第20話(最終話):ちくわぶと、そして先生と
校庭の空は、雲ひとつない快晴。
まるで、俺たちの門出を祝福するようだった。
体育館の入り口には、ひときわ目立つアーチが掲げられている。
「卒業、おめでとう」
その文字を形作っているのは……もちろん、ちくわぶ。
でも、ただの食材じゃない。色とりどりのリボンが巻かれ、まるで花のように整えられていた。
「なあ……あれ、ちくわぶって忘れるぐらい、きれいだな」
「忘れるどころか、一生忘れらんねぇだろ……」
俺たちの学年は、ちくわぶと共にあった。
給食にも、実習にも、戦闘(?)にも、授業にも。
あの担任と、あの味と、あの騒がしさと――。
開式のブザーが鳴る。
厳かな音楽のなか、式は進行していった。
卒業証書授与。名前を呼ばれた生徒が一人一人、壇上に上がる。
「……○○、おめでとう」
「ありがとう、先生」
化世先生は、いつものカタコトで。それでも、ちゃんと感情がこもっていた。
それから、卒業生代表の挨拶。
マイクの前に立つのは、なぜか俺だった。
「えー……」
緊張で声が震える。けど、言いたいことは決まってた。
「俺たちの担任は、宇宙人……だったかもしれない。てか、たぶん宇宙人です。でも、俺たちのこと、すげえ真剣に見てくれてました」
体育館に笑いがこぼれる。
俺はそのまま続けた。
「授業は変だったし、給食も変だったし、存在自体が変だったけど……でも、先生がいたから、俺たちは毎日、笑ってられたと思います」
「“変”ナママ、“良イ”ト思エマス」
マイク越しに聞こえたその言葉に、少しだけ目が潤む。
そして。
退場の際、サプライズとして用意されていた演出が始まった。
天井から、ちくわぶくす玉が降りてきた。
合図とともにパカンと開くと、紙吹雪と共に小さなメッセージカードが降り注ぐ。
【担任ありがとう】
【ちくわぶ最高】
【宇宙に行っても、また会おう】
【校長には内緒で】
【次はちくわぶパフェ希望】
――誰が書いたのか、全部クラスの誰かの言葉だ。
体育館の後方では、保護者や先生たちが笑っていた。
壇上の校長も、呆れ顔で肩をすくめていた。
でも、誰も怒ってなんかいなかった。
最後、全員が見守るなか、化世先生が一歩、マイクに近づいた。
「……皆サン。ワタシハ、地球デ、教師デアレテ、幸セデシタ」
「ワタシニ教ワッタ皆サンハ、誰ヨリモ、アツク、マッスグデ、チョット変デ、トテモ強イ」
「皆ガ未完成ナママ、未来ニ進ムノヲ、誇リニ思イマス」
ちくわぶ型のハンカチで目頭を押さえる田所。
「なんでハンカチもそれなんだよぉ……!!」
そして最後の最後、先生は笑ってこう言った。
「サヨナラハ、言イマセン。マタ、チクワブノ縁デ会イマショウ」
卒業式が終わり、校門を出たとき、空には一筋の光が伸びていた。
見上げたその先に、あの先生がいるような気がした。
ちくわぶのように、不思議で、あったかくて、よくわからないけど最高な日々。
それが、俺たちの高校生活だった。
ありがとう、化世先生。
ありがとう、チクワブ。
さようなら、俺たちの担任が宇宙人だった話。
(完)




