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子供は大事に!

アリシアはルナに抱かれて眠るイングリッドを見てため息をついた。


「事実は、都合が悪いほど・・・目から背けてしまうものですね」


アリシアは神官として、聖職者として諸国を移動していたことがある。それ故にそう言った悲しい現実があることは知っていたが目の前にそれが突きつけられると自分の心がそう言ったところから離れている事を実感する。


「家庭に入ったんだからお前さんの気にすることじゃない。母になったからこその感想でもあるんだろうがな」


エトナーはアリシアにそう言うと腕を組んでふうっと息を吐いた。


「まぁ、それに関しては嘆いても仕方ない。それよりもだ、押し掛けてこんな事頼むのもアレだが」

「ええ、一晩と言わず何日でも預からせて貰いますよ」


アリシアはルナがイングリッドを抱きしめてあやすようにしている姿を見て思わず笑みがこぼれた。

元よりあの子がそうするといったのならダメといったところで辞めないだろうとも思っていた。


「悪いな」

「いいんですよ、娘が二人に増えたら私も嬉しいし」


元より大食漢の夫を持ち、最近は娘もそれに影響されたのかよく食べる。それにやせっぽちの子供が一人増えたところでアリシアにとっては誤差に等しい。

それに実を言うと最近しっかりしてきて、外にでてばかりになった娘を見て嬉しいやら寂しいやら感じていたところである。かまってあげられる子供が出来たとしてアリシアにとっては苦にもならないことだった。


「ううん・・・」

「あ、起きた!」


ルナの声が聞こえてアリシアとエトナ―は揃ってそちらに顔を向けた。笑顔のルナとまだ寝ぼけているイングリッドを見て二人は笑顔でそれを見つめる。


「・・・そういやなんか匂うな、晩飯の時間か?」


そろそろお暇するか、と立ち上がりかけたエトナ―を大きな両手が押し戻した。


「?」

「聖人どの、せっかくですしこの子と一緒に食べていってくだされ」


振り返るとエルドがよれたコック帽を被って立っていた。匂いの元は彼が食事を作っていたからのようだ。


「大助かりだが良いのかい?二人分も増えて」

「元より二食分くらいはつくるから大丈夫ですぞ」


エトナ―はそれを聞いて遠慮なくご相伴に預かることにした。元よりこういったことに遠慮のない女である。

好意ならば遠慮なくもらうし、ダメでも文句は言わない。

エトナーがリラックスした様子を見せたのでエルドは上機嫌でキッチンへ戻っていった。

大きな体を揺らしながら歩く背中を見てエトナ―はアリシアにいう。


「料理のできる男は貴重だぜ、いい奴を捕まえたな」

「うふふ、そうでしょう?私、見る目がありますから」


大人の女性が二人くすくすと笑う。



「完成だ!フラウステッド家直伝の男シチュー!」


寸胴を持って意気揚々とやってきたエルドは机よりも一段低い棚にドンとそれを置いた。

エトナ―は自分の尻が鍋を置いた時の衝撃で浮いた気がした。


「二食分つったよな?」

「ウチではこれが二食分!」

「馬かなんかか?お前の旦那」

「最近はあの子もよく食べるので」


まるでサラダボウルのような器に並々とブラウンシチューをジャバジャバとよそっていく。

美味しそうではあるがよそい方から量まで全てが豪快だ。


「さあ、皆食べてくれ!食は活力の源だからな!」


バゲットが一本ずつ配られる。エトナ―は流石に呆れた。


「切ってくれ、こんなに食えん」

「小食ですな」

「アンタの基準で計らんでくれるか」


エトナ―はのん兵衛ではあるが食事に関しては人並みである。とてもじゃないがバゲット一本を食べるような食生活はしていない。目線を動かすと自分の顔と同じ大きさのボウルにシチューがなみなみと入っていて目が点になっているイングリッドが見えた。


「私はともかくあの子は病み上がりなんだが・・・?」

「ああ、そうでした。さすがに減らしてあげないと」


そう言うとエルドは豪快にバゲットを二つに折って、イングリッドの元に置いた。

まさかそれで量を調節したとでもいうつもりか。


「ルナちゃん、多分無理だから食ってあげてくれ」

「はぁい」


五人に増えた食卓。その日の食事はとても賑やかなものになった。イングリッドは食卓についた時からそわそわと落ち着かない様子だったが、その表情は明るかった。

結局バゲットはアリシアとエトナ―とイングリッドで一本食べる感じに落ち着いた。


「うっぷ」

「イングリッド、無理すんな。ルナちゃんに回せ」


最初こそ美味しそうに食べていたイングリッドも途中からシチューの固形物を食べられず多すぎる量に顔を青くしている。平然と完食してお代わりしているルナはいいとしてエルドは人間のはずだが。


「うーむ、随分と弱っておるようですな」

「アンタの基準だと世間の大半は常に体調不良だぞ」


何杯目かのお代わりをしながらエルドが呟いたのを見てエトナ―は呆れながらバゲットを齧っている。

大人の自分でも一杯食べきれるかどうかだ。体が小さく、胃が弱っているイングリッドでは完食は無謀だろう。

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