【番外編】 『銀河競駿列伝 ギャロノイド:星を駆けた機械の蹄』
――「走るために生まれた」
それは、誰の言葉でもない。
だがギャロノイドに、言葉など要らなかった。
彼は、機械生命体として誕生した。
人工流体筋肉、チタンカーボン骨格、ニューロ・ナノ脳。
そのすべては、“走る”というただ一つの目的のために最適化されていた。
製造元は、銀河技術集団「ネオ・ブリーダーズ」。
彼らは、肉体の限界を超える“競走生命体”を作ろうと、天文学的な費用と時間を費やした。
だが、プロトタイプのギャロノイドには欠陥があった。
**「感情因子が強すぎる」**と。
走ることへの執着があまりに強く、調教者を振り落とし、観客席に飛び込んだこともある。
スタートの号砲が鳴らなくても勝手に走り出し、ゴール板を蹴り倒したこともある。
誰もが彼を「失敗作」と呼び、デビューを諦めかけていた。
そんなある日、一人の奇妙な女性が現れた。
「コノ子、ワタシガ預カリマス」
――化世ヒカリ。
彼女がギャロノイドの心に“ちくわぶ”を与えた瞬間、すべてが変わった。
「走ル理由、見ツカリマシタ。今ハ、“誰カノ期待ニ応エル”タメニ走ッテイマス」
そして彼はついに、デビュー戦に立った。
【銀河新星ステークス・アンドロメダ競馬場(直線軌道レース・5光秒)】
他の馬体は重力制御された生物型、量子エンジン搭載型など様々。
だが、ギャロノイドはただ“蹄”で走る。
スタート。
ドォンッ!
その瞬間、他馬が瞬間加速ブーストを使うなか、ギャロノイドは“足”だけで加速。
空間をねじるようなそのスピードに、解説者が叫ぶ。
「まさか……馬脚でここまで!? 重力制限区域を突破してるぞ!」
残り0.1光秒。先頭の量子馬クァンタラを追い詰めたギャロノイドが見せたのは、
「銀河ちくわぶステップ」。
――観客席がどよめいた。
「おい、あの歩様……ちくわぶの湯煮込みの回転じゃねぇか!?」
「化世ヒカリ印の“ねじり加速”だ!!」
最後の直線、クァンタラを逆転。
勝利の瞬間、ギャロノイドの瞳に一筋の光が走った。
それは、感情だった。
彼の伝説は、ここから加速する。
・**ネオトーラスダービー(惑星一周型)**で、時空ワープバリアを“ガッツで突破”
・ブラックホールマイルでは、重力曲線を計算し尽くした“ちくわぶ回避ライン”で勝利
・**ヴァルハラ記念(対抗種族レース)**では、テレパス馬に“走る喜び”を言葉なしで伝えた
そして、迎えた最終章。
【宇宙統一クラシック:コスモス・レジェンズ】
相手は、かつて自分と同じ研究所で“完成品”とされたライバル──ゼノフレームΩ。
彼はすべてにおいてギャロノイドを上回る性能を誇り、「走る理由はない。ただ勝つ」と言い切った。
だが、レース直前。化世先生はギャロノイドに語った。
「勝タナクテモイイ。走ッテ、何カヲ伝エテ」
ゲートが開いた。
直線にして10光秒、空間断裂エリアあり、幻影錯乱ゾーンあり。
それでもギャロノイドは走った。
汗ではなく、蒸気を飛ばしながら。
蹄から火花を撒きながら。
心で、ちくわぶを抱きながら。
最後の直線。ゼノフレームΩに並びかけたその瞬間、観客の目には奇跡のような光景が映った。
ギャロノイドが、涙を流していた。
「なぜ……AIに、涙が……?」
いや、違った。
それは冷却液でも、不具合でもない。
走ることへの、純粋な“感謝”の結晶だった。
ギャロノイドは、コンマ0.000001秒差で勝利した。
そしてゴールのあと、静かに立ち止まり、空を見上げた。
「コレガ、ワタシノ、“走リ切ッタ”記録デス」
今もなお、ギャロノイドは走り続けている。
銀河のどこかで、誰かの「走りたい」という願いに応えるために。
そして化世先生の教室では、今でも語り継がれている。
「走ル意味、ワスレナイ。走ル者ハ、皆、“チクワブ”ヲ持ッテル」
俺たちは、いつかまた彼の走る姿を見るだろう。
きっと――それは、ちくわぶが空に浮かぶ日だ。




