしているのではなく『力を籠めて欲すればそうなる』からしているのだ。
徒手で作業をして怪我や病魔を退散させるのではなく、自身がそこにいてそう思うだけで行うわけだから彼ら自身もそれがどういった理屈なのかわかってやっているわけではない。
(私も悪魔みたいにひょいひょいっとやれりゃ恰好がつくんだけどねぇ・・・)
人間であるコロンには知識も魔力も、その選別と操作も必要だ。ゴリゴリと乳鉢でインプに効く滋養のある薬草をすりつぶし、適宜水分を加えて液体にしていく。味は酷いが意識が無いぶん誤魔化せるだろうか。
「ふぅ・・・!元気、元気・・・!」
(結構な時間だがまだまだ出力が落ちないな、我慢強い子だ)
コロンは真面目な顔で術を行使し続けるルナを内心で応援しつつ、調合した栄養剤を持ってきてクインクの傍に立った。医療に必要なのはとにかく繊細なコントロール、攻撃に使うような大波や巨岩を移動させる必要はない。
必要な場所に必要な物を必要なだけ。それを針の穴に糸を通すような気持ちでやる。これが医療魔法の心得の一つである。そのすべては苦しみを癒し、傷を治すため。
(高位の悪魔は体を魔力に変換して再構築するという。彼らにはそもそも必要がない概念かもしれないなぁ・・・)
聖術である治癒術の使用は悪魔にはできない。動作だけ真似ても意味がなく、理解がついぞ及ばないものであった。
「・・・ふーむ」
コロンは適宜、栄養剤とそれに水分などを含ませて少しずつクインクの胃に送り込んでいた。少しでも操作を誤れば誤嚥に繋がる。そうなると治療が無駄どころか深刻な別の問題を引き起こすからだ。
口に含ませ、喉に送り込み、それを水の魔法の操作で気道に入らないようにしながら胃へ送り込む。
少しずつ、少しずつ、必要ならば一滴ずつに絞ってでも確実に。
栄養剤を投与し終わり、それからしばらくじぃっとクインクを観察していたコロンは顔を上げた。
ルナのおかげか血色もだいぶ良くなり、クインクの呼吸も随分と穏やかになったのを見て峠は越えたと判断したのだろう。
「フラウステッドさん、もう大丈夫・・・一安心ですよぉ」
ふぅーっ、と息を吐いてコロンは首を鳴らした。クインクにシーツを被せてあげると椅子に腰かけてカルテを書き始める。
「じゃあこの子は助かるんですか?」
「もちろん、この子はちゃーんと生きる気力もある。大丈夫ですよぉ」
そう言うとルナはへにゃっと緊張が解けたのか笑顔を浮かべてへたりこんだ。
「よかったぁぁぁ・・・」
ベッドに寄りかかってクインクの顔を覗き込むと寝むる彼女の額にそっと触れた。
「あったかいね、ちゃんと生きてる」
ただ、そのことが嬉しい。別に何かを得たいわけではなかったし、まあ・・・褒められたら嬉しいけども。
あのときはそんな事は関係なく、出会って何も知らない自分を信じて安堵したような表情のこの子を死なせたくなかった。それだけがルナを動かしたのだ。
「それで、ルナさん。この子どうしましょうかぁ」
「どこの子かわからないんで家を聞かないといけませんね」
助けたは良いがルナもクインクと面識があるわけではない。助けてあげたいし、両親の許しが得られるならばイングリッドのように・・・とも一瞬考えたがいくら何でも無責任だと考え、どうしようかと考えを改める。
クインクの頭を撫でながら唸るルナにコロンは頭を掻きながら言った。
「家・・・とおっしゃいましたがそれは難しいかもしれませんよ」
「何がですか?」
「この子は下級悪魔だ、その、言いにくい事だが大抵の下級悪魔は単身で地上に出る事はありません」
そう言われてルナは首をこてんと傾けた。
「単身で出ないって・・・それじゃあ誰かが一緒にいるんじゃ?」
「ですから、保護者が居るならあの子がこんな状態で放置される理由がないんですよぉ」
下級悪魔は誰かの使い魔になることが多いですからね、とコロンは言う。
「使い魔になればよほどの事がない限り主人が彼女を呼び戻して治療するなり助けるなりできるもんなんです。ですが彼女にはその兆候がないし、魔力のパスも繋がってないでしょう?」
そこまで言うとコロンは少し言いにくそうにしつついった。その態度にルナの表情が少し強張る。
「となるとこの子は・・・その、なんだ・・・孤児か、もしくは誰の庇護も受けられない野良、ということになる」
孤児、その言葉がルナに大きく響いた。胸の奥が締め付けられるような、辛い感触だった。




