そうこうして
ルナは二人の言葉を受けて少しだけもやもやが晴れたような気がした。
けれど自分の中に反省すべき点があることも理解できた。
感情は思った以上に自分の力を増幅させる。怒りは力を呼び覚ます。上級生に怒った時も普段よりもさらにスムーズな変身が行えた気がしたのだ。同時に感情が萎むと同時に元に戻ったことも。
「えっと、それじゃあその・・・上級生の人を迎えに行ってもらってもいいでしょうか・・・」
「ん?ああ、ホントに気絶しちゃったんですか?」
「だから言ったろ?怒ると怖いってさ」
ルナが申し訳なさそうにそう言うとコロンは少し驚いた風だったがゆっくり立ち上がるとよたよたと歩いて行った。
そして少し歩いてから振り返ると
「フラウステッドさん、過ぎた事はあまりお気になさらずに。学生の内に失敗しときましょうねぇ」
そう言って笑顔で手を振りながら、コロンは歩いて行った。
「あれほど呑気なのもちょいと困りもんだな」
エトナ―の言葉にルナは苦笑した。
「まあ、ルナちゃんは特殊なとこもマトモなとこも含めてルナちゃんなんだ。困ったら相談しな、そう言った時にいらん意地を張ると良くないぜ」
「わかりました」
ルナはそう言うとエトナーに頭を下げてルナは学校へと向かう。幾分軽くなった心を表すように足取りは軽く。
「あはは」
笑顔でステップなんて踏んでみる。その陰がまるで人でない様子を映し出していることは誰にも気づかれることはなかった。
「おぅい、大丈夫ですかぁ?」
それから少ししてコロンは道の端で木に寄りかかるようにして意識を失っていた上級生を見つけて揺り起こした。
「はっ・・・こ、ここは?」
「目が覚めましたか。ここは学園に戻る道の途中ですね」
コロンがよれよれのコートのポケットに手を入れて笑顔を浮かべている。上級生は周囲を見渡して自分しかいないことを確認すると恐る恐る口を開いた。
「あ、あの一年生は・・・」
「?」
「あの一年生は何者なんですか・・・?」
突然の問いかけにコロンは首を傾げた。
「なんのことです?」
「い、一年生が!その・・・礼儀がなってなかったから、叱るつもりで・・・そしたら」
上級生は言葉を選びながら、それでも途中から不安そうにつづけた。
「と、突然姿が変わって・・・」
「姿が?」
「あ、あ、あくま・・・悪魔のすがたに!」
コロンはアダムが担当しているという事で何かしらの事情はあるのだろうと思っていた。
そうなるとコロンは下手に共存させるよりも関わらせないことが良いとも思う。
誰とでも友達になれる人は稀有な存在だし、大人の社会でも関わらない方がいい事はままある事だ。
「そうでしたか、怖い思いをなさったんですね」
「うぅ・・・」
「ほら、落ち着いて私の目を見てください」
コロンは生徒を落ち着かせるように目線を合わせて諭すようにつづける。
「この学校で学ぶこと、それが何かわかりますか?」
「ま、魔法の使い方・・・その理屈・・・でしょうか」
「それももちろんありますね。ですがそれより大事な事があります」
「それより大事なこと・・・?」
その言葉に頷きつつ、コロンは生徒の肩に手を置いて続ける。
「魔法の恐ろしさ、危険性を学ぶことです。魔法使いは往々にして未知に挑む職業ですから」
「おそろしさ・・・」
「臆病者と人を笑う人がいるかもしれません。ですが『勇者は墓に多い』なんて言葉もあるくらい何の根拠もない勇気を持つことは危険な事でもあります。魔法に携わるならなおさらです」
生徒の手を引いて助け起こすとコロンは生徒の服に着いた土や木の葉を落としながら言う。
木々のざわめきに生徒は思わずびくりと体を震わせた。それを特に気にした風もなくコロンは続ける。
「その怖い経験はとても貴重です。恐らく、その感覚はキミを危険から遠ざけるからです。キミも私も物語の主人公ではない。怖いと感じたら退くことも大事なことだ」
「でも、俺は・・・Aクラスで・・・」
「こんなこと言ってしまっては何ですが・・・それはあくまで生徒達の間でのこと。不思議な事や恐ろしいものの前ではクラスの順位なんて意味がありませんよ?」
「・・・」
コロンがそう言うと上級生は呆気にとられたように彼を見つめている。コロンは諭す様に肩に手を置いて続けた。
「キミが体験したのは現実離れした恐ろしいことだったんでしょう?」
「それは・・・」
「だったらそんな時に自分のクラスの番号なんて気にしてどうなるんです。対処できると思って失敗したならともかく、気を失うほど恐ろしい目に遭ったというのに」
そう言うとさすがに言葉が見つからなかったのか上級生は俯いてなにやらぶつぶつと呟いていた。
おそらくまだ現実を受け入れるのに時間がかかるのだろう。本来なら出会うはずのないものに出会って図らずも自分の実力を知ってしまったのだから。
「とにかく、今日は帰ってしっかり休むことです。心の整理がつけば自ずと私の言ったこともわかってもらえるはずですからねぇ」
コロンはそう言うと背中を丸めて学校へと歩いて行った。




