生み出す希望
意識がもうろうとしている。
視界がぼやけてる。
体が熱い。
なのに寒い。
あぁ、これが死の感覚か……。
俺は死の手前だっていうのに非常に冷静だった。
諦めや悟りの境地か、ただ単純に何も考えられなくなっただけかもしれない。
しかしだ。
死ねない。死ぬわけには行かない。
その思いだけが体を動かす。
俺の体に刺さっていたこの世界の俺の足が抜かれる。
頭は非常にクリアであった。
そしておそらくは相手の能力についても把握することができていた。
肉体操作とかそんな感じだろう。
肉体を変化させる能力。
それが別の人間だろうが無機物だろうが変化させることができるのだろう。
全力で殴り掛かった聖剣使いがダメージを受けたのは痛みを受けて反射的に手を引いたからだろう。
だとしたら近接戦は不利、ならば遠距離戦だ。
元々今の状態で機敏に動くこともできないからどのみち――
「――近接戦なんて無理だろう。ってところか?」
「!?」
「なに、俺とお前は思考まで同じみたいだからな。俺が考えそうなことを考えただけだよ。どうやら当たりだったみたいだな」
確かにその通りだ。自分と闘ってんなら自分が相手ならどうするかを考えれば相手の行動が分かる。
だけどそれは相手だけじゃない。なら……
「俺もってか?」
その言葉と同時に体を低くしながら走ってくる。
相手の両腕は剣となっていて、腕を使えない今それを防ぐ手段はない。
だけどすべてが同じならば身体能力も同じ、走りながら逃げれば……。
「残念だが2年前までは身体能力は互角だろうが、俺は色々と死線をくぐってんだぞ? 身体能力が同じわけないだろ?」
ましてや俺は両腕が動かないし、痛みや出血でまともに動けない。
追い風の加速を使おうともそんな状態で傷一つ追っていない自分に勝とうなんて無理な話だ。
ならば近づかれる前に攻撃で倒せばいい。
「オッラァァ!!」
右手に生み出した小規模な竜巻を相手にぶつける。
空気操作は風本来を操るのではなく、空気を動かして風を生み出してるだけなので鋭い風の刃などは使えない。
それでも生み出す段階で竜巻ほどの威力にすればどうか?
竜巻と同じ強さにはならないだろうが人一人を吹き飛ばすぐらいなら十分である。
「それで足を止めてんじゃねぇぞ!」
相手は足からくいを生み出し、それで体を固定する。
巻き上げられた砂などは皮膚を硬質化でもしたのか、傷一つつけられない。
鉄板などのでかいものは当たる前に切り裂かれた。
そしてスピードこそ落ちたものも確実にこっちに近づいてきている。
体を反転させて逃げようとしても足が、体が動かない……。
一度足を止めてしまったことで無理やり動かしてた体を動かす気力も尽きてしまったようだ。
あいつの言うとおりに足を止めてはいけなかったのだ。
今もなお一歩一歩近づきつつある。
竜巻もこれ以上近づかれたら自分も被害を受けてしまう。
相手を倒せるならともかく、これで自分をまきこんでしまえばただの馬鹿だ。
仕方がなく能力を解除する。
「なんだ? 諦めたか?」
「…………」
そうだ。近づけ。
もっとだ、もっと確実に仕留められる位置まで。
相手は腕を振り上げる。
だが十分に射程圏内だ。
俺は傷だらけ、だからこそまだ打てる手がある。
「食らえよ!」
人間の6割は水である。
そして血も水である。
人体の中の水は操ることはできないが外に出た水なら操ることができる。
そして血には鉄分やなんやら含まれている。
ましてや何度も地に這いつくばったからこそ血に泥やらなんやら不純物が混ざっている。
ウォーターカッターという金属加工に利用されてる物は水の力だけで切断してるわけではない。不純物ががあるからこそ鉄をも切り裂くことができる。
水流操作の力で可能な限り高速で飛ばし、空気操作の力で加速させる。
本物のウォーターカッターには及ばないかもしれないがそれでも十分な威力がある。
鉄を切れないまでも十分に変形、傷つけることができるだろう。
それこそが奥の手、俺にとってのジョーカーだ。
「やっぱりな。昔から俺はうそをつけない奴だって言われてたからな。お袋や那美曰く俺の無言は否定ってことだ。警戒しててよかったぜ」
目の前には片手を突き出した状態の無傷の相手がいた。
どうやら曲線を作り力をそらしたらしい。
まだだ! まだあきらめるわけには行かない。
主人公は追いつめられてこそ力を発揮する。
だからこそ俺はまだ正気を疑っていない。
手をクロスさせ目の前に空気の塊を作った。
「それで攻撃を緩和させるつもりかよ!?」
そしてあえてイメージを放棄する。
制御の失った空気は破裂し、衝撃をまき散らす。
俺はその勢いに吹っ飛ばされ数メートルほど飛ばされ、相手も不意にくらった衝撃で吹っ飛ばす。
何度も制御を失ったからこそ思いついたことだ。
これで距離は稼げた。
「往生際悪いな!? まだ諦めねえのか」
「諦めねえよ! お前も知ってるだろ? 主人公はどんな時でもあきらめないし、諦めたとしてもまた立ち上がる!」
そうだ。数年前まで俺とほとんど同じ人生を送ってたなら知っているはずだ。
俺は少年漫画が、その中でも王道バトルが好きだった。
相手は伝説と呼ばれるような敵、こちらは落ちこぼれだろうが戦いの天才だろうが最後には勝つ。
諦めたらそこで試合終了。ぜってぇ諦めねぇそれが忍道。そして最後は根性。
俺の読んできたすべての漫画において諦めた奴はいない。
憧れてるのなら俺も諦めるわけには行かない。
「っち」
俺は吹き飛ばされた衝撃で一番最初に地に這いつくばった場所に飛ばされていた。
そこにはここに走ってきたときに集めてきた水があり、まだ戦える。
水を操り、ぶつける。
「…………分かってんだろ?」
しかし、今の意識を保つのが精いっぱいな状況では相手を濡らすことしかできなかった。
イメージが弱いそれは威力が伴わずに相手を傷つけられなかった。
「分かってるからどうした! 今俺が死んだら那美が、次元が、この世界で俺と仲良くなった人たちが悲しむんだよ! 何より元の世界に戻って友達を、家族を安心させなきゃならねえんだよ!!」
死ねない。
もう二度とリストカットした時のような悲しい顔を両親に、那美にさせるわけには行かなかった。
ここで俺が死ねば兄と同じ姿を持つ俺が死ねば優しい那美は涙を流すだろう。
それは耐えられない。
死んでも死にきれない。
だからこそ、最後の一手に賭ける!
「電撃はお前の十八番だっけな? この世界の双神凪ィ!!」
空気を薄くする。
空と同じ条件を作り、水を集め、上昇気流を生み出す。
気圧が低いからすぐに水は氷となる。
空気を操り揺らしてやって小さな氷同士をぶつけてやれば微弱な電気が生まれる。
昔やった雲の実験。
図書館で調べた雲の原理。
永井先輩に付き合ってもらった実験。
まだ正確な雷の原因は分かっていないが雷が起こる条件を人為的に再現すれば問題ない。
俺のすべてを経験を集め、たらない攻撃力を補うために考え出した一撃。
先ほどの血液を使ったウォーターカッターが奥の手のジョーカーならこっちは切り札のエース。
この世界に来ての全ての経験、知識、協力を得て生み出したもの。
「食らいやがれ!」
蓄積されて電気はやがて地に落ちる。
この世界にいた双神凪の能力と同じ種類の攻撃。
つまりは雷となって。




