第14話:宇宙競馬とちくわぶの陰謀
「皆サン、本日ハ課外授業デス。目的地ハ——宇宙競馬場」
朝のHR、化世ヒカリ先生が、さらっと言った。
「え? 今“競馬場”って言いました!?」
「宇宙でギャンブルすなー!!」
その声も虚しく、気がつけば俺たちは宇宙船《カケル号》に乗せられ、時空のねじれをくぐり抜け、重力も常識も乱れた世界へ——。
着いた先は、《グラビトン・サーキット》。
そこには馬の代わりに、六本足で走る半透明の生物「ギャロノイド」が光の軌跡を引いて走っていた。
「やばい、速すぎて直線が見えない……!」
「てか馬じゃないじゃん、ギャロノイドって何属!? 地球にいる!?」
先生は双眼鏡で13号ギャロノイドをじっと見つめると、こう言い放った。
「ワタシ、給料ノ1.3倍ヲ賭ケマシタ」
「給料の“1.3倍”!? 借金してるじゃん先生!?」
観客席には、タコ型星人・ゼリー体の宇宙人・ビーム放出族などがワーワー騒ぎ、紙吹雪(なぜか地球製)が舞っていた。
レースが始まる。
「スタートォォオッ!!!」
ギャロノイドたちは光の矢のように飛び出し、コーナーをワープでショートカットし、空中をひとっ飛び。
——しかし、先生の賭けた13号は出遅れた。
「クッ……ワープ失敗デス」
「いや、そう簡単に言うな!」
中盤に差しかかったとき、先生は小声で言った。
「……イチカバチカ、“戦略”ヲ開始シマス」
先生がポケットから取り出したのは、一本のちくわぶ。
「出たな! ちくわぶ戦法!!」
「今度は何すんの!? レース中だよ!?」
先生はちくわぶに謎の宇宙物質をふりかけ、ぐるぐると回し始めた。
「“ギャロノイド誘引素”入り。通称、ちくわぶ・オメガ」
「なんでそんなもの持ち歩いてんだよ!? 一体何目的の研究だよ!!」
——先生、投げた。
スローモーションのように宙を舞うちくわぶ・オメガ。それがギャロノイド22号(現在トップ)に届いた、その瞬間——
「……ククッ!? なんか…う、うまそうッ!!」
22号、急減速。鼻先でくるくるとちくわぶを回しながら、その場でモグモグし始めた。
「食べたーーーー!!」
「負けたくなかったら食うなーーー!!」
その隙に13号が猛然と追い上げ、ゴールラインを突破。
場内騒然。
「優勝、13号ギャロノイド!」
「勝利……デス。ちくわぶ、サスガ」
しかし、問題はここからだった。
宇宙競馬連盟(会長はフワフワ浮かぶアメーバ)の役員がやってきた。
「疑惑の“ちくわぶ妨害”があったとの通報が……」
先生、動じない。
「ワタシハ、公式ルールブック第93章ニ基ヅイテ行動シマシタ。“観客ガ場内ニ食品ヲ投ゲテハイケナイ”トアリマスガ、“教育者ガ戦略的嗜好品ヲ投ゲテハイケナイ”トハ書イテアリマセン」
「ルールの抜け道すぎるだろ!!」
結果:合法判定。
「本日ノ課外授業、“勝利ノ哲学ヲ学ブ”ニ変更シマス」
先生は堂々と賞金を受け取り、ギャロノイドの頭をポンポンとなでると、こう言った。
「次ハ、“ちくわぶフェスティバル・イン・金星”デスネ」
「いや勝手に次決めんな!! 俺らいつ地球に帰れるの!?」
ちくわぶとギャンブルと教育の境界が曖昧になった午後、俺たちは改めて思った。
——うちの担任、やっぱり地球に馴染めてない。




