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異世界トリップしても俺TUEEEなんて夢のまた夢でした  作者: 棘田 清棘
異世界トリップしても状況は酷くなるばかりです
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苦悩と超展開

「話したからかな、それとも私の運命が変えられると分かったからか? 今の私はとってもすっきりした気分だ。警察に突き出すでもここで殺すにしろ好きにしてくれ。私はもう抵抗するつもりはない」


 独白を終えたディスティアは床に横たえたままそのように言う。その顔は本人の言うとおりに憑き物の落ちた曇りのない美しい顔であった。


「あぁ、好きにさせてもらう」


 だが、そんなとは吹上には関係がなかったようだ。

 気が付けば吹上が腕を剣に変え、その手をディスティアに向かって振り下ろしていた。


「吹上!!?」


 あまりにも唐突で、俺が止める暇もなかった。

 その剣の先にいるディスティアは、先ほど自分で言った通り抵抗するでもなく静かに眼を閉じ、刃を受け入れようとしていた。

 だが、その剣と化した腕は誰もいない床に突き刺さるだけに終わった。

 吹上が狙いをはずした訳でもなく、ディスティアが避けた訳でもない。元からそこに誰もいなかったかのように誰もいない床へと刺さったのだ。

 ディスティアの能力ではないと思う。

 実際に運命を書き換える能力なら同じようなことは起こると思うが先ほどの顔が嘘だとは思えなかったのだ。

 だが、謎はすぐに解決することになる。

 俺達4人しかいない空間に今まで一度も聞いたことのない新たな声が響いたのだ。


「ティア。好きなようにして良いというのなら君は僕の好きなようにさせてもらうよ。君たちもいいかな? 大丈夫。ティアはもう二度と僕以外の誰かを不幸にさせることはないと誓おう」


 アジア系の顔を、それでも日本人ではないと分かる顔をした男は俺達に日本語でそう喋りかけてきた。

 黒いスーツを着たその男はディスティアを俗に言うお姫様だっこをしたままこちらへと振り返る。


「自己紹介がまだだったね。僕はチェン・ワール。時間操作タイムの能力者だ。手柄を横取りするみたいで悪いけど惚れた女の子をむざむざ殺される訳にも行かないのでね、横から手を出させてもらったよ」


 どこかの貴族のような優雅さでそのように言う。

 ディスティアを殺すつもりも、吹上に殺させるつもりもない俺としては願った通りの展開。しかし、その得体のしれない男の存在に不安を掻き立てられる。


「安心してくれ。僕は誰も傷つけるつもりはない。ティアに傷つけさせるつもりもない。ただ、愛するものを奪いに来ただけさ」


 突然現れたこの男を信じられはしない。だが、こちらは相当消耗している。全員が全力以上の力を引き出したのだ。当たり前だろう。

 相手が本当にSSSランクであった場合、戦う気力は残していない。そもそも万全であって負ける可能性の方が多いのに疲弊したこちらが敵うはずはない。だが、ここで見逃してもいいのかという気持ちはある。


「大丈夫だ。私にはもう何かを犠牲にしてまで成し遂げる事はない。そして彼も純粋に私を欲してるだけさ。私の能力で見た限りの話だが。まぁ、自分の事ながら実感はないがね。勿論私の生殺与奪の権利はお前達にある。死ねと言うのならば私はこの場で死んで見せよう」


「ティア。それは駄目だ」


「ならば死ね」


 3つの意見が対立する。

 言われたとおりに死のうとするディスティア。

 そのディスティアを連れ去ろうとするチェン。

 ディスティアを殺そうとする吹上。

 漫画みたいにラスボスを倒してそれだけで全員ハッピーエンドとはならないものだ。そのことを今すごく実感している。

 そんな思考をすぐに切り替え、考える。俺はどうするかべきなのかを。

 どれが最善で、多くの人が幸せになれる未来なのかを。


「チェン。一つ聞く、そいつを連れていってどうするつもりだ?」


「それは勿論彼女を極普通に愛し、幸せな――って言いたいところだけど僕も彼女のした罪の大きさはわかっている。そして僕もその罪を知って止めなかった。誰かが彼女の暴走を止めるのを待っていた僕も同罪さ。どこか小さな無人島で不便な暮らしをしていくつもりだよ。なに、今までそのための技術や知識も勉強してきたからね。それに僕はディスティアと一緒に居ることが一番だから」


