売れりゃいいってもんでもない!
そんな困り果てていた二人に転機訪れたのはある人物の来訪だった。
「おうい、ルナ!どうだ?繁盛してるか?」
「お父さん、仕事はどうしたの?」
「巡回の仕事があるんだ。ここには古いものが並んだりもする。その中じゃ今の法律だと違法なものもあるんでな」
仕事中のエルドだった。ずんずんと足音を響かせながらやってきたエルドは陳列棚に少しずつスペースができているのを見て髭をいじりながら言った。どうやらバザーで違法な物が売られていないか監視する業務があるようだ。
「おー、売れとるようだな。やはりラルドの細工は一級品というわけだ」
がはは、と豪快に笑ったが周囲を見渡すとこそこそとルナに話しかけた。
「これは女性向けのものだな?」
「うん」
「それにしては周囲に男だらけなんだが・・・?」
「そうなんだけど・・・」
「ルナちゃん目当てのスケベ男が多いんだよ」
ルナが困ったように言葉を探しているとティナが隣であっけらかんと言い放った。
それを聞いてエルドはぐるりとティナに顔を向けた。
「その言葉はホントか!」
「え、あ、うん。だって使ったヤツ売ってくれって奴もいたし」
シュポー!と即座にエルドの顔が怒りで赤くなった。感情の種類は違うとは言え顔が赤くなった時の迫力はどちらも甲乙つけがたい。
「なんとハレンチな!未婚で未成年の女児にそんないかがわしい目線を向けるとは!」
「まあルナちゃん女児っていうにはえっちな体つきしてるけど、お母さん譲り?」
「え?!いや、そんな変な体してないと思うけど・・・」
実際は母親譲りの美貌とスタイル、そしてエルドの健啖家ぶりが遺伝したからか発育は大変よろしい。
ダメ押しに悪魔としての特性をもったからかそれが強まる月夜に佇む彼女は既に妖しい魅力を持っている。
「まったく、巡回する理由が増えちまった!けしからん奴らだ!」
ぷりぷりと怒りながら周囲を見渡すエルド。男たちはいっせいに視線を逸らすやら知らんふりをするやら様々だがどうにも後ろめたい心持の奴らが多い様だ。
「とにかく!何かあったら連絡するように!」
男連中を追い散らしながらエルドが離れていくとようやく女性のお客さんが集まり始めた。
「こんにちは、この装飾品って・・・」
少し言い淀んだが女性は思い切って尋ねる。
「あのさっきの人みたいな大きな人が作ってるヤツよね?」
あの魔除けの石像みたいな人!と説明されてティナは噴き出した。
「ぶっ!」
「あの人話しかけるだけで真っ赤になるからどうしたらいいかわからなかったのよね」
「えっと、ラルド叔父さんのことでいいんですよね?」
「そう!これはあの人のお店の商品でしょ?気になってたの」
そう言うと女性は髪飾りを手に取って笑みを浮かべる。
「これよこれ!ずっと欲しかったの!この柄、店に置いてあるのは売り切れちゃっててね!」
あとこの匂い袋も、と女性はなかなかの値段にも関わらず銀細工の髪飾りと匂い袋を購入していった。
「やっとマトモな人が来たね」
「ホントに」
二人は少し安心した。ちゃんと商品を目当てに来てくれたお客さんがいたのだ。しかしルナは少しだけ遠い目をしながら
「けど・・・」
「けど?」
「魔除けの像かぁ・・・」
ラルドが顔を赤くして虚空を睨んでいたら確かに悪霊だって逃げ出すだろう。ティナはルナがそう呟いたのを聞いてまた噴き出した。
「この匂い袋お願いします」
「はい、こちらですね」
「ありがとうございます」
それから、入れ替わるようにして女性客が何人かやって来ては匂い袋を中心に買い求めていった。
バザーはそれからは成功と言っていいくらいに売れていったのだが・・・。
「・・・あれ?」
ルナは突然、違和感を感じた。それは人混みの発する熱がまるで水を打ったように冷たくなったような。
心がざわつく、内側から自分を引っ掻くような感覚が示すのは危険を告げるサインだ。
「ッ!」
即座にハンドベルを鳴らそうとそれを掴んだ時だった。
パッと、ハンドベルを持った右手が宙を舞った。
「!・・・むんっ!」
しかしルナはそれに動じることなく魔力を飛ばしてハンドベルを撃った。
『!』
空間が一部、歪んだのが見えた。どうやら透明化している誰かがいる。人がたくさんいるはずの熱が引いたのは恐らく結界の類。その証拠に隣にいたティナは先ほどから微動だにしていない。瞬きも、呼吸の音すら立てていない。
「っ・・・痛い・・・!」
切り飛ばされた腕は鋭利な刃物で切断されたように鮮やかな切り口だ。それ故に出血がひどい。
変身すれば即座に肉体は再生されるが衆目の集まる場所で変身するのは不味い。
ティナや周囲の人を巻き込むことはもちろん、変身した姿を目撃されるのも不味い。
『姿を現せ』
不意に、ルルイエの声が響いた。それと同時に透明な膜が消えていくと同時に杖を突いた老人が立っているのが見えた。
「ルルイエ先生・・・」
『ルナちゃん、大丈夫?』
ルナが二度、瞬きするとその間にルルイエの背中が現れた。いつになく真剣な声にルナは今更ながら体が緊張で強張るのを感じる。
「腕を切られました」
『拾ってくっつけなさい、コイツの相手は私がするわ』
「はい」
ルナが右手を拾い上げて断面とくっつけると流れた血も含めて巻き戻しのように元に戻った。
流石に驚いたが、よく見るとルルイエの杖の先が光っている。どうやら彼女が使った魔法のおかげのようだ。




