ダンピールの少女、イングリッド
血の継承、それはダンピールの子供が成長するために必要な儀式であり養育の形。
主に人間の親が魔力を、吸血鬼の親が血を与えることでそれぞれの能力を伸ばすことができる。
子供は両親から愛情と血の継承を十分に受ける事で将来どちらの社会で暮らすかを決めることになる。
「じゃあ両親を亡くしてしまったらどうしたら?」
ただでさえ悲しい出来事であるのに生きていくのに問題が起きるとあってはルナの心配も当然である。
「大抵は親戚に代わってもらうか、魔法使いに霊薬を作って貰うんだ」
「霊薬?」
「魔法で生成した薬品だ。その中でダンピールの子供が飲むのは獣の血に魔力を込めたものだな」
定期的に作る必要がある。とアダムは言う。
ルナはかつて体調を崩した時に祖父から獣の血で作ったスープとゼリーを食べさせられた経験を思い出して渋い顔をした。
「血のスープを飲んだ事があるらしいな」
「あれはホントに・・・」
「ゲロみてぇな味だからな」
「うー」
料理人が創るスープは丹念に下準備と様々な臭み消しを入れて丁寧に作られているが風邪っぴきの子供達が食べさせられるそれはとにかく身体に良いものをぶち込んで作られている闇鍋だ。大抵の子供はこれが食べたくないが為に好き嫌いを克服してでも元気でいようとするほど。
「そろそろ着くが・・・」
「どうしたんですか?」
「あの家なんだが、人の気配がないな」
アダムが指さした家は街中でも小さな家だったが家人が家事や育児に精を出している中でそこだけまるで火が消えたように静かだ。
「でもあそこにイングリッドちゃんがいるんですよね?」
「そのはずだが」
二人は家に近づいてドアをノックした。
「・・・」
かび臭い部屋の中で一人、ベッドの中で身を捩る。誰だろうか。私の元を訪ねる人なんかいないはずだ。
叔父に金を貸している人だろうか。それにしては上品なノックだ。
「・・・う」
応対したいが力がでない。どうにか食事はとっているのにどうしても体力が湧かず、一日中ベッドから出られない日が多かった。以前の不味い血の飲み物を飲んでいる時はどうにか動けていたのに、叔父が母の残してくれた遺産に手を付け始めてからはそれもなくなった。結果としてベッドから起きられない状態が続いている。
「・・・」
起きたいのに気力がわかない。体が鉛のように重い。時折自分の手を見てみるが日に日にやせ細っているような・・・。
このままだと死んでしまうかもしれない。そんな気持ちが起こって私はベッドから滑り落ちた。
立つのも一苦労だ。落ちた時にどこかぶつけたのだろうか、酷く痛む。
「あ・・・う・・・」
どうにか這いながらドアまで近づいていく。ドアの外では心配そうな声が漏れてくる。
『いるはずなんですよね?何かあったんじゃ・・・』
『しかし勝手に入っては・・・』
二人居る。そして良識のある人だ。このチャンスを逃したら・・・。
「あ・・・い、います!だから、ドアを・・・あけて」
叫んだつもりの声もか細かった。しかしそれが伝わったらしくドアノブが捻られる。
ドアを開けて入ってきたのは数か月前に入学の手続きをした際に会いにきてくれた先生と・・・
「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに私を覗き込む女神でした。
デッッッ!エッッッ!?
なにこの女神、え、なにこれ母性の塊ですやん。ああもう、亡くした母が蘇ってきたみたい。
ああ、あああ、ああああ!もう!辛抱たまらん、私をだきしめてくださいまし!
「あ、あう、あー・・・」
「いかん、衰弱が激しいのになんか興奮してるぞ」
「すごい痩せてる・・・ど、どうしましょう」
ちょっと待て、と何やらごそごそと鞄から何かを取り出そうとしている先生を他所になんとか私は目の前の女神に手を伸ばした。
「だ、だっこ・・・」
「え?だっこ?」
こうですか?と戸惑いながら抱き上げてくれる。ああ、温かい。この感覚・・・ずっと忘れてた。
「一人は・・・さびしかった・・・」
「そんな・・・どうして・・・」
彼女の体に自分の身をゆだねると得も言われぬ安心感が私を包んだ。彼女の人徳なんだろうか。
それとも、なにか別のものが・・・?
「とりあえずこの強壮剤を飲ませるんだ、それから教会に行って治療を受けんといかんぞ」
「わかりました、はい・・・これを・・・」
「んー・・・」
先生から受け取った小瓶に入った薬を飲ませてくれる。飲みやすいように少しずつ、気遣ってくれるやさしさが沁みた。
「・・・そういえばディーン先生。彼女の成長には魔力をあげるって言ってましたよね?」
「そうだ、だが魔力には相性もあるから誰でもいいというわけではないぞ?」
「でも、治療が間に合わなかったら・・・」
「話は後だ、エトナ―の所に行くぞ」
彼女の心配そうな顔がこちらを見ている。なんていい人なんだろう。
軽々と抱えあげられて私は教会へと連れられて行った。




