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異世界トリップしても俺TUEEEなんて夢のまた夢でした  作者: 棘田 清棘
異世界トリップしても状況は酷くなるばかりです
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打ち負かされる現実



「下がって」


 アリサの言葉で正気を取り戻す。

 相手がどんな大物だろうが様々な人を苦しめている現況には違いがない。ならば倒すだけだ。その後に話を聞けばいいだけだ。

 そう考えた俺は後ろに跳ぶ。

 相手の能力が何か分からない以上距離を取り、相手の能力を見極める。つまりは様子見だ。


「展開」


 俺が後ろに下がったと同時にアリサが能力を行使する。

 先ほどの気づかれずに注意を払っていた攻撃とは一変、通路を覆い尽くすほどの様々なものが通路いっぱいに生み出されていた。

 それは石で出来た槍であったり、水で構成される剣。火の玉や鋭さを持った風などというのもある。その全てがディスティアと向けられている。

 だが、そのように攻撃の準備しているうちにディスティアも行動を開始していた。とは言っても手に持ったスマホの様な機械を操作しただけだ。それがどのような意味を持つか分かるのに時間はいらなかった。

 何かしらの音が聞こえたと同時に天井から分厚いシャッターが降りてくる。


「頑丈。でもそれだけ」


 アリサが直ぐに降りきったシャッターを一瞥すると、そのシャッターに手を向ける。それと同時に扉自体が変化し、中心に大きな穴が空いた。

 あらゆるものを操るアリサを前にどんなもので出来たものだとしてもただの壁では役目を果たさない。

 とはいえそこに空いた穴にディスティアの姿は無かった。恐らくはこちらの死角となる部分に身を隠しているのだろう。

 ディスティアを追撃するため、アリサは身体能力を上げるような能力を使う。そしてそのまま普通の人間ではあり得ないスピードで先ほど空けた穴をくぐった。


「知っていたよ。私が姿を隠せば君が追いかけてくるのは。378中345の未来で追いかけてきたからね」


「知っていた。あなたがシャッターの陰に隠れて奇襲を狙っていたことは13個の能力で見ていたから」


 相手の隠れていた居場所を完全に見切り、アリサが拳を振り上げる。それもただの拳ではない。手はドリルの様になり、手の筋肉はアリサの細腕ではあり得ないほど膨れ上がっている。

 そしてその拳が振りおろされたとき、大地を揺るがすほどの轟音が鳴り響いた。


「あぁ、それも知っていたよ。そして私が彼を攻撃すれば君が守ろうとすることも--」


 気がつけばディスティアは再びスマホの様なものを取り出し、いじり終わっていた。そして俺の周りの壁から銃口のようなもの覗く。

 だが、それが火を噴く前に床が大きく変形し、俺を守るように覆い囲んだ。

 その直後に聞こえてきたのは無数の銃声。それも連続で、長く続くその銃声は最早一つの音となっていた。

 どれぐらい続いたのだろうか? やがて音は止み、ディスティアの声が聞こえてくる。


「--君が遠距離と近距離系の能力を同時に使うのが苦手なことも、その結果彼を守る為に君が傷つくことも知っていた」


「……」


 それに答える声はない。

 床が変形した鉄の壁に阻まれ外を見ることが出来ない。そのため情報が音しかなく、周りの状況が分からなかった。必死に周りを探ろうとするもアリサの状況が分からず、アリサが無事か不安にさせる。


「アリサ! ここを開けろ!」


 返事はなかった。

 そのかわり聞こえるのは連続する銃の音と何か機械が動く音。それに幾つもの爆発音、そのほかにも堅いものが周りにぶつかる音等が聞こえる。

 とりあえずアリサは生きている。それは間違いないが、余裕がある状態でもなさそうだ。

 つまりはアリサに能力を解除してもらえる様に頼めず、ここから自力で出なければならない。だが、俺の能力は応用性が高い代わりに攻撃力は低い。一番の攻撃力を持つ雷も鉄を壊すことは出来ないし、逆に自分も危険である。

