98 【祝1巻発売!】
本日、祝いの更新です(*´ω`*)
「ジョンソン殿!」
「久しぶりだな。モジョード殿」
師匠に声を掛け、駆け寄ってきたのはモジョードという名前の男の人だ。
彼は魔術師ローブを着ていて、バッヂを見るからに門番に連絡を入れていたこの国の筆頭魔術師なのかもしれない。
「よくぞ来ていただいた。感謝しております。立ち話も何ですから、どうぞこちらへ」
モジョードさんは私たちを案内するように彼の部屋へと入った。
「モジョード殿、一体どうなっているんだ? キリムを送りつけたのも君だろう?」
「ジョンソン殿、キリムを送ったのは本当に申し訳なかった。ああするしか手立てがなかったのです」
「一応、理由は聞いておこう」
「街の入り口に結界が張ってあっただろう? 実はエンドルード教という新興宗教が勝手に張った結界なんだ」
「エンドルード教?」
「小さな新興宗教なんだが、そこの教祖が国有数の魔術師家系なんだ。国の魔術師を辞め、近年教祖として動き出したのを国は監視していたんだが、信者を使って結界を張ってしまった。中から外へ出ることが叶わず、外に連絡も取ることができなかった」
「だが、魔獣を送ることができたんだろう?」
「あの時は町中に魔物が溢れ、国中が混乱している最中に結界が張られようとしていて、咄嗟に一番大きな魔獣だけは国外へ転移させた」
「そうか。他の魔獣はどうなったんだ?」
「なんとか騎士団と魔術師で対処し、今も一部では対処中だ」
「そのエンドルード教の教祖は捕まえたのかい?」
「いや、まだだ。信者を残し、結界の外にいるようなんだ」
人の命をなんとも思わないなんて。
話を聞いただけで私がムカムカしてくる。
「ジョンソン殿のおかげで街の外へ行き来できるようになった。感謝する。」
「そうか。そういう事情があったんだな」
「こちらとしてもキリム討伐の謝礼は行うつもりだ」
「ならいい。僕から言うことはないよ。また何かあれば教えてくれ」
「ああ、もちろんだ。それにしてもジョンソン殿、そちらの女性は?」
「彼女の名はユリア。僕の弟子だ。いいだろう?」
「ジョンソン殿の弟子か。相当に優秀なのだろうな。ユリア殿、ジョンソン殿の修行に耐えれなかったらいつでもここへ逃げてもらっていいからな」
師匠の修行の過酷さを知っているのね!
理解者だわ!
「ありがとうございます。ぜひ、そうさせていただきますね」
私は笑顔で答えておく。師匠は鼻で笑っていた。
「さ、ユリア、戻るよ」
「はい、師匠」
「では」
「ああ、また」
師匠はそう言ってまた転移魔法で自分の部屋へと戻った。
「モジョードさんって師匠の修行が厳しいことを知っているんですね」
「厳しくはないよ? 今でも十分優しいじゃないか。あいつは興味本位で僕の暇つぶしを見学しようと一緒に転移したんだが、魔獣の群れのど真ん中に入ったことに気づいて泣き言を言っていたな」
「誰だって魔獣の群れの中に放り出されたら泣きますよ」
「ユリアは泣かなかっただろう?」
「こ、心の中では泣いていましたよ! 大泣きでした」
師匠は鼻で笑いながら送られてきた書類に目を通しはじめた。
「ユリア、仕事だ」
「仕事、ですか?」
「ああ。レナード殿下の様子を見に行ってくれ」
「レナード殿下、ですか? 私が会いにいっても大丈夫なのでしょうか?」
「これを持って行ってくれ」
師匠は手紙に何かを書いて印を押している。
「では、行ってまいります」
私はランドルフ様を肩に乗せたままレナード殿下の執務室へと向かった。
レナード殿下はまだ九歳だ。
執務室にいるとはいえ、今はまだ勉強中だろう。
レナード殿下の執務室の前はいつもに増して護衛騎士の数が多い。それもそうだろう。ランドルフ様が居なくなって残っている唯一の王子だからね。
「何の用だ?」
「ジョンソン魔術師顧問の手紙を届けに来ました」
扉の前にいる護衛は確認を取ったあと、私は部屋に入った。
レナード殿下の執務室は、以前ランドルフ様が使っていた部屋をそのまま使っているらしい。
もう記憶も薄れかけているのに、不思議と配置や雰囲気はあの頃と変わらない。
「レナード殿下、ジョンソン魔術師顧問の手紙を持ってきました」
「あ、ああ。君は確か、ユリア・オズボーンだったね。手紙を受取ろう」
レナード殿下は小さい頃のランドルフ様によく似ている。
けれど、彼はどこか疲れた顔をしていた。
「レナード殿下、お疲れの様子ですね」
「う、うん。僕は大丈夫。ちょっと執務が立て込んでいたから……」
殿下は手紙を受け取り、その場で封を開けて読んでいる。
私は静かにその様子を見ていると、ランドルフ殿下はレナード殿下の机の上にふわりと降り、尻尾を彼に向けた。
「白猫さん、どうしたの?」
レナード殿下がランドルフ様に視線を向けると、ランドルフ様はレナード殿下に治癒魔法を掛けた。
「白猫さん、ありがとう」
「ニャー」
「ユリア嬢、この猫は君の使い魔なのかな」
「え、ええ。そうです。可愛いですよね」
「うん。触ってもいい?」
「どうでしょうか。彼に聞いてみてください」
するとランドルフ様はレナード殿下に身体を寄せている。
どうやら触るのを許してくれているようだ。
「ふわふわしていて温かい。白猫さんありがとう」
ランドルフ様はさっとまた私の肩に飛び乗った。
「では、私は失礼します。また何かありましたらいつでもお呼びください」
「うん。ありがとう」
レナード殿下はそう言ってまた勉強を始めた。
王太子って本当に大変なのだと思う。
ランドルフ様は幼い頃からずっと王太子として勉強してきたけれど、レナード様は王子教育しか受けてこなかったから今、とても大変なのだと思う。
レナード殿下には頑張ってもらうしかないんだけどね。
私は部屋を出て師匠の所へ戻る途中、ふと考えた。
「それにしても、人前でいつまでもランドルフ様って言うのは変よね。怪しく思われてしまうわ」
「ニャー」
「ルフ様ならどうかな。人前でも問題ないわよね。ランドルフ様、それでいいですか?」
「ニャ」
ランドルフ様はいいよと言わんばかりにすりすりと頬寄を寄せた。




