第13話:転校生は時間逆行系男子
「転校生が来るらしいぞ。時間逆行系らしい」
朝のHR前、クラスは謎の情報でざわついていた。
「時間逆行系……ってことは、昨日のことが明日になるみたいな?」
「そんなわけないだろ、SFじゃあるまいし。俺たちの担任が宇宙人で、修学旅行で惑星行ったことを除けば、わりと普通の学園生活だし」
「いや、それもう普通じゃねぇよ!」
騒がしさをよそに、教室のドアがガラリと開いた。
「皆サン、新シイ仲間ヲ紹介シマス」
化世ヒカリ先生が、今日も完璧な直立姿勢で言う。
「彼ハ時間逆行系男子ノ——」
バチバチバチッ!
突然、教室の空気が震え、前方に“空間の裂け目”が現れた。そこから、ひとりの少年が逆再生のように歩いてきた。
「……僕の名前は相良カイ。昨日もよろしく」
「昨日も!?」
「出会いがすでにタイムトラベル……」
「てか自己紹介、逆再生っぽくなかった!?」
彼は、銀髪に近い白い髪と冷静な瞳を持った少年だった。制服はなぜか上下逆に着られ、腕時計は逆回転している。
「どこからツッコめばいいんだよ……」
相良は教壇の前に立つと、まっすぐ前を向いて言った。
「今日は初対面だと思うけど、僕からすれば12回目の登校だよ」
「何周してんだよこの日!!」
休み時間。俺は恐る恐る彼に話しかけてみた。
「えっと、相良くん、さっきははじめましてって——」
「うん、君とは今週3回目の会話になる予定。ちなみに次は水曜日に“牛乳ふいた事件”の話で盛り上がるよ」
「やめて!? 未来バラすのやめてくれ!!」
彼はマイペースに教室内を歩き回りながら、生徒のプリントを勝手に整理したり、配られる前の給食のメニューを当てたりする。
「今日の副菜、ちくわぶ入り麻婆茄子でしょ」
「なぜ知ってる!?」
「ていうか、そのメニューの発想がまずおかしい」
化世先生も若干引き気味に彼を観察していたが、授業中の応答だけは完璧だった。
「化世センセー、今から“ちくわぶの未来と知的進化”の話しますよね」
「ナゼ、ワカッタノデスカ……ソレ、次週ノ研究テーマ……」
「知ってるって言ったでしょ? 僕は“来週の昨日”から来たんだ」
「もはや何曜日だよ!?!?」
彼の周りには奇妙な現象が絶えなかった。紙に書いた内容が過去に消えたり、黒板にまだ書かれていないはずの問題の答えが浮かび上がったり。
昼休み、相良カイは屋上でパンを食べながらつぶやいた。
「この時間軸、まだ大丈夫そうだね……今のところは」
「なあ、その“この時間軸”ってなんだよ。時間軸が何パターンもあるのか?」
彼は少し笑って言った。
「まあ、いつか話すよ。君と本当に友達になれた時間軸なら、きっとそのうちに」
なぜか、その言葉にちょっとだけ胸がざわついた。
放課後。帰ろうとした瞬間、下駄箱に手紙が入っていた。差出人は——相良カイ。
《今日“前に”話せなかったこと。念のため置いておくね。キミは変わらないでいてくれると嬉しい。》
時刻は“午前7時”と記されていた。
「え、これ今日の朝に置かれてたの?……こわっ!」
思えば、彼と話した出来事すべてが、どこか現実離れしていた。だけど、彼は確かにそこにいた。笑っていた。
……そして、翌日の朝。
「……皆サン、新シイ仲間ヲ紹介シマス」
ガラッと開いたドアから、相良カイが現れた。
「はじめまして、僕の名前は相良カイ」
——また、“はじめまして”だった。




