助けるために
ルナはその日、たまたま買い物に出ていた。
朝市で自分が食べるおやつを作る材料の買い出しに出かけていたのだ。
「?」
そんなとき、ふとルナの感覚に引っ掛かる物があった。
悪魔の感覚だ。微弱で、今にも消えそうなその感覚を辿りながらルナは歩いていく。
そこでルナはフラフラとまるで今にも力尽きそうな足取りで歩く小さな悪魔を見つけた。
「っ・・・」
駆け出したところで通行人がその小さな悪魔にぶつかった。
しかし通行人とて物好きばかりではない、迷惑そうに顔を背けるとそのまま歩き去っていく。
ルナはその小さな悪魔に駆け寄ると足から力が抜けて倒れそうになった体を抱きとめた。
「大丈夫?!」
悪魔は酷く傷ついており、その微かな意識の中でルナを見ると安堵したように目を閉じた。
「いけない!」
抱きとめた際にそっと首筋に触れると体から伝わる鼓動があまりに弱いことを知ったルナは慌てて魔法学校へと足を向けた。
魔法学校では校医であるコロンが一人、休日の職員室でコーヒーを傾けていた。コーヒー豆は皆がお金を出し合っている共有の物品だがコロンはこれを度々無断で飲んでいた。
本来なら蛇蝎の如く嫌われる存在だったが実際はそれ以上に高価な魔法薬の備品や薬品の調合、医術などを生徒教員問わず無料に近い形で提供している為に見逃されている。
「賑やかな学校も良いがこうした静かな学校も・・・」
人のほとんどいない学校はいつもと違った雰囲気がある。こういった雰囲気はのんびりした性格のコロンには好ましかった。しかしである。
「?」
ふと耳を澄ますと静かな休日に似つかわしくない慌ただしい足音が響いている。コーヒーを飲みながら廊下に出るとその横をルナが走り抜けていった。
「おやぁ、フラウステッドさんじゃないですかぁ」
どうしましたぁ?とコーヒー片手に問いかけるとルナは素早く方向転換してコロンの前にやってきた。
「コロン先生!大変です!」
「落ち着いて、何がありました?」
「酷い怪我なんです!それに、心臓の音が小さくて・・・!」
「・・・おや、こりゃ酷い。保健室まで運んでください」
コロンは保健室に向かいつつもルナの知識に感心していた。彼女が治癒術を使える事はエトナ―から聞いていた彼だったが治癒術はすべての種族にとって万能というわけではないのだ。また、エトナ―や東の神秘を操る医師などのように外見や脈などから全ての傷や不調を看破する経験やスキルを持っているならばともかく治癒術もイメージが必要になってくるため医術の知識が不完全な者が扱うと傷の治癒も同様に不完全になる。
何処が壊れているかがわからないと治癒が行き渡らないことがあるからだ。おそらくルナはそれを知っていてコロンの所へやってきたのだろう。さらに言うなら彼は魔法やそれに関する者や生物の治療も請け負う人物である。
「さて、治療を行いたいがその前に彼女に体力をつけてあげないと」
「ええいっ!体力ですか・・・?」
運び込んだ保健室のベッドには物が乗っていたがルナが豪快に吹き飛ばした。コロンはそれを悲し気に見送った後に寝かせたクインクを見る。
「酷い栄養状態だ、種族は恐らくインプでしょうがひどく痩せてる。その状態で何度も血を吐いたようですな」
舌圧子を差し込んで口の中を見ながらコロンはふむ、と観察を続ける。そして服を脱がせて体を確認すると体中に広がった傷と殴打の痕跡にルナは口元を覆った。
「ひどい・・・」
「骨に異常は・・・あばらが酷いですなぁ・・・内臓まで傷ついてると厄介だ」
コロンは少し困った素振りで顎に手を当てた。
「どうしたんですか?」
「私じゃどうにも治癒術の出力が低くて治癒まではできないかもしれない。もっと出力があればよかったんだが・・・それに心臓が心配だ、」
コロンは知識はあるが魔力自体は人並みだ、身体能力も。それ故に分かっていてもできることがない事がある。
頭を掻きながら薬品棚から薬などを取り出しつつあれこれと手段を模索する。
「どうにかできないんですか!?」
「したいんだが・・・いや、まてよ。アナタが手伝ってくれるなら大丈夫かも」
ふと、コロンはわたわたしているルナを見て何かをひらめいたように手を叩くとクインクを挟んで向かい合った。
「ルナさん、あなた長時間の治癒術の行使は可能ですか?」
「ええと、何時間かくらいしか・・・」
「十分すぎます、しかって言われると私の立場がないんですがね」
コロンは呆れつつもルナに非常事態における手段を説明した。
「再生能力を付与する神器がありましてね、昔の文献に患部にそれを当てて傷を治癒するという方法がありました。即時再生ではなく、肉体そのもの治癒能力を高める方向でやりましょう。それを一番酷い傷に重点的に当ててもらいつつ、私が強心剤を準備しつつ栄養剤を投与します」
「傷を治すんじゃなくて、傷の周りを元気にして治す力を高めるってことです?」
「そんな感じです。それなら負担も少ない。治癒術の応用ですが・・・できますか?」
「やってみます」
そうと決まったら始めてください、とコロンに怪我の酷い場所の指示を受け、そこに手を置いた。
「治すより、祈ること・・・元気になって欲しい。元気、元気・・・」
ルナがイメージを高める為にぶつぶつと独り言をつぶやく中、コロンはそれを横目で見つつルナの使う聖術の出力に驚いていた。




