老人と対決!
ルルイエは怒りすら滲ませて目の前の老人をみていた。
『クソガキが、よくもまあ私の宝物に手を出したわね』
「大悪魔の雛、欲しがって何が悪い」
しゃがれた声がルルイエの怒りを遮るように届いた。老人は杖を突きながらもう片方の手にも魔法使いが使う杖を持っている。
「気晴らしにバザーに来てみたら、誰もが欲しがるものが並んでいるではないか。欲しがって何が悪い」
「私は非売品ですが!?」
『だそうよ、死ぬ準備は出来た?』
ルルイエの影がまるで生き物のように蠢く。大半は老人を囲むように伸びて敵意を示すようにその先端を向けている。
「きゃっ!」
斬撃が飛んできた。今度は知覚出来たのでルナは咄嗟にティナを抱えて伏せた。
「むっ?!な、なにごと!!?」
ゴチッ、と伏せた時にルナと頭をぶつけた際にティナが突然動き出した。
「いたた、なんか変な人に襲われてる!」
「えっ!なんで?!頭痛いし!ルナちゃんと抱き合ってるの?!」
「頭はいま私とぶつかったから!」
ルナとティナがわたわたしている最中、ルルイエと対峙する老人は杖を握る手に力を込めていた。
「そんな子供騙しが通じると?」
「・・・精霊も切り裂く斬撃なのだが」
老人はルナが斬撃を避けた事に一瞬驚いたがそれ以上に目の前のルルイエが平然としている事に驚いていた。
『大方人ごみではあの子が本気を出せないとでも思ったんでしょうけどね・・・』
ルルイエは指を弾くと自身とルナ、ティナと老人を巻き込んで何もない真っ新な空間へと転移した。
『これであなたのアドバンテージは消えた』
「空間転移・・・!」
『あなたの体の一部だけ転移させてもよかったんだけど・・・』
それじゃあ、残酷よね。とルルイエはルナをちらりと見て言った。
『あの子の手前、少しくらいは慈悲をみせてあげてもいい』
「慈悲だと?貴様がか?」
老人はルルイエのことを知っているらしい。しかしながらその杖を握る手に微塵も動揺はない。
「私には引けない理由がある。その悪魔を手に入れ、目的を果たさねば」
『そのために死ぬ覚悟があると?』
「あると言ったら?」
『目的を吐いてワンチャン狙うってこともできるかもよ?』
そう言った瞬間、二人の杖が踊った。見えない斬撃と空間を歪ませる一撃が交差し、ガラスの砕けるような音が響く。
『力量差がわからぬほどの腕前とは思えないけど』
「かといって、退けぬ」
老人はそのまま杖を二度、三度と振り回した。そのたびにルルイエの足元に亀裂が走ったが・・・。
『ふふ、残念だけどその程度の魔法じゃ私を切る事は出来ないわ』
ルルイエの目の前に老人が魔力で作ったらしい斬撃が形となって停止している。
ティナとルナはその魔法の次元の違いにぽかんとするしかなかった。
「ふ、防ぐでもいなすでもなく・・・」
『空間を操る事ができるのは世界広しといえど・・・まあ高次元の魔法使いはそれなりに使えるかしら』
流石に旗色が悪いと思ったのだろう。老人は悔し気に杖を握りしめる。
「あの・・・もう終わりでいいですかね?」
ルナは恐る恐る尋ねる。ティナに攻撃が飛ばないように以前ガルドナの技を応用して作った防御魔法を開きながら、その隙間からこっそりと覗いている。
『かもね、どうかしら?』
「・・・好きにしてくれ。敵わぬとは思ったが・・・ここまでとはな」
老人は杖を捨てて目を伏せた。魔法使いが杖を捨てるのは降参の合図の一つである。
「ええと、それじゃあさ。おじいちゃん、何が目的だったかおせーて」
「?」
『?』
「いや、なんでルナちゃんの先生まで不思議そうにしてるの。とりま目的聞いてからでもいいでしょ」
ティナがルナの背中からひょこっと顔を出した。ルナはその顔を引っ込めようとしているがそのたびに左右から顔を出して話し続ける。
「先生が勝って、この話はお終いでしょ?」
「いや、しかし・・・キミ・・・」
老人もティナの言葉に困惑を隠せないようだったが、目的が大事なのだろう。ルルイエに視線を移した。
「考えてもみれば確かに・・・最初から貴女の勧めに従うべきだったか」
『なんか毒気を抜かれちゃった。いいわよ、とりあえず聞いたげる』
老人はまずは、と自己紹介を始めた。
「ワシの名前はアルディーノ・ディ・キャピターレという。今は一線を退いた魔法使いじゃ」
『キャピターレね、斬撃を魔法として扱う魔法使いだったかしら。それがどうしてこんなことを?』
「悪魔の体の一部がワシの孫の薬になると聞いて・・・」
それを聞いてルルイエは首を傾げた。
『それなら召喚して、代価を払えばいいじゃない』
「条件があるのじゃ、それもかなり限定的な」
悪魔にとって体の一部など大した価値もない。呪術なんぞに使われると面倒ではあるが彼らはそれをすぐさま魔力に変換してパスを断ち、呪いから逃れることもできる。それ故に代償をきちんと支払うことができれば悪魔は体や力の一部を入手することは難しくない。
『ふむ、なるほど・・・それで限定的な素材とは?』
「若い悪魔の涙じゃ」
それも乙女の。と指定されてルルイエは思わず唸った。それは確かに探して見つかるものではない。
悪魔は奔放で純潔を保つ者も少なく、そもそも若者も少ない。
涙程度ならと思いがちだが悪魔は老人ばかりなのでおいそれと泣いてはくれないのである。
だっていい年こいて他人の前で泣くとか恥ずかしいし。




