鉄と虚無の意思
非常に気まずい。
いつ殺されるかも分からない緊張の中では手元に設置された銃で的を打つことに集中できず見当違いの方向を撃つ。
「……」
アリサ・ビューティーは無言で、ただ機械的に的を撃っている。
「あのさ……」
そんな状況にどう対応すればいいのかも分からず、俺は少しでもこの状況を改善するために口を開く。
「何で俺のことをねらう?」
それはこの状況を打開するための会話とは間違っているのかもしれない。しかし、それを聞かずにはいられなかった。
転校初日この少女は言った。
『ねぇ、死ぬってどんな気持ち?』
その感情を読ませぬ表情と共にその言葉はひどく印象に残っている。
だが、その日以来それなりの日数が経っているのに何の行動も起こしていない。
最初はいつも次元と一緒にいるから手を出せないのかと思っていたのだがこうして次元が離れた今でも手を出そうとはしていない。
だから不思議に思っている。なぜ手を出さないのかと……。
「命令が有り次第殺せと言われた。まだ殺せと命令がきていないから」
俺は驚く。
質問しといてなんだが実際に返答がくるとは思っていなかった。
「言っていいのか?」
「言うなって言われてない」
その疑問の返答も実にシンプルなものであった。
それで一つ気になることができたので質問を続ける。
「その命令をした組織の名前は?」
「言うなって言われてる」
「その組織はどこにある?」
「言うなと言われている」
「命令した人の名前は?」
「言うなと言われている」
「組織について言えることは?」
「なにもない。組織関係する事柄全て言うなと言われている」
どうやら組織のことをこの少女から聞き出すのは無理のようである。
言われた言われてないならどこかに穴がないかと思ったのだが無理のようだ。少なくともぱっと思いつく範囲では存在していなかった。
そして最後にどうしても聞いておきたいことがあった。
「君の意志は?」
「存在していない」
今まで聞いた質問全てに少女の意志はない。
全て言われたから言えない。言われてないから言えるという二つのみであるからだ。
「感情は?」
「存在していない。なぜならそのように産み出されたから
」
少女が無表情なのは感情を表に出さないのではなく、感情がないから。
無表情ではなく、無感情。
そこに少女の介入する意志はなく、その介入するための意志が無い状態。
空っぽで空虚で何もない。
「なぁ、なんかそれ悲しいよな」
何もない。
つまり信念も想いも願いも存在しない。仲間も友達も恋人も存在しない。怒りも悲しみも喜びもなく、憧れも嫌悪も好感もない。
ただあるのは他人に言われた言葉のみ。
感情が無いというのはつまりそう言うことだ。
「悲しい。その気持ちが分からない」
アリサ・ビューティーは俺がどうして悲しんでいるのか分からないのだろう。なぜなら彼女には悲しむ感情が無いのだから。
「……」
いつの間にかアトラクションは最後のボスの所へと移動していた。
途中の雑魚をほとんど倒せていないので点数はものすごく低いだろう。
そしてアリサ・ビューティーの放った攻撃によりボスは倒され、彼女の方に点数が加算される。
それでもその顔に喜びはなく、無表情。いや、無感情のままだった……。
「凪よ、無事じゃったか!」
アトラクションを降りた俺を迎えたのは次元の心配の声であった。
氷上は何のことか分からず、首を傾げるがすぐにアトラクションの後に出てくるアトラクションの点数が記載されたカードを持って近づいてくる。
「見てください。最高ランクのSSSですよ。世界に影響を与えるクラスですって。ゲーマーの私にかかればこの程度どうってことないですよ」
よほど嬉しかったのか作っていたキャラが崩壊しているのにも気づかず、自慢げに小さな胸を反らして結果が書かれたカードを見せてくる。
「あっ! …………あなたの結果は……?」
素で話しているのに気づいたのかいつも通りの話し方だ。
そして俺は隠すこともないので素直に見せる。
「E……ランク? 逆にどうやったらこんな点数に?」
Eランク。
