意外な盲点。言語の壁
「ん? この荷物って誰のだ?」
「知らん。運転手あたりのじゃないのかの」
俺たちは飛行機に乗って空の旅をしていた。いくら日本と中国は近い国とはいえそれなりの時間がかかる。
しかし、狭い機内。それも空中を飛んでいるので何をするでもなくただ雑談しているだけであった。
ドォーン。
外から見えるのは既に何度目か分からない飛行機の前で何かが爆発する光景。
最初は一々驚いていたものも何度も見ているうちにだいぶ慣れてきた。
爆発は恐らくは敵の組織の撃ったミサイルが爆発した物だが、この飛行機に何の支障もない。ただ単に爆発で視界が悪くなる程度だろう。
なぜそれだけで済むかだがこの機体に乗っているのはSSSランクの二人。それも一人は防御力が世界最強と呼ばれている次元操作である。ミサイルも飛行機の周りに作られた次元の壁に阻まれて爆発もミサイル自体も飛行機に届いていないのだ。
同行している二人は世界で屈指の力を持つSSSランク。正直言えば俺は足手まといでしかないのかもしれない。だが、言いだしっぺは俺であるし、二人は俺についてきただけである。そんな二人を危険地帯に行かせて俺が行かない事なんてできるはずもない。
「それにしてもミサイル何十発も撃つってことはどれだけ経済力があるんだよ。最高ランクの能力者をアリサ・ビューティーを含めて3人抱えるとか聞いた限り国でもねぇぞ」
「そうじゃな。余裕で世界の4分の一以上の戦力があることを示している。はっきり言ってそんなのが表ざたにならずに存在してるのがおかしいぐらいじゃ。お主はなんか知らんのかの?」
次元がアリサに話を振る。元々アリサは今回の目的の組織に存在していたのだ。何か知っていてもおかしくない。
だが――
「分からない。私はただの兵器。そうやって作られ育てられてきたから」
「作られというのは……?」
次元が恐る恐る尋ねる。
おそらく次元も同じ想像をしているのだろう。
次元も俺もお互いに小説とか漫画をよく読む人間だ。そのくらいは想像がつく。逆に言えば想像しているのが事実ならその漫画や小説みたいな非人道的なことが現実に起きているということなのだが……。
前にアトラクションで組織での彼女の立ち位置について聞いたことがある。
その時彼女は自身に意志はない。感情はないと言った。
感情は必要ないと教えられず、今まで感情がどんなものかを教えられずに育ってきた。
勝手な推測だが彼女がSSSランクという強大な力を持つがために痛みを与えられる存在せず、痛みを知らなかった。そして痛みに伴う悲しみも何か困難なことをやり遂げた喜びも何かを失う嘆きも何も知らない状態で育ってきたのではないのだろうか? その歪んだ状態今まで感情が無いと言っていた原因の一つなのだろう。
「私は試験管の中で生を受けた。そのため親はいない。血縁者もいない。そしてSSSランクの能力があると聞き私は兵器として育てられた。恐らくは空港で襲ってきた者達の中にも同じような人間はいる。彼らと私のちがいは能力のランクが違うだけ。それによって慎重に育てられた私とその他大勢と共に育てられた彼ら。違いはそれだけ」
アリサが予想通りの言葉を口にする。
感情がともらないその声で告げられたのは淡々とした、それでも普通の人にとっては過酷であろう人生であった。
「私は感情が無いと教えられた。だけど貴方に感情があると言われた。貴方は私に感情を教えてくれると言った。私は痛みや恐怖以外にも知りたい。喜びを、悲しみを、嘆きを。もっと色々な感情を知りたい。感じたい」
言葉とは裏腹に感情がまったくともらないその言葉が本気化も分からず、俺はどう受け止めればいいのか分からなかった。
確かに感情があると言った。教えてやるとも言ったと思う。
だが、その時は戦闘によって気持ちが高ぶっており正確な事を思い出せなかった。唯一その時のことをはっきり覚えているのは目の前で真っ二つになった吹上とその生暖かい血の感触だけである。それをなした彼女の言葉を鵜呑みにできないのが俺の今の現状であった。
「まぁそんなもんじゃろうな。SSSランクに生まれた以上まともな生き方なぞ出来ん。良くも悪くもじゃがな」
そしてその言葉に次元がどう感じたのか、その言葉にどんな思いが込められていたのか俺には想像すらできなかった。
「まぁ良いじゃろう。ミサイルも止んだしそろそろ着くころじゃろう」
気が付けば爆発音は止み、外を見ると地上が近づいていた。
「さて、凪よ。これからどうするのじゃ? あらかじめ凪に言われた所に来たのじゃが」
地上に着き俺たちは中国へと降り立った。しかし、不法入国であるため空港に止めるわけにも人里近くにも小型とはいえ飛行機を止めるわけにもいかず、周りにはまっすぐな道路しかない場所に着陸した。
