これは・・・いいものだ!
ティナが頑張ってくれるのでルナは値札と商品を見比べて値段を把握することに専念できた。
「ええと、これが・・・この値札で・・・」
「ルナちゃん、お釣りのお金はルナちゃんが持っててね。売り上げも」
「わかった」
ティナもそう言ったことは心得ているのかなるたけ値段やお金に関わらない感じを示してくれている。
「よし、じゃあ後は売り子としてどうしたら商品に目が行くかだね」
ティナは周囲の準備が整い始め、売り子達が開催を待つ間にルナと話し合う事に。
役割としてはルナが会計係でティナが客を呼び、商品の梱包などを請け負う分担になった。
「まず、この商品は高級な奥様向けだね。質が私の知る限りでもかなり高い」
「わかるの?」
「ふっふっふ、商会の娘を舐めてもらっちゃ困るわさ。これとか見てよ」
髪飾りに使われている銀細工にティナは目をつける。銀細工は細かい紋様が掘られており、見た目は葡萄の蔓が伸びて実をつけている。問題はその細かさと蔓と蔓の隙間にはしっかりと穴が開いていることだ。さらにそれが太い一枚板の銀を削り出して作ったように立体感が出ている。
「こんな立体的な銀細工なんてそんじょそこらじゃお目に掛かれないよ」
「ほぇー・・・そうなんだ」
そしてもう一つ、金属加工の店に似つかわしくないハンカチが一枚。これを取り出してティナはまじまじとそれを見つめる。
「この模様・・・なんか光沢ない?」
「光沢?」
「うん・・・これは・・・」
ティナは細心の注意を払ってハンカチの模様に指をそっと近づけて魔力を流した。すると・・・
「およよっ!」
急に変な声を上げたのでルナが目を丸くしているとティナは驚いた様にハンカチを見つめている。
「ど、どうしたのティナちゃん?」
「これ銀糸だよ、銀を糸にしたやつ・・・」
銀糸とは、金属の銀を紙の薄さまで叩きのばし、それを裁断してつくる職人技が光るもの。それだけでもちろん商品になるレベルであるがこの小さなハンカチにはそれをつかって模様が編み込まれているようだ。
ティナが魔力を流したのは彼女の特性である雷の魔力にその糸が反応するかを試したのだろう。
「ね、値札は?!いくらしてる?」
「えっと・・・これかな」
値札を見せるとティナは即座にそれを取り上げてまじまじと見つめる。すると・・・。
「この値段で出したらダメだよこれは・・・ダメだって、どうせ大量生産なんてできっこない品なのに」
ぶつぶつと呟くとハンカチ用の値札はそのままくしゃくしゃにしてしまった。
「これは展示品!見せても売っちゃダメだよ、この値段で売ったら店が足元を見られるから」
「そうなの?」
「バザーに出すからって安すぎ!ルナちゃんの叔父さん達はこれの価値を誤解してるレベルだよ」
それからティナは値札をあれこれと確認するとイーッ!と奇声を上げた。そして片端から新しい値札に取り換え始めた。
「安すぎる!これじゃ他の人の商売を邪魔するレベル!転売したら手間賃引いても黒字!とんでもない!」
「でもこれ宣伝・・・」
「常に閉店セールやってる店じゃないんだよ!これからやってくのにこの値段でやってたら店潰れるって!」
この値段見て皆店に行くんだよ?!とティナは言う。ルナは言われてみれば・・・とこの値段に目をやる。
頑張れば自分のお小遣いでも手が届きそうなほどだがティナの言葉通りならこれらは殆どが銀を使った装飾のはず・・・。しかも匂い袋には魔除けのおまじないが籠められた銀の装飾が縫い付けられており見た目もいい。
「そう言われてみれば・・・」
「でしょ!だからこれはダメ!これくらいで・・・いいくらい!」
ずいっとルナに新しい値札を突き付ける。ティナが書き換えた値段は倍以上になっていたが・・・。
「倍になっちゃったよ・・・?」
「ここからバザーなんだからお値引き交渉するの!このハンカチなんか贈答品レベルだよ!」
とティナは言う。
「でも勝手に値段変えちゃ・・・」
「私に資金があったら買い占めて他所で売るよ?」
「ええ・・・」
困惑するルナにティナは平然と答えた。
「だって利益確定だもん。この値段が普通って考えてからさっきの値札みてみ」
ルナは持ってきた値札とティナが作った値札を見比べる。そうすればもはや考えるまでもない。
「装飾品が高いのは手間賃と工賃があるんだから、いくらでも値段はつけられる。職人が値引きするのは商品を作り続けるための妥協の産物でしかないんだから」
「じゃあティナちゃんが値段を上げたのは?」
「商人としての意地!価値を適正以上に盛って、利益を出す!そのついでに商品の価値そのものも釣り上げる!」
いいものにいい値段がつくのは当然!とティナは鼻息を荒くして言う。
思った以上にいい品を前にティナは適正価格で売り抜くという決意が体に漲っていた。




