傲慢な首魁と誤算な状況
い、一日遅れ……すいません……
敵の施設の中。俺とアリサの二人はどんどんと基地の中を進んでいく。だが、どれだけ進んでも何も、誰も見つからなかった。
幾つかの部屋にも入ってみたもののそこにあるのは何語で書かれているのかも分からない研究の資料と、何に使うかも分からない機械だけである。試験管や他のものから感じる雰囲気から恐らくは何らかの研究に使うものなのだろうと予想が出来た。
だが、そこにいた証拠はあるのに一人も見つけられないこの状況が不気味さを醸し出す。
「アリス……。お前等の組織のアジトってこんなに人がいないものなのか?」
「来たことがないからここのアジトに関しては分からない。だけど他の場所に関して言えば異常事態」
「やっぱりか……」
先ほどは戦闘で余裕が無く気づかなかったが、考えてみればミドル兄弟が先制で攻撃出来たのもおかしい。飛行機に乗る際に襲撃があったのはまだ問題ない。あれだけ大きな物を動かすのなら人や金に大きな動きがあるはずだ。これだけ大きな組織なのだからそこに気づき、襲撃したのなら分かる。だが、ミドル兄弟の攻撃は別だ。
あれは丘を挟んで行われた事であった。
こちらは敵の本拠地に乗り込むからと周りを注視していた。だが、丘が邪魔でミドル兄弟を発見することは出来なかった。そうなるとミドル兄弟からも丘が邪魔で俺らを発見する事は出来なかっただろう。
なのに先制で放たれ、俺らを狙いすました攻撃。あれは俺らがあそこに居るとあらかじめ分かってなければ出来ない。
チラリとアリサを見る。
「?」
確かにアリサなら遠距離で情報をやりとりできる能力があるだろう。アリサが組織側のままなら問題は何もないように感じる--が、それはないだろう。
既に次元を置いてきた。そうなれば俺程度ならアリサに一瞬で殺される。一度勝ったあの時は4人で、なおかつ全員が自身のポテンシャルを最大以上に発揮できるメンバーだったからこそ運良く勝てたのだ。俺一人なら文字通り秒殺である。
まぁ、一度信じると決めたからそんな理屈が無かったとしてもアリサを仲間だと信じている。
「アリサ……感知系の能力は使えるか?」
「問題ない」
「んじゃ、いくつか試してくれ」
そういいながら自身も空気を操作し、周りを探っていく。だが、研究にも使われる施設である。安全からか、保管的な意味なのか分からないが密閉され、俺では中の様子が分からない部屋ばかりであった。
「アリサ。俺らの近くに何かこちらを監視するような機械とかはあるか?」
「機械の存在自体から温度、音様々な方法を調べたけど何もない。けど--」
アリサは敵ではない。なら何故こちらの動きを捕捉されていたのか?
俺の予測では日本に居た時の襲撃で何かしらの居場所を探知する機械が付けられたのでは? と予思ったのだが、どうやらはずれだったようだ。いや、次元に付けられた可能性もあるから絶対にあり得ないということはないだろうが、そのように楽観視は出来ないだろう。
だが、次に発したアリサの言葉で考えるのを中断させられることになる。
「私たち以外の人の反応は3カ所。一つは人が多く集まっている場所で、壁の厚さ的にシェルターの中に隠れている。次に下の階にある部屋に一人、何かを探ってる様子。そしてもう一カ所はここに向かってきている。それも一人で」
「何だと!?」
既に組織に所属していたSSSランクの3人は倒している。残るSSSランクのうち次元はこの入り口、他の6人は事前に調べた限りだと自国に居る事が確認されている。
SSSランクの全員の場所が分かっている以上既にSSSランクは存在していないはずだ。ならばこの近づいてきている奴は誰だ?
こちらにはまだSSSランクの一人であるアリサがいるからSSSランク以外だと相手にもならないのは分かっているはずだ。
ならば相手の狙いは何か?
