馬鹿と馬鹿の真相
放課後、俺と吹上、そして次元は体育館裏にいた。
全ては決着をつけるため、真実を知るために。
「お前が俺の傷を治した……ってこと……で……いい……――」
「どれだけ俺に治されたって認めたくねぇんだよ!?」
「だってなぁ?」
「お主らは全くくだらないことにいつまで時間をかけてるつもりじゃ?」
次元に怒られてしまった。これもすべて吹上の野郎のせいだ。
「とりあえずだ。半分賭けだったがその通りだよ。肉体変化は自分の肉体を変化させる能力。それの応用で筋肉や血管、皮膚をつなげ合わせた」
「ちょっと待つのじゃ。それはおかしいじゃろ? どうして肉体変化で他人の肉体を変化させることができる? そんなのは聞いた事なぞ?」
「なんだおめぇ? 全く何も話してなかったのか?」
「どういうことじゃ……?」
あれから俺は忙しく、いやそれは言い訳だ。吹上が自分自身だと認めるのが癪で次元にそのことは話していなかった。
話したのは工場で偽物の聖剣、魔銃コンビと闘った事。吹上に助けられ、戦った事だ。
「あいつはこの世界の俺。2年前に行方不明になり、そのまま妹をほったらかしてずっとくらませていたくそ野郎だ」
「そういうこった。くそ野郎は余計だがな。人もいねぇしまぁいいっか」
そう言って吹上は体を変化させ、俺そっくりに――いや、全く同じ姿になる。
次元は同じ姿になった吹上に驚愕をあらわにする。
「もし、先生が本当にこの世界の凪じゃとしたらなぜここでこのようなことをしてるのじゃ? さっさと妹さんに無事を知らせればいいものを」
「できたらとっくにしてるさ。俺は一年前に逃げ出すのが精いっぱいだった。おそらく奴らは俺を追い続けてるだろうな。俺も奴らの秘密を結構知ることになったから……」
そして語りだすこの世界の俺の物語。
俺とこの世界の俺が決定的に違う道を歩みだした原因を……。
「二年前に奴らは突然襲ってきたんだよ。軽く十人はいたと思うし、それも高ランクの者達だ。当然俺は勝てずに気絶させられ奴らの研究所に運ばれた。おそらくは海外の組織だと思うぜ? 明らかに日本人離れした奴もいたからな。そして聞いた話ではスラム街に住む奴をはじめ、俺みたいなニュースになった奴や芸能人まで多種多様だったよ。何よりも驚いたのはSSSランクの全部操作が居たことだ」
SSSランク、次元を入れて十人。
まずは次元の次元操作
俺の前に現れた偽物が名乗ってた聖剣操作に魔銃操作
他にも時間操作
創造操作
空想操作
重力操作
光学操作
虚無操作
そして最後に全部操作
すべてが桁違い。物理法則や空間を歪めるレベルなどと言うチート中のチート。
物語に出てくるとしたらどれも最強の存在として語られるだろう。
そしてSSSランク一人いれば他のSSSランクが何もしない限り世界を滅ぼすことも可能と言われている。
その力は物語では何人も犠牲にしたり、何十年、何百年も必要とする召喚系の魔術と同等のことをするのに趣味という気軽さでできることが証明だろう。まぁ、召喚系魔術と違って自動翻訳やチート補正、性格の判断などは全くできないが……。
だからこそ国は自国にSSSランクが生まれたら好待遇で迎え、国にいてもらおうとするのである。
それがなぜ犯罪組織などに捕まっているのか……。
「どういう訳か分からねぇが捕まってると言うよりも言いなりって言う感じだった。それだけでなく傭兵の聖剣、魔銃兄妹とも契約を結んでいるようだ。それもお前が戦っていた偽物ではない本物のだ」
世界の最高戦力が3人。
これはいよいよ世界が滅亡ということも考えられるようになってきた。
「それだけ集めて何をするつもりなのじゃ……?」
次元が恐れるように言う。
全ての話が本当だったとしたら本気で世界征服も夢ではない。
それだけの力、戦力を集めて、さらには多種多様な人たちの誘拐までして何をやるか想像もできない。いや、想像すらしたくなかった。
「なに、実にどこにでもある発想だよ。人工的SSSランクの育成」
そんな子供の発想のために何人もの人が誘拐され、さらには体中をいじられるという。その中には死んでいった人たちもたくさんいることだろう。
「俺が逃げれたのは完全に運だよ。偶々能力が変化し、奴らよりも早くそのことに気付き、そして偶々その能力が脱出に役に立つ能力だっただけだ。変装もできるし、武器にも変化させられるしな。だけど俺一人が逃げるのが精いっぱいだったよ。他の奴らを助ける余裕なんざ一切なかった」
そう顔を歪めて言う。
物語の主人公は数週間や数か月で脱出し、そして捕まった人たちを味方につけながら組織を崩壊させるか、全員で逃げ切ることだろう。
しかし、現実はそううまくいくはずもなく、結局は一人逃げ出すのが精いっぱいで、組織も無傷のまま。
アニメやマンガみたいにそう簡単に都合よく行けるなど現実ではありえないと知っているからこそこの世界の俺を責めることもできなかった。
「笑いたければ笑えよ。このみっともねぇ俺を、家族を守るために体を張ることもできず、せめて矛先が家族に行かないように身を隠すのが精いっぱいだ」
そう語り顔を歪める。
悔しくって、悲しくって、つらくって、イラつき、嘆き、唇をかみしめることしかできない自分の無力を嘆く。
それが表情を見ることで全てではないかもしれないが伝わってきた。
「どうして俺を助けた?」
それでも質問する。
あの時俺を殺しとけば双神凪は偽物の聖剣、魔銃兄妹にやられ双神凪は死に、捜索を中断することもできただろう。
なぜそれをしなかったのか、最初は明らかに俺を殺すつもりで、そして双神凪の死を偽装する気だった。
しかし、俺は治されてこうして生きている。
こうしてそいつらのことを語るのが危険だと理解しててもだ。
「なに、大した理由じゃねぇよ。お前を殺せば那美が悲しむ。そして俺がそこに姿を現せば最初は喜ぶだろう。だが頭の良い妹は気づくだろうな。死んだのはお前で俺がお前を殺したんだと」
俺はすでに那美に真相を話している。
那美は俺がこの世界の俺と俺がいることを知っているのことになる。そうすれば決して馬鹿じゃない奈美は気づくだろう。
真相に……。
結局は自分のため、那美のために殺さない方が有益と判断されただけのこと。
それ以上の理由はなく、それ以下の理由もない。
「まぁ、昔の少年心を取り戻してマンガみたいにしたかったってのも無きにしも非ずだが……」
この世界の俺は小さな。本当に小さな声でそう言った。
俺はその言葉を聞かなかったことにする。
「だったらなんで今その話をする?」
それが最後の謎である。
なぜ今更この話をするのか……。
この男のことだから俺のことを考えての行動であろう。絶対に裏がある。
その裏を知らなければ安心できなかった。
「なに、簡単な理由だよ。秘密を知ったお前も狙われることになるだろ?」
そう言った時の表情は、今までで一番の笑顔だった。
裏などはなく、純粋な悪意のみの様だ。




