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ダンピールの少女、イングリッド その2

ルナに抱えられながらイングリッドは今までの人生を振り返っていた。

母が生きていた頃の朧気な記憶。


イングリッドが生まれたのはこの街とは違うとある寒村であった。決して貧しくはなかったが自然以外に楽しみなど見受けられない素朴な村。

イングリッドが産まれてからこの街に引っ越して来たが、もしかすると彼女の母は自分の身に起きる悲劇を予知していたのかも知れなかった。


『お母さんが死んだ?』


街に越してきて一年、イングリッドの母は突然亡くなった。

理由は定かではない。子供だったイングリッドには詳細は語られなかった。葬儀が終わり、一人残された彼女の養育を任されたのは彼女の叔父だったが彼は典型的な堕落した男で、養育の為に残され金を私物化して日々の楽しみに費やしていった。

そんな男である。実の姉の子であっても真面目に育てるつもりなど無く、粗末な食事を買い与える事があれば良い方で悪ければ顔を見ることすら稀だった。

そんな有様であるから彼女の為に特別な霊薬など用意するはずもなく、彼女は日に日にやつれていった。


そんな彼女に転機が訪れたのは魔法学校の存在だった。ダンピールという種族は産まれながらにして魔法の適性が高い者が多く、また長寿なため研究職に適した種族でもある。

月光教の僧侶が彼女を見かね、将来この叔父から独立できるように魔法学校への入学を打診した。叔父は最初こそ乗り気ではなかったが月光教が彼女の進学を支援すると言ったので叔父は奨学金目当てにそれを了承した。

それから入学試験には合格できたものの今までの劣悪な環境に耐え切れなかった彼女の身体は勉学を重ねた疲労も相まってとうとう悲鳴を上げた。


「ごほごほ・・・うう」


元より弱っていた身体は彼女から気力を奪っていった。

元より頼る人間など居なかった彼女は毎日ベッドの上から動けない日々を送っていた。

ルナ達が尋ねてくるまではずっとそんな生活だったのだ。



「エトナー!エトナー!」


何時の間にか眠っていたらしい。気が付くと先生が教会のドアを叩いている。


『うるせーなー!誰だー!』

「急患だ!ダンピールの治療を頼む!」


先生がそう叫ぶとダダダと走る音がして教会のドアが開いた。


「こっちだ、連れてこい」

「この子だ、頼むぞ」

「よっしゃ、そこに寝かせろ」


すぐに教会に通されて長椅子に寝かされた。彼女と離れたくなかったが治療ということで仕方なく従う。


「えらく痩せてるな、こりゃ酷い飢餓状態だぞ」


こんなになるまでどうしてほっといた?とエトナ―が厳しい目を向ける。


「病気で寝ていると聞かされていた、いくら何でもと迎えに来てみればこれだ」

「保護者は酷い奴だ、地獄行きだぞ」


首と手首に指を当てられる。そして額に手を当てるとシスターらしき女性は口をへの字に曲げた。


「脈も熱も弱い、こりゃすぐにでも治療しないと風邪かケガでぽっくり逝ける体力だ」

「そんなにですか!?」

「・・・こうなるとルナちゃんが居てくれて助かった」





「どうするんですか?」


イングリッドを連れて教会に来た時には一度意識を失っているらしかった。まるで熱が出ているように荒い呼吸と汗をかいている。運んでいる際に両腕に掛かる重さがあまりにも軽い事にルナは思わず涙が出そうだった。


「えっとなー、ちょっとまてよ・・・特殊な機材だからな」


パンと手を叩いてから手を広げると魔法陣のようなものが浮かび、エトナ―はそこに手を突っ込んで中を探り始める。


「これだ、よし」

「これは・・・あの、なんだか大きな飾りのついた、その」


突起状の柔らかい部分に、持ち手のような大きな装飾がついたものが出てきた。

ルナはそれを見てあるものを思い浮かべたが・・・。


「おしゃぶりだよ」

「おしゃぶりだった」


見たまんまだった。ルナは何故こんなものをと不思議に思ったがエトナ―はどうにも至極真面目らしく、ルナに膝枕をするように言うとイングリッドの口におしゃぶりを突っ込んだ。


「・・・」

「おしゃぶりの装飾に指を突っ込むとこがあるだろ?そこに指を突っ込んで魔力を流すんだ」

「えっと、真面目な話なんですよね?」

「馬鹿!こんなことふざけ半分でできるか!早くしろ!」


怒られてしまった。疑問に思いつつも指を刺しこむと丁度指を保持するように穴が開いており、腕を伸ばし続けなくて良いように角度がついている。


「本来ならお産で死んだ母親の代わりに使うもんだがここまで弱ってるとこの器具を使うのがいい。乳の代わりみたいなもんだ」

「そうなんですか?」

「ダンピールの子供はこうした方が一番良いんだ。母親が吸血鬼だったら指から魔力と一緒に血もあげるんだがそのせいじゃねぇかな」


ダンピールの母親が吸血鬼だった場合、母乳に加えて指から血と魔力を一緒に与えるのだそうだ。

イングリッドの場合血は種族が違うので弱った体には効率が悪く、かえって負担になるのでまずは魔力を与えるとのこと。


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