その怒りは誰が為に
ルナはそのまま会場に戻った。するとへべれけのエトナ―が受付で帰ってきた生徒たちを見ている。
そしてルナをみつけると笑顔でこちらに手を振った。
「エトナーさん」
「よぉ、さっさと帰るから忘れられたと思ったぞ」
「ちょっと用事があったもので・・・」
エトナ―は酒瓶を傾けて、中身が入ってなかったのでそこらへんにポイ捨てした。コロンはそれを溜息と共に拾って荷物の中に放り込んだ。
「せっかく優勝したのにあまり嬉しそうじゃありませんねぇ、どうしました?」
「大会とは名ばかりでした・・・」
「?・・・名ばかりとは?」
「先生は応援してくれたけど・・・上級生が他の生徒の邪魔してたんです」
ルナはそう言うと再び怒りがこみ上げてきたのかムッとした顔をする。そして委細をコロンとエトナ―に説明した。
「なるほどねぇ、表立っては妨害できないからそんなことを・・・」
「石ぶつけられたんですが・・・」
「派手に魔法で吹き飛ばされる方が可愛げがあったかもなぁ」
エトナーはケラケラと笑っているがルナはむくれたままだ。
「大変でしたねぇ」
「された事は大した事じゃないです・・・でも」
「でも?」
「なんだか・・・がっかりして」
ルナがそう言うとエトナーは頬杖をついたまま言う。
「なら懺悔してくか?先生と聖職者の欲張りセットだぜ」
「懺悔・・・」
「そうですね、私も保健室の先生だし話せるなら話しちゃってくださいよ」
二人はだるーん、とした雰囲気のままルナの返事を待っている。ルナはその姿を見て、深く悩む事なく今回のことを打ち明けた。
「さっき、その、上級生の人が追いかけてきて・・・」
「うんうん」
「恥がどうとか言ってきたので、怒っちゃって・・・」
コロンは申し訳なさそうな顔をするルナに不思議そうにしていたが事情を知るエトナ―はなるほどな、と呟いた。
「怒ったらいけないんですか?」
「この子、怒ると怖いんだよ。ビビッて失神する奴がいるくらいな」
「うぅ・・・」
だいぶぼかした言い方ではあるが実際問題、大悪魔に目の前でキレられたらほぼすべての人間が死を覚悟する。
それをしてしまったことを悔いているのだろうとエトナ―は考える。
「まあ、キミのような優しい子が怒ったらそりゃあ怖いでしょうがねぇ」
コロンはそう言った事情を知らないのでエトナ―の言葉を話半分に聞いているようだ。
「けど、今回の事も以前の事も決していい事じゃあありません。誰かが声を上げないといけないこともありますから
・・・まあ、なんだ、怒ったこととそれをいけないと思った事は間違っちゃいないと思いますがね」
コロンは頭を掻きながらそう言うとルナを穏やかに肯定した。実際ルナは上級生の行いに対して怒りを覚えたが言うなれば義憤のようなもの。
「上級生が下級生に立場を利用して課題に参加できないようにさせたり、石をぶつけて妨害したりするのは良くない事です。でも、もっと・・・なんていうか・・・」
「はっきりしねーな、まあ懺悔や吐露したい気持ちなんてそんなもんさ。思いつくままに喋ってみな」
途中から自分でもはっきりしない気持ちにエトナ―は頬杖をついたままながら急かすことなくルナを見つめ続ける。
「がっかりしたんですよ、上級生ってもっとこう・・・かっこいい人たちだと思ってて・・・」
「ああ、そうでしょうなぁ・・・まあルナちゃんくらいの年の子にとって一つ二つ年上はお兄さんお姉さんだから」
「なるほどな、まあ幻滅はするわな。実力でねじ伏せてくるならともかく実績欲しさに下級生を通せんぼするような馬鹿じゃ」
エトナ―は自身の膨大な経験から、コロンは自身の学生時代の経験からルナの気持ちがおおよそ理解できた。
エトナ―は自分を慕ってついてきた弟子たちや同業者の眼差しを受けた経験から。
コロンはかつて劣等生としての自分が崇敬の眼差しで優しい上級生を見上げていた経験から。
「んで、先輩方に幻滅して怒った・・・そんな自分が嫌で自己嫌悪ってとこか」
実際はもうちょい違うだろうが、とエトナ―は言う。おそらくはルナは上級生が立場や力を利用して下級生たちに無体を働いていて、それに怒りを感じたまでは良かったが結局自分も悪魔の力で相手を恫喝してしまったことに負い目を感じているのだろう。
父親譲りの不正を許せない正義感の強い性格が感情任せに力を振るったことに対して責任を感じさせている。
いくら悪い事だからって、怒ったからといって。そんな言葉で自分を制している。
「いいじゃん、なにも間違っちゃいないさ」
「・・・そうでしょうか・・・」
「東の国の教えじゃこうあるんだ。『自分を無力な悪人と自覚し、神の教えに従って全てをゆだねてこそ救いが得られる』ってな」
悪い事をしちゃった、とそう思う事から反省を経て正しくあろうとすることが大事だ。とエトナ―は言う。
「その点じゃルナちゃんはまず気付きの段階を踏んだところだ。人を殺めたわけでも法を冒したわけでもない。ならあとは反省して次に活かすことだ」
「本来なら先生が気付きのお手伝いをするもんですが、フラウステッドさんはそれに自力でたどり着いたわけですな。なら、あとはその気付きにどうやって答えを見つけるか。それだけでしょう」
エトナ―は気にすんな、といい。コロンは偉いですな、と続けた。