降伏宣言? いや、可能性は無いとは言い切れないがここまでの組織、それも本拠地だ。後ろめたいことをやっている以上そう簡単に降伏するはずはない。
アリサの裏切りは嘘で、味方のままだと思っている? それもない。兄弟の時に裏切ってると相手も予想つくだろう。
様々な考えを巡らせる。だが、答えは出る前にそいつはやってきた。
「○■△◇◎×◇●◇▽□? γβαηλμρπφ? Do you know what i mean?」
見知らぬ女の声が聞こえた。何を言っているか全く分からない。だが、何種類もの言語を喋っていることはイントネーションの違いから分かった。
その女の声はとても透き通り、綺麗であった。しかし、俺はその声が聞こえた瞬間に悪寒が走るのを感じたのだった。
「私の言っていることが分かるか?」
ようやく口に出された分かる言葉。
その言葉に反応したのが分かったのだろう。日本語で言葉を紡いでいく。
「なるほど。お前等が理解できるのはこの言葉か……。この言語は何という名前だったかな? 確か……日本語だ。30覗いた世界で29の世界で答えてくれるとは君は親切なのだな」
しかし、ようやく理解できるはずの日本語もこいつが言ってる事が何一つ分からなかった。
「ふむ。125回中31通りが最初の一撃で死に、3285回中聖剣魔銃兄弟が勝てるのは984通りだから7.43%ほどか……。なかなかに強運だ。これだけではないな。最初の剣と銃を使う傭兵から生き残るのが40%ほど、次の私闘で20%ほど、アリサとの戦いが5%ほど。その他の要因では0.2%の確率で死んでいる。いや、そう思うと本当に運がいいよ、君は」
意味の分からない数字を並び立て、本当に感心したように言うその女。その戦闘とは場違いな態度に少しだけ気が抜けてしまう。
「死角操作、形状操作、真槍操作、光学操作、風圧操作、気配操作」
幾つものの能力によって生み出された風の槍、アリサの直ぐ隣に居たからこそその言葉を聞き取れたが、極小さな声で言っていたため、少し離れている女には聞こえなかっただろう。そしてその風の槍は能力の対象となっていない俺だからこそ、能力の発動したことを知っているのでようやくその風の槍を知覚できるレベルである。
完全に死角から放たれた槍。しかし認識すらしていなかったはずの女は首を傾けるだけで槍を避ける。
「おっと、アリサが起こす7通りの可能性全てに対応出来る動きをしてみたら一番対応しづらい不意打ちであったか。これは危なかったね」
言葉とは裏腹ににやにやと笑うその姿は微塵も危険だと思っている様子はなかった。
それがまた妙に不気味で、恐ろしさを掻き立てる。
「何なんだよ……お前は……?」
思わずそう口にしていた。
急に問いかけられた質問に女は理解できないかのように首を傾げる。その後にようやく言葉が飲み込めたのか頻りに頷く。
「そう言えば名乗ってなかったね。日本人は初対面の人間には挨拶をするというのが一般的だったかな? 本来なら君が挨拶するのが礼儀と聞くけど私は君のことを知っているからね。省いてもいいのだろう。君はこれから延びる13の道の中で8個の道で挨拶してることだし、別にしなくともいいよ。私の自己紹介だったね。そうだな……どれを言うのが一番良い選択か……」
表情を次々に変えていく。俺が何かを言う前に俺の知りたいことや、知らなくとも良いような事まで好き勝手に言っていた。
「そうだね。私の名前はディスティア=マリーゴールド能力を開花させる飴を作り、更なる超能力を目指す組織である《オリジン》の首領だよ。まぁその更なる超能力を目指すというのはこの組織の建前にすぎないけどね」
「なん……だって!?」
軽い感じに言われた事実に俺は固まってしまた。
飴を配布している全てが謎に包まれた会社、それと世界の3分1を牛耳る組織の元締めが目の前にいる少女だということに。
さらに能力を開花させるための飴。俺も舐め、次元も、この世界に存在するほとんどの人間が舐める飴、それがこの組織の作ったものだったら3分の1どころか世界だって支配してもおかしくないその事実に。
「私はこの世界唯一のオリジナルにして11番目のSSSランクの能力者。いや、私の方が早いから1番目? それだと被るから0番目とでも言っておこう」
「SSSランクだと……!?」
「そう。私自身は飴を舐めてないからね、どこの国も認識していないSSSランクの人間だよ」
ディスティアは妖艶な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「そうそう。今まで君は幾つもの修羅場を運良く乗り越えてきたみたいだけど、今回は運良く生き残るというのはないよ。27958通りの未来で27958回私は君に勝利している。つまり君が私に勝てる確率は0%だと言わせてもらうね」
ディスティアが発した言葉。それはいきなりの勝利宣言であった。
NEXT→5/25
今度こそ五日間で更新じゃあ!




