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ま、ままー!

おしゃぶりに指を突っ込む都合上、膝枕というより抱え起こしたような恰好になる。

傍から見るとまるで指を吸わせている様な格好になるのだが。


(は、恥ずかし・・・)


イングリッドは羞恥プレイに耐えていた。

身体こそ発育が遅れ、小さいながらも歳はルナと同い年。


齢十六にしておしゃぶりである。マトモであるほど恥ずかしいだろう。



「んー」

「よしよし、顔色が大分良くなってきたな」

「頑張ってください・・・!」


しかも羞恥に震える自分を他所にエトナーとルナは非常に真面目である。虎口を脱したとは言え、実際には年単位で栄養失調だったようなものなので現在も危険な状態といえばそうなのだが。


「ちぱちぱ」


おしゃぶりをしながら視線を動かすとルナと目が合う。するとルナはへにゃっと笑顔を見せる。


(女神様ぁぁぁ!)


「おい、興奮すんな!身体に悪いだろ!」

「んー!」

「あぁ、また顔色が・・・」


イングリッドは自分を心配して様子を見に来たアダムの事はどこへやら、ルナの顔を見て一目で彼女はルナを気に入ってしまった。笑顔を向けられる喜びに顔色が乱高下する。


「『安らかに』」

「んー、まー」


エトナ―が沈静化の聖術を唱える。顔色が元に戻ると同時に目を細めて、イングリッドはルナに体を預ける。


「これはなんの術なんですか?」

「普通に大人しくさせるための術だよ。この子どういうわけかルナちゃんを見る度興奮するから」

「ほえー」


イングリッドはしばらく大人しくしていたが気が付くとそのまま眠っていた。


「寝ちゃいました」

「そろそろヤバいとこは越えた感じだな。あとは治療をしていきゃなんとかなる」


顔色と脈が良くなってきたのを確認するとエトナ―は息を吐いた。


「そういえば、私がやって良かったんでしょうか?」

「何が?」

「ディーン先生は魔力なら何でもいいわけじゃないって」


ルナの疑問にエトナ―はああ、と納得いったように呟いた。


「このおしゃぶりがあるからな。あと、それ抜きにしてもルナちゃんとこの子は相性がいいんだ。あとは出力の問題でな」


吸収できるように濾過するか、量を調節する機能がこのおしゃぶりにあるのだという。

とても不思議なものだがこれも立派な神器に類するものだとか。


「昔のダンピール多産だったから東の国の神様のように子を育てる為に多くの命を奪った。そのダンピールを諫める為に神は彼女から子を隠し、改心させた。そしてその解決策として血じゃなく魔力でも子供を育てられるようにこの神器を与えたというわけだ」

「ほえー・・・それで、相性がいいってどういう?」

「魔力の質さ、ルナちゃんの体には夜の一族、まあいえば悪魔の魔力が流れてる。ダンピールはハーフだがルナちゃんと似た魔力の質なのさ」

「じゃあイングリッドちゃんも月光教徒なんでしょうか?」

「少なくとも母親はそうだっただろうよ。この様子だと保護者はろくでもねえみたいだが」


エトナ―はそう言うと不愉快そうに鼻を鳴らした。今の状況はどう贔屓目にみてもネグレクト以外の何者でもない。

本来、霊薬を食事と共に買い与えていればこれほど衰弱することはあり得ないのである。

ダンピールは吸血鬼の頑強さを持つ為に飢餓以外でここまで弱ることは珍しい。そうなるとよほどの事情がない限りは食事をちゃんと与えていなかったことに起因する栄養失調がこの状態を表している。


「こうなっちまった以上はウチとしてもほっとけねえ、月光教の連中もそろそろキレる頃合いだろうが・・・」


エトナ―はいつの間にか姿を消していたアダムの事を考えながら視線を眠るイングリッドに戻した。


「今は担任に任せてこの子の面倒を見てやるとしようや」


エトナ―にそう言われてルナはイングリッドを強く抱き寄せた。





「お前か、イングリッド・ムーンライズの叔父というのは」


アダムは二人にイングリッドを任せて名目上の保護者である彼女の叔父を探していた。

人づてに近所を探すとどうにも明るい内から酒場に入り浸っていたらしい。


「あんたは誰だ?」

「彼女の担任だ」


叔父らしい男はグラスを片手に飲んだくれていた。アダムは彼の態度に苛立ったが彼の言葉はさらにそれを助長した。


「金ならないぞ、適当に辞めさせといてくれ」

「なに?」

「先生が来たってことは、学費の催促だろ?もうないから、学校はやめさせといてくれ」


呂律が怪しかったがこの男はあろうことか学費を全て酒代に使ってしまったらしい。

しかもその事を微塵も悪びれていない。アダムは呆れるしかなった。


「お前は彼女の保護者だろう、どうしてそんなことが言える?」

「しらねえよ、姉貴が勝手に置いてったんだから」

「それにしたって彼女の遺産や月光教からの援助があっただろう」

「しらねえ」


アダムは少し考えた。この男は自分がした事の罪深さを全くわかっていない。

そして自分が後々恐ろしい目に遭うだろうという事も。

月光教は夜の一族が属する宗教だ。つまるところ、彼は人外がした施しを虚仮にしてるのである。


この男の破滅はもう秒読みだ。しかしながらアダムはこの男をそのまま放って置くつもりはなかった。

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