96
「先生、ありがとうございます!」
キリムの頭は全て落とされ、心臓を剣で貫かれ、ようやく動きを止めた。
「倒したぞ! さすがAランクの魔獣だけあったな」
「ジャンニーノ筆頭、それに君のおかげで無事に倒せることができた。感謝する」
「いえいえ、このくらい問題ありませんよ。ただ、こちら側は魔術師の実力不足、騎士たちとの連携不足など課題も見えてきましたね。騎士たちも団長の指示がなければ全滅していたかもしれない。後ほどまた反省会が必要になるでしょうね」
「ああ、そうだな。とりあえずはお疲れさん」
ジャンニーノ先生がそう話をしていたのは第二騎士団長のエディ・シャルドさんだ。
「ジャンニーノ先生、私はこの後どうすればいいですか?」
「討伐も終わったし、ジョンソン顧問のところに戻っていてください」
「分かりました」
そう言うと、ジャンニーノ先生は転移魔法で私をジョーン師匠の元へと送ってくれた。
私もそろそろ転移魔法を覚えたいんだけど、先生はなかなか教えてくれないんだよね。
師匠に教わろうとしてもまだ早いの一点張り。
私が好き勝手に遠いところへ行ってしまうのを恐れているのかしら? なんて勘繰りたくなるわ。
でも、実際のところ転移魔法は慣れていないと危険な魔法であることには違いないのよね。
転移した先が魔獣の巣の中だったり、崖だったり少し座標がずれるだけで大惨事になりかねないもの。
「師匠、ただいま戻りました!」
「ユリア、おかえり。キリム討伐はどうだったかな?」
「今回は騎士達の補助ということでキリムの動きを止める魔法円と騎士達に身体強化魔法を掛けただけです。私はもっとバーンって魔法攻撃したかったんですけどね」
「ユリアが一人で倒したらやっかみが酷くなるよ」
「そうですね」
「ユリアから見てこの討伐はどうだった?」
「私から見て、ですか? 騎士達はぎこちない動きでも団長の指示に従い、動けていたのですが、魔術師の方は連携が取れていないというか、個人で動いている人が多かったです。それに、なんというか、大きな魔法を使う人がいない感じといえばいいでしょうか……」
私は言葉を濁して師匠に伝えると、師匠は理解しているような素振りをしている。
「どちらも問題はあるけれどね。騎士はブロル君の影響がまだ残ってはいるが、今は魔術師の方が問題か。僕がほとんどの魔術師を辞めさせたからね。まだ育ち切っていない。未熟という一言に尽きる」
「確かに、未熟と言ってしまえば、未熟ですね。あ、ランドルフ様は猫のままなんですか?」
私は師匠の机の上で書類を眺めているランドルフ様に目を向けた。
「ニャー」
「ランドルフは当分猫のままかな。今人間に戻っても政治の道具として利用されるだろうし、なによりもランドルフの命はかなり削られているんだ」
「えっ、ランドルフ様の命が削られている……?」
「王宮襲撃事件を覚えているよね? ランドルフはみんなを守るために命を削ったんだ。人間のまま眠りについても回復の見込みは薄かった。心身共に疲弊しきっていたから。今はまだ身体を小さくしているのがいい」
生命を削ったということは寿命が短くなっているのよね?
どうして。
いえ、きっとランドルフ様はみんなを守るための最善策として動いた結果に違いない。
でもどうして……。
「ユリア、心配するんじゃない。ランドルフが決めた結果だ。それに回復する手立てがないわけじゃない。今はまだ猫の姿のまま休ませているだけだしね」
ジョーン師匠の言葉に私はホッと胸を撫でおろした。
師匠がそう言っているんだし、きっとランドルフ様は回復する。そうよね、きっと大丈夫。
でも、もし、ランドルフ様が人間に戻ったとしたら私はどうなるんだろう。
殺されてから長い時間が経ち、様々なことを経験してきたわ。
そして犯人も死んだ。
今はまだ自分の気持ちがよく分からないけれど、傷もきっと癒えてきているのかもしれない。
「ユリア」
師匠の呼ぶ声にハッとして視線を上げる。
いけない。
自分の世界に入ってしまっていたわ。
「はい」
師匠はそれ以上、ランドルフ様のことは何も口にはしなかった。
「キリムについてなんだけど、この辺りに生息しない魔獣だということは知っているよね?」
「えっと……、確かドライフェル国やベクタル草原国の谷に住んでいたような記憶があります」
「うんうん。奴らは主に乾燥地帯に生息する魔獣だ。それがなぜ突然王都の南に現れたのか」
「不思議ですね。何かあるのでしょうか」
「さあ? それも含めて僕たちが調査することになった」
師匠はそう言いながら一枚の命令書を私の前に浮かび上がらせた。陛下からの命令書でしっかりと印も押されている。
「まずはキリムを調べるんですか?」
「キリムから手掛かりはないと思うけれど、一応、確認するだけはしておこうかな」
私は師匠と一緒に執務室を出た。ランドルフ殿下は私の肩に乗って一緒に移動するみたい。
「ああ、ユリア。これからランドルフはユリアの使い魔として行動するからよろしく」
「使い魔ですか?」
「そうだよ」
「ランドルフ殿下、よろしくお願いします」
「ニャー」
私たちは歩いて騎士団の訓練場へとやってきた。
キリムはというと、訓練場の端に無造作に置かれていた。キリムの置く場所がないため、解体するまでの間、この場所に置かれるようだ。
師匠は何やら顎に手を当てながら考えている。
そして時折、鑑定魔法でキリムの頭や尻尾など見ていた。私が見たところで『キリムの頭』『キリムの尾』程度しか出ないので見てもしかたがないのよね。私には鑑定魔法が向いていないのかもしれない。




