きれちまったよ!
ティナの心配を他所にルナは先頭を切って山を下っていく。目の前の障害も今なら粉砕しそうな勢いである。
「AとかBとか、どうでもいいなぁ!」
「ルナちゃん、落ち着け!」
ティナが後ろから抱きつくとルナはそのままティナを背負って小走りで山を降り始めた。すると先頭にはAクラスの上級生が三人歩いている。
「ルナちゃん、避けて避けて!」
「む、む、むーん!」
「る、ルナちゃ、ひょえぇっ!?」
ルナは自分の身体を抱きしめるようにすると蝙蝠の翼を広げる。そしてカティナを足で捕まえるとそのまま高速で滑空し、上級生のいるところを大きく迂回して麓近くの森に着地した。
「これで私達の勝ち!」
「危ないじゃん!無茶しないでよ!」
「空飛んじゃった・・・あばば」
三人はそのまま道に戻ると最初のチェックポイントに到着した。
「勝ち!」
「おお、一年生が最初か!素晴らしい!すごい快挙だ!」
スタート地点で待っていた先生はルナ達が最初に戻ってきたのを見て笑顔を向けた。先生達は基本的に生徒の頑張りをとても喜んでくれる。ルナもさすがに溜飲が下がったのかニコニコとしている。
「ほっほっほ、これはすごいのう!大したガッツじゃ!」
校長先生が小走りでやって来ると三人を祝福してくれた。
「約束通り諸君の授業料半年分は免除とする!」
「「「わぁい!」」」
三人で手を取りあってぴょんぴょんしているとそれから少しして上級生が降りてきた。余裕綽々といった様子だが彼等はおそらくルナに追い越されたとは思ってもいないのだろう。
「ご苦労じゃったの、お前さん達は二位じゃ!」
「えっ?」
「一年生に一位を譲ったのじゃな?優しいことじゃ、やはり上級生はそれくらいの慈悲心が無ければいかんのう」
「え、ええ・・・まあ」
最初こそポカンとしていた上級生は校長がそう言うのを聞いてすぐに取り繕ったような笑顔を見せた。
そして先生たちの死角に入るとこちらを鋭い目線で睨んできた。
「睨んできてるね」
「しらなーい」
「生き延びたー!」
ルナは知らんぷり。ティナもちらりと確認こそしたが同様の態度。カティナは天を仰いでいたので元から見てなかった。
「後日一年生は表彰を行うからちゃんと参加するんじゃぞ」
「はぁい」
ルナ達は校長先生に手を挙げて返事を返すと笑顔で帰ることに。
「あー、よかったぁ・・・これで借金はしなくてすむね」
「おなじく」
金欠組の二人はとりあえず半年分の学費が浮いたことでホッと一息ついていた。
学校までの帰り道を歩く中、ふとルナが足をとめた。
「あ、エトナーさんに声かけてくるのわすれちゃった」
「あとでよくなーい?」
「拗ねるからダメ、ちょっと戻るね」
先に行ってて、と声を掛けてルナは来た道を引き返すことに。そして二人が帰っていくのを見てから道の途中で前を見据えた。
「出てきていいですよ、先輩がた」
ルナがそう言うと土煙が舞い上がり、そこから上級生が現れた。土の魔法を使って姿を消していたらしい。
「よくも恥をかかせてくれたな・・・」
「恥?下級生を脅かして通せんぼしてたのに負けちゃったことですか?」
それは恥ずかしいですよね、ズルいことして負けたんなら。とルナは言うと声を上げて笑った。
「何が可笑しい?俺たちは三年のAクラスだぞ」
「?・・・それならそもそも普通にやって私達に勝てるでしょ?なんであんなつまらないことを?」
「・・・生意気だぞ、一年生」
「実力の伴わない、中身の伴わないプライドなんて・・・つまらないじゃないですか」
ルナは上級生が苛立つのを他所にふつふつと自分の中に燻っていた怒りの感情を引き金に普段解放できていない自身の悪魔としての性格を現した。
「ああAAAAAAA!つまらないつまらない!なんでこんなことするの!いじわるして!邪魔して!わけがわからない!」
苛立ちを募らせる。元々、入学早々に自分を追い込んだあの男のこともそうだ。どうしてみんな、ただ生きている人の足を引っ張るのか?
『本気出したら、おまえらなんか!どうとでもできるのに!それを!それを!我慢してるのに!』
メキメキと背中から蜘蛛の足が伸び出した。怒りが、不満が、今回の事をきっかけにして漏れだしたのだ。
「あ、悪魔化・・・!」
『そんな、ちっぽけなものじゃないよぉ?あなたたちとは違うんだからぁ!』
蜘蛛の足の変化が体に及び、八つの目が開いた。その姿はまさしく・・・。
「悪魔・・・」
『はぁ?なんて?・・・あ・く・ま?』
「あ、あくま・・・さま」
ずいっと顔を近づけると上級生はあっという間に彼女の眼光に体を竦ませた。加護も魔力のガードもない状態で彼女の目を見たのだ。怒りの熱とは裏腹に上級生の魂は凍てつくような気さえした。
『私の頭に石をぶつけた、あんなつまらないことをする奴がいて、それを笑ってみてて!すごく不愉快だった・・・それが上級生のすることかって!がっかりした!』
「そ、それは・・・」
『ううぅぅ、がああっ!』
怒りに任せて叫ぶと上級生はそのまま白目をむいて失神した。
『あ、あれ・・・まだ言いたいことあるのに・・・!』
倒れた上級生を揺さぶって起こそうとしたが全く起きなかった。ルナはあまりの呆気なさに怒りがしぼんでいく気がした。
「・・・つまんない」
怒りを発散する機会があると思ったのに。と溜息をつくと上級生を脇に移動させると木の傍に獣よけの魔法陣を描いてそこに座らせておいた。これならほっといても大丈夫だろう。