超能力で言うとないよりはマシ。下から二番目でFランクがないのと同等。そしてそれが存在していないため実質上の最低ランクである。
このランクも超能力のランクを元にしているらしく、得点もないよりはマシ程度なのだ。
アリサ・ビューティーはCで次元はDランクである。
普通はCからAまで言うのだから俺らの低さと氷上の高さが分かるものである。
「さっきのはちょっと気になることがあって集中できなかったのじゃ。もう一度やればSSSランクぐらい行くわ」
どうやら次元は案外負けず嫌いらしい。
そしてそれは俺も同じくこのまま負け続けるのは趣味ではなかった。
「同じく。まともにやればそれぐらいどうってことはない」
「だったらもう一度……」
「「行こうか!」」
そして再びファイアーフレイムの列に並ぶ。
先ほどの失敗を繰り返さないため、今度は次元と一緒に乗れるように後ろで並んでおく。
必死に表情を消しながらもわくわくを隠せない氷上と表情を消す必要もなく、無表情なアリサ・ビューティーの背中を見ながら次元に話しかける。
「さっき、あいつと話したよ」
「……で、何か成果はあったのか?」
「微妙なところだな。あいつは何もなかった」
「どういうことじゃ?」
次元が首を傾げる。
SSSランクは望めば金も手にはいるし、力もある。だからこそ何もないと言うことはよく分からないのだろう。
「あいつに自分で何かするって意志はないし、何かがやだって意志もない。おそらく他の人の命令を聞くなとか言われてなければ何かを命令すれば何でもする」
なんでも、本当に何でも聞くだろう。
嫌らしいことや、人なら生理的に受け付けないような事柄でも……。
「ーーそれこそ死ねって言われてもな……」
「……!?」
人、生き物にはには生存本能がある。
誰だって死にたいとは思ったとしても実行に移すことは少ないだろう。有るとすれば本当に心が壊れるほどのことがない限り。
「アリサ……。一緒に乗る……」
氷上がアリサ・ビューティーの手を引っ張ってアトラクションに乗る。
「何でだろうな? 命狙われてるってのにその選択をする気にならない。そして他にも色々命令すればいいものも命令する気にならないな……」
「……」
「なんていうかさ……。喜びも何も知らないのって悲しいと思う。いや、悲しさや苦しさもないのは良いことなのかもしれないけど、俺はそう言うの全てが有るからこそ今の自分があるわけだ。そう考えると自分がないあいつを見てるとどうにかしたいって思っちゃったんだよ」
自分で思う。
甘い。すごく甘い考えだと。
平和ボケのせいなのか俺の性質なのかは分からないが命の危険をアリサ・ビューティーのせいで有ると聞いてもいまいちピンとこない。
正確にはアリサ・ビューティーの後ろに行る組織のせいなのだが直接的に狙うのは彼女なので結局は狙ってる相手に対してこんな考えなのは甘いのだろう。
「少なくとも儂は賛成じゃ。その考え方は儂も好きじゃからな」
そうやって俺と次元は互いに微笑む。
「ところでじゃがーー」
そうやって前置きしながら目の前を指す。
「あの二人を一緒にしてもよかったのじゃろうか? 儂の知る限り氷上は完全に一般人じゃから危険な様な気がするのじゃが……」
「あっ……」
次元と離れるわけには行かないと思っていたが氷上は何も知らない完全な一般人。
それと人の命を狙うような人物を一緒にさせて良いものか……。
「まぁ、アリサ・ビューティーが自分から行動を起こすことがないから大丈夫じゃね?」
というか、そうじゃないとヤバい。
色々とヤバすぎる。
「そ、そうじゃな。ってことで儂等もファイアーフレイムを楽しむことにするのじゃ」
現実逃避の為に全神経をこのアトラクションに向けた。
それが幸をなしたのか、先ほどよりも得点が延びている。
そして、それぞれのアトラクションの結果は俺と次元がA、アリサ・ビューティーがBで氷上がSSであった……。
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2日後に投稿なんて今回遅れといてできるか? だからこそやるしかねぇだろ!
すいませんでした。
エタりはしないのでどうかよろしくお願いします