「そうか……」


 その答えを聞いて俺の中で答えが決まった。

 彼女のしてきたことは許されるものではない。しかし、それでも本人がそのことに気づき、反省しているのならやり直すチャンスが有ってもいいんじゃないかと思うのだ。

 甘いし、この選択が間違っていたら多くの不幸をばらまくだろう。

 しかし――。


「行け」


 背を向けてそう言った。


「何のつもりだ?」


 吹上は俺に向かってそう問いつめる。


「何のつもりだと言われても奴を殺すつもりはなし、殺させるつもりもない。元から殺すつもりだったら心配蘇生なんてしないさ。彼女がこれから罪を犯さないと言うのなら罪とともに生きててほしいんだよ。だから俺らの言うとおりにすると言うのなら、俺からはこう言おう。ディスティア、お前は自分の犯した罪を一生反省し続けながら生きろ」


「……とことん甘い考え方をする奴だ。人の善性を信じすぎてるな。昔の俺がこうだったと考えると吐き気がするよ。まぁ、おまえが殺さないのなら俺が殺してやる。だからどけ」


 本当に甘い考えだろう。

 死刑になってもおかしくない。否、死刑にならなきゃおかしいほどの罪を犯した相手に対して反省してるから、その罪と一緒に生きて行けなんて。

 だが、俺は自覚しながらも考えを曲げるつもりはなかった。何故なら俺が憧れたヒーロー達ならこうすると思うから。俺も彼らみたいになりたいと思うから。


「言ったろ? 殺させるつもりもないって」


 俺はいつでも戦闘に入れるように構える。

 そして吹上もそれを見て戦闘態勢を整えた。


「双神凪、感謝する。そしてティアから一言有るみたいだ」


「次元雛にこう伝えろ。1週間後の日本時間14時28分30秒の座標352、443、754、646、885、164、863、189。私が見た未来ではそこにおまえ達の探してたそれがある。これがせめてものお詫びだと思ってくれ」


「……ちょっと待て、そんな急に覚えられない」


 シリアスなシーンをぶちこわしで申し訳ないが、そんな数字の羅列をメモもなしに覚えられる訳がない。

 お前らは世界最高峰の能力を持つ天才集団だが、俺は一般人の枠を外れない程度の能力しかないのだから。

 いや、天才集団と言っても能力についてだから頭の良さには関係ないのだが……。


「大丈夫。ティアの言葉は僕がメモしたから、そこの全部操作オールの子に渡しておくよ」


「チェン。ナイスだ」


「まったく、せっかく僕が真面目に話してたのが台無しじゃないか。まぁ、そんな君だからこそ運命を変えられたんだろうけど。じゃあ僕たちは行くよ。君には本当に感謝している」


 そう言い残して彼らは何の予備動作もなく、消えた。

 時間操作タイム

 それが嘘ではないのなら自分達以外の時間停止をして、そのまま消えたのだろう。

 また、元々ディスティアを助けたときにそのまま消える事ができたはずだ。恐らくは俺らにディスティアを連れていく事を伝えるために一度でてきたのだ。

 そうなると彼はとても律儀な性格だと思える。

 だからこそ信じてみる気になったのかもしれない。


「アリサは離れていてくれ。これは俺だけでやらなきゃいけない問題だ。あいつは俺一人の力で倒す」


「倒すねぇ……。だからお前は前回俺に負けたんだよ。倒すなんて甘い、甘すぎる。殺す気で掛かってこいよ。俺はお前を殺し、そして奴も探し出して殺す」


 俺は周囲の水や空気をたぐり寄せ、奴は両手、両足を変化させる。

 体はお互いボロボロ。

 戦う理由となったディスティアもすでにいない。

 だからここで戦う必要は全くない。それは頭では理解できているし、吹上もそうなのだろう。

 だが、俺らは矛を収めるつもりはなかった。

 理由は色々あるが、一番の理由は目の前の奴が気に食わないから。

 全て終わった後の無駄な戦い。

 何を思うのではなく、ただボロボロとなった身体に鞭を打つ。

 そして俺の生み出した雷と、奴の剣のように変化した腕がぶつかり合った――。

次回は早ければ明日16日。基本的には17日に投稿予定です

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