 ならばその高い応用力でこの状況を何とかしなければならなかった。


「鉄……鉄の弱点……」


 直ぐに思いつくのは熱し、冷やすの繰り返しだ。だが、そんなことをする術が俺にはなかった。

 次に思いついたは錆。

 敵地に乗り込むにあたって用意していた水の入ったペットボトルを取り出す。空気中にいくらでも水があるとはいえ、集めるには時間がかかる。ならば用意してきた水を使うまでだ。

 他に有効なものは塩と電気というのを聞いたことがある。だが塩は手持ちになく、電気も制御ができない以上使うことはできない。

 そう言えば中学校の実験で過酸化水素水というものを使っていた。字面からするに恐らくは酸素を多く含んだ水である。それならば、と水を鉄の壁にくっつけ、空気中から酸素を抜き出し、無理矢理水の中にねじ込んでいく。


「急げ、急げ、急げ!」


 断続的に様々な音が聞こえる。それがアリサの無事を確認できる唯一の手段だ。本来ならばSSSランクを相手に俺程度が心配するのもおこがましいとは思うのだが、何かが俺の不安を駆り立てる。

 壁にしっかりと変化は表れていた。水に触れている部分が茶色くなっており、明らかに錆びている。これならばとトンファーで水の上からぶん殴った。

 その衝撃で水しぶきが飛び、その一部が俺にかかる。そしてその水しぶきがかかった部分に激痛が走った。

 あわてて残っている水で洗い流すと痛みもだいぶ安らいでくれた。


「こりゃ下手に殴れねぇ……」


 先ほどの繰り返しはごめんだ。

 とはいえ能力の使用以外に出来ることがない現状に苛つきを覚える。その苛つきをどうにかしようとトンファーで壁を殴った。

 そして次の瞬間には爆発が起きた。

 考えてみれば当たり前のことだろう。周りから大量の酸素を集めてるのだ。そこをトンファーで壁を叩き、火花を散らせば一気に酸素が燃え上がる。その結果がこの爆発だ。


「だが、好都合……!」


 幸いにも先ほど洗い流したときに体が水浸しになっていた影響か、大きなやけどはない。爆発の勢いでおもいっきり壁に叩きつけられたが動くのに支障はなかった。

 どうやら錆びつかせた部分が最も先に壊れ、衝撃の大部分は外に逃げたみたいだ。

 体が無事だと分かった俺は直ぐに外へ駆け出す。

 大丈夫だ。運はこちらに味方している。

 全てが上手いこと進み、上手く脱出出来たこともだが、爆発により生まれた煙が俺の姿を隠してくれる。そして空気を操作することにより、俺は視界がきかなくとも相手の居場所が分かる。

 集中しきれないこともあり、細かくは分からないが近くに居る人を捜すぐらいなら問題ない。


「嘘だろ……!?」


 だが、現状を理解した俺は予想していた状態とは全く違い、思わず動きを止めてしまう。

 この場には元々分かっていた通りに自分を除き2人居た。だがすでに一人が倒れており、もう一人は立っている。そしてその倒れている人物こそがアリサであった。


「おい、SSSランクだぞ? 何でこんな風に一方的に……、こんな短時間で……?」


 唖然とする。

 アリサの強さは戦ったことのある自分が最も分かっているつもりだ。

 先ほどのSSSランク4人の戦いを見るにアリサが特別弱いわけでもない。それはSSランクの集団が襲いかかってきた時に証明済みだ。だが--。


「ふむ。やはり自爆ルートには入らなかったか。まぁ245通りある中で3通りしかなかったから期待はしてなかったよ」


 アリサが全身から血を流し、倒れている。一方でディスティアはほとんど無傷であった。


「そうそう。何でこんなに一方的に私が勝てるかだったね。確かにまともにやれば8935回戦って13回しか勝てないさ。流石SSSランクだ。身体能力が一般人並の私じゃ動きを知っててもほとんど勝てないよ。だけどここには君がいた」