運転手は飛行機の中でじっとしている。下手に外に出たら殺される可能性がある。その点、飛行機の中なら次元の能力による次元の壁が攻撃を防いでくれるので下手なシェルターより安全であった。
「どうするって言われてもなぁ。この世界の俺の手帳に書かれている情報を見る限り敵の本拠地がこのあたりに存在しているってことぐらいしか分からないなぁ。アリサ・ビューティーはどこにあるか知ってる?」
「知らない。私は世界各地の基地を転々としてきたけど本拠地に行った事は一度もない」
あまり期待していたわけでもないがそれでも落胆はある。アリサが知っていてくれたらだいぶ楽になったのだろうが……。
「んじゃ、聞き込みしかないだろう。大丈夫。この戦力なら何とかなっるって」
「なるほどのぉ……。まぁそんな所が妥当であろう」
次元も俺の意図を察してくれたのだがそのようにいる。
敵の本拠地近くで隠密行動がとれなくなるが、それも仕方がないであろう。少しの危険を冒してすべてが謎に包まれている敵の本拠地に行けるのなら安いものだ。
「んじゃ、ちょっと待っててくれ」
俺は空気操作を発動する。
永井先輩直伝の空気を使った周りの探索術。永井先輩みたいに常時展開とかは無理だが俺でも集中すれば出来る。
本家本元の永井先輩の能力に比べて探索範囲も狭いが周りの様子を探るには問題ないだろう。
「よし、あった」
複数の人の感覚。それと同時にいくつかの建物の感覚。端の方しか探知範囲に入らなかったが探知範囲に確かに人里は存在した。
一度で成功したのは運がいい。永井先輩に比べたら探知範囲も正確性も下がるため、何度か場所を移動する必要があると思っていた。
「さて、行くか」
俺はそう口にし、幸先良いと上機嫌で歩き出した。
「○×△◎○□×△」
幸先が良いなどと先ほどまで言っていたがまったくもってよくない。
人がいる所までたどり着くまでは良かった。だが、話しかけようとしても全く言葉が通じない。そもそも俺は中国語は全く分からない。
「くそぉ。漫画や小説ならどこ行っても言葉が通じるのになんでだ!」
「いや、現実じゃからじゃろう。それにしても目先のことにとらわれて完全に言葉の壁を忘れておったな。儂も中国語喋れんしどうするか……」
「△□○□□◎△□」
「◎○□△×□×○◎□△」
中国語なんてモーマンタイとニーハオぐらいしか知らないぞ?
これじゃあダメ元とはいえ敵の本拠地の情報が手に入る可能性もなくなるし、本来の狙いも不可能になってしまう。完全に予想外の事態であった。
「とりあえずあの人に聞いたら答えられる質問になら答えてくれるって」
いつの間にかいなくなっていたと思ったらアリサは先ほど話しかけてきた中国人と話していたらしい。
そこでふと疑問に思う。
「あれ? アメリカ人だよね? 中国語も話せるの?」
「喋れる。英語、日本語、中国語、フランス語、ドイツ語、スヴェーデン語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ポルトガル語、オランダ語、韓国語、ベトナム語は日常会話に問題はない」
世界各地の基地を回っていると聞いていたがアリサの知っている言葉をしゃべれる人としか話していないと思っていた。だが、アリサの方が相手の言語に合わせていたらしい。
何国語喋れるか数えていないがとりあえずすごいのは分かった。
「なんて聞く?」
そうやってアリサが聞いてくる。
そのことに俺はくだらないことを考えていたので少し驚いてしまった。
「とりあえずこのあたりに近づいてはいけない場所とか目立つ建物がある場所を聞いてくれ」
「分かった」
そう言うとアリサは再び中国人の男に話しかける。そうしてしばらくすると首を左右に振りながら「分からないだって」という風に言った。
それから何件か聞いて回り、聞いた限りではいくつかの近づいてはいけない場所があるものの、そこは危険な動物が居るという理由であり関係なさそうに思えた。
つまりは収穫は無いに等しかった。
「うーん。とりあえず聞いた危険な場所行ってみるか? まだ目的が無いよりはましだろう」
もう一つの作戦も諦めかけ、そう提案してみる。やはり大体の場所だけで世界の様々な組織から巧みに隠されてる敵の本拠地を探すのは無謀であったか……。
その時であった。町を出ていった俺たちの目の前に一人の男が立ちふさがったのは。
「◎□△□◎×○◎□×◎△」
「何者か知らないが俺達組織のことを探ってるようだな」
「×◎○□△×○◎□」
「この陳様が直々に殺してやる」
男が喋ると同時に平坦な口調でアリサが通訳してくれていた。そのおかげで俺は確信する。
鴨が釣れた――と。
遅くなって申し訳ありません。
しかし調子も戻ってきてるので今度はこんなに時間がかけずに投稿できると思います。
目指せ! 一週間以内の投稿




