ちゃんとしろ!
アダムは男を他所に酒場の店主に耳打ちした。
「おい、あそこの飲んだくれがいるよな」
「えぇ、それがなにか?」
「ヤツは金払いはいいのか?」
酒場の店主はアダムの格好をちらりと確認する。そしてその服装が魔法学校の教師が纏うローブを着用しているのを見て話し始めた。
「ええ、一応。どこからそんな金がでてくるのか不思議に思ってますがね」
「そうか、やはり・・・」
アダムがギロリと男を見たので酒場の店主は面倒の予感を感じ取った。
「あの男は姪に残された財産を食いつぶして酒に変えてるロクデナシだ。あんなのを客にしてるとこの店の評判が落ちるぞ」
「うへぇ」
教会のお膝元でもあるこの街でネグレクトをしている悪人を客にしているとなると風聞が良くない。
ましてや財産を管理し、子供を養育する立場の人間が財産を私物化して飲んだくれているとなると倫理問題にもなる。
「月光教の信徒からの施しも懐に入れてるみたいだしな」
その一言が決定打になった。この大陸で1番の宗教である日光教の姉妹宗教である月光教の施しを着服しているとなるとただの素行不良では済まなくなる。家族の金を使い込むのとは勝手が違う。場合によっては犯罪であるし、なにより月光教の信者はかつて人外とすら言われた特殊な種族の人々だ。
恐ろしい力を持つ者もいる。
「教えて下さって感謝しますよ」
「なに、善意に従ったまでだ」
酒場の店主は店員に指示を飛ばすと店員は奥から屈強そうな男を連れて来た。そしてそのまま叔父の所へ向かうと男はそのまま彼を引きずって外へと向かって行った。
「酔いは覚めたか?」
裏手のごみ捨て場で倒れているイングリッドの叔父を見てアダムは声を掛けた。
「うぅ、痛え」
「もう一度聞くが、イングリッドの叔父だな。確か名前はアグダとか言ったか」
アグダと言われた男は呻きながら起き上がるとアダムを見る。
「アンタが余計な事言ったのか?」
「いや、事実しか言ってない」
姪の財産で飲んだくれてるクズだって言った。とアダムが言うとアグダは面倒くさそうに言う。
「あんなの押し付けて死んだ姉貴が悪いんだ。俺にそんな能力無いのなんかわかるだろぉ?」
「無いのと財産を使いこむのは別問題だろう」
「へーへー、先生は言うことがご立派でぇー」
アダムはへらへらとしているアグダに対して急激に興味が失せていくのがわかった。おそらくこの男は心の底からこんなヤツなんだろうと。
「そうか、まぁ、お前がそれでいいならワシはもう何も言わんよ」
「そーしてくれ」
「叔父が死ぬのは辛かろうと思ったがお前にその気がないのでは赦しを得ようがないしな」
アダムはそう言うと踵を返した。アグダはアダムの言う事がどういう事か分からなかったが影から伸びた手が彼を見知らぬ場所へ連れ去るまでそれに気付くことはなかった。
「暗くなって来ちゃった・・・」
「どうする?泊まってくか?」
「うーん、どうしましょうか・・・」
日が傾いてきた。イングリッドは元より栄養失調から体力が無いに等しいのでもうしばらく目が覚めないだろう。
エトナ―は教会の寝所を使うかと提案してきたがルナは実家暮らしなのである。
「イングリッドちゃんって、もう大丈夫でしょうか?」
「うん?ああ、夜か朝に体調を見てもう一回これを使わないといけないんだが・・・」
イングリッドはおしゃぶりを咥えたまますやすやと眠っている。まるで今までの時間を取り戻す様に。
「悪いが一晩、頼んでもいいか?」
「私の家に連れてっても大丈夫なんですか?」
事情が事情なだけに両親もダメだとは言わないだろう。ルナの父親であるエルドは魔法局の職員であるし、母であるアリシアは元神官。どちらも困った人を見過ごす人物ではない。
「魔力に関してはこのおしゃ・・・神器があればいい。それより大事なのはこの子にあったかい家庭ってもんを経験させてあげることさ」
エトナ―はそう言うとルナにイングリッドを任せる事にして、連れ立ってルナの自宅に向かうことに。
「父さんと母さんに突然頼んで大丈夫かなぁ」
「私からも頼むから大丈夫だって」
他人に子供の世話を頼む人の態度ではないがそこらへんはもうエトナ―なので気にしない。
「ただいまー」
「おかえりなさい・・・あら?その子は?」
「こんばんわ、ちょいとそれは私から説明させてもらうぜ」
家に帰ってきた娘を出迎えたアリシアはルナが小さな子を抱きかかえていることと隣にエトナ―が立っていることに驚いた。
「そうですか、外じゃなんだし・・・どうぞ上がってください」
「はいよ、お邪魔するぜぃ」
エトナ―はアリシアと食卓で話をすることに。
「あの子はどうなさったんです?」
「あー、あの子な。詳しくはわからんが孤児のダンピールだ。名目上の保護者がいたらしいが栄養失調状態で命がヤバかったんで治療した」
「あの小さな子がですか?」
「ああ、あの子の担任が家庭訪問した時に見つけて保護した。長い事ほったらかしだったらしい」
アリシアはその言葉に信じられないといった様子で口元を覆った。