 その言葉に耳を塞ぎたくなる。

 最後の言葉で全てが理解できてしまった、何があったか全て予測がついてしまった。

 理解した今、自分の周りだけ戦闘の被害が大きいのが分かる。分かってしまう。


「そう。君を攻撃すればアリサは君を守ろうとした。自分よりも君をね。そして最後の爆発。それはアリサにとって完全に予想外な爆発だったから完全にそちらに気を取られたんだろうね。そして至近距離で爆発を浴びる君を守るために全能力を注いでしまった。そうすれば拳銃一本すらまともに防げなくなってしまうってことだよ」


 つまりはだ。全て--


「--俺のせい?」


 アリサがやられたのは全て俺が邪魔だったから。俺が足手まといだったから、俺が情けなかったから……。


「なんで……。何でそこまで守ってくれたんだよ……?」


 俺は元々アリサにとって敵であったはずだ。

 アリサは感情というものを知らずに自発的に動けない人間であったはずだ。それが……。

 アリサは血を流しながらも立ち上がろうとする。しかし、血を流しすぎた影響か、手に力が入らないみたいだ。だが、突如として人間には不可能な動きで立ち上がる。恐らくは無理矢理能力で体を操っているのだろう。


「相棒と言ってくれたから。なんかこう、ドキドキとして、あなたの相棒で居たいと思った。多分これが嬉しいという感情なんだと思う。だから、私が一番最初に感じた感情。これを大事にしたいと思った。あなたの相棒で居られるようにあなたを守らなきゃと思った」


「アリサ……」


 俺が深くも考えずに放った言葉。それをこんなにもアリサは大事にしてくれたんだと嬉しく思う。だから……。


「今は休んで傷を治せ。次元に使った能力とかあるだろ、それを使え。それがアリサに出来る相棒としての役目だ」


 これ以上は無理はさせられない。

 これ以上俺をかばって傷つくところを見たくない。

 もうこれ以上……。


「ふむ。これでは私が悪者の様だな」


「ああ、悪者だよ。俺もお前も」


 ディスティアがその様におどけて言った瞬間、唐突に第三者の言葉が聞こえた。

 そいつはダクトから現れ、ディスティアの頭上から襲う。

 惜しくも避けられ、ディスティアの腕を軽く傷つけるだけに留まった。


「お前は……!」


 俺はそいつの声を知っていた。

 俺が知っている状態に比べ、明らかに慎重が小さかったが、その声は間違いなくそいつだと思わされた。


「っち、不意打ちで殺すつもりだったんだがよ」


「うむ。お主がくるのは私が見ていた8720233通りの道にて一つもなかったのだがな」


「だったらここがその一つ目ってことだ。たった900万だろ? 残りの未来は無限にあるんだ。間違ってても恥ずかしがる必要はない」


 自身に向けられていないと分かっていてもその皮肉は自分を見ているようで、否。自分自身だからこそ苛つく。


「な、なんで……お前が……!」


「死んでいたと思ったからな。君の登場は全くもって想定外だ」


「それはお生憎様」


 突然現れた人物は8、90センチほどしかない背を一生懸命伸ばし、胸を張る。あまりにも似合わないその姿にではあるが俺はそれどころではなかった。

 俺自身もこいつの登場は想定外であり、すでにこの世に存在していないと思っていたのだ。


「吹上鉈欺……!?」


 それはこの世界に元々存在していた俺自身であり、アリサと戦っていたときに俺を庇って死んだはずの男であった。


「よぉ。体を散々弄くり回された借りを返しに来たぜ」


 死んだはずの男は唐突に表れ、言い放った。

ふ、二日遅れ……

次こそは30日! と言いたいところですがこの感じだとまた遅れることになりそうなので1週間後の6/3に更新したいと思います。思っています

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