表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界トリップしても俺TUEEEなんて夢のまた夢でした  作者: 棘田 清棘
異世界トリップしても平穏な時なんてありませんでした
PR
19/53

力の及ばぬ絶望と困惑

「待て!」


 その声を発したのは意外なことに姿を消す能力者である男だった。


「霧島さん、なんで止めるんです?」


「またあの化物爺が来た。人質は必要だ」


 化物爺とは校長のことだろうか?

 先日の記憶を呼び起こされたのか聖剣使いは露骨に顔をしかめる。

 あの校長が来てくれたってことはありがたい。

 もしかしたら那美が助かるかもしれない。

 その淡い期待を胸に消える能力者――霧島を見る。

 霧島は聖剣使いに近づくと那美を担ぎ上げる。


「逃げるぞ。お前は奴を持って来い。それとその寝てるやつも起こしてやれ」


「うぃっす」


 だるそうにそう返事をすると俺を担ぐためか、体を反転させてこっちを見る。


「な……んでっすか…………?」


 そう言ったのは聖剣使いの男だった。

 咳を一回し、血を吐く。


「何が……?」


 まったく状況が読めなかった。

 どうして聖剣使いは口から血を吐いた?

 いったい何が起きたというんだ?


「霧島さん……」


 聖剣使いがふらつくように数歩進み、体を反転した時に見えたのは背中に刺さるナイフだった。

 柄だけしか見えないが、それはどこかで見たような――否、吹上先生に首に突き付けられた物と同じだった。


「もう……俺らは組織に要らないってことっすか?」


「いやいや、そうじゃない。お前らにはその組織について詳しく教えてもらおうと思ってな」


 そう発したのはさっきまでとは全く違う声、それも吹上先生の声だった。

 工場内を見渡すがここにいて意識があるのは聖剣使いと俺、そして霧島って男だけである。


「急所は外してあるから大丈夫だろ? 組織について語ってもらう」


 口の動きを見る限りそれは霧島って男が声を出してるのが分かる。


「テメェは……誰だよ?」


 聖剣使いは霧島って男じゃないってのを理解してすぐに臨戦態勢に入った。

 すぐに剣を構え、霧島って男の偽物に斬りかかる。

 それは口笛でも吹いてそうな軽い表情と共に上に飛ぶことで避ける。


「舐めるなよ!」


 その態度に聖剣使いが怒りの声と共に腕でなぎ払おうとする。

 しかし、明らかに全力を込めたであろうその攻撃を、足も地面についてない状態で腕でガードするだけだった。


「ぐをおおぉ!?」


 叫びを上げ、聖剣使いが殴った方の腕を抑え転げ回る。

 踏ん張りが利かず、どう見ても力のいれてなかった腕で攻撃を止めたことも不思議だが、攻撃を仕掛けた方が転げ回る事になった方が不思議だった。

 そんなことになるような状況を見たのは漫画やアニメの中だけである。


「なるほど、振動系の能力者か……。腕を高速振動させて威力を何十倍にも上げてたんだろうが逆に仇になったな」


 振動系の能力、つまりは名前の通りの能力なのだろう。

 剣を高速で振動させることができるとするならば擬似的に高周波ブレードにすることでコンクリートだろうが簡単に斬れたってことか……。

 それよりはあの男の能力だ。

 どうすれば殴った奴が傷付く?

 明らかに異常な能力だ。


「死ぬんじゃねぇぞ? お前には双神凪の誘拐を企んだ奴を吐いてもらわなきゃならないからな」


 そうしてダルそうに手をポケットに突っ込むと顔や体が膨らんだり、元に戻ったりを繰り返す

 正直言って気持ち悪いどころかかなりグロい。


「おいおい、そんな見たくねぇって顔すんなよ。先生は悲しいぜ?」


 そう言ってこっちの方を見る。

 先ほどからのグロイ動きが止まると見慣れた顔があった。

 それはこの世界においての担任の先生だった。


「吹上先生……?」


「あぁ、それ以外の誰n「ぐをあぁぁ!!」……うっせえなぁ」


 そう言うと転げまわっていた聖剣使いの首らへんを思いっきり蹴り上げる。

 それっきり聖剣使いは全く動かなくなった。


「まさか……殺したのか?」


 俺にはその動かない姿は死んだようにしか見えなかった。


「まさか、いろいろ情報を聞かないといけないんだ。まだ殺してないぞ」


 ほっとするのもつかの間。

 先ほどのセリフの”まだ”って部分に気付いた。気づいてしまった。


「まだって、情報を聴けたら殺すってことか?」


「結果的にはそうなる可能性もあるってことだ」


 そうなる可能性もある。情報を聞く。

 様々な小説でその言葉を見てきたから分かる。

 つまりは拷問を、それも小説では描写がカットされたような酷いものを行おうとしてるのだ。


「なんで……そこまで?」


「なんでもくそもないよ。こいつらの後ろにいる組織は人体実験なんてしょっちゅうやってるとこだぞ? 実験するための人を買うのに金を惜しまないくせに実験体に麻酔とか打つのはもったいないとかで金を惜しむような組織にいる以上は殺してもらえるだけありがたいと思えって話だ。


 なんでそんなことを知っている。

 吹上先生はそこの職員かなんかだったのか?

 いや、心底嫌悪してるその様子に嘘はない。

 その組織に敵対しているし、潰したいとも思っているようだ。

 だったら……。


「実験体……?」


「その通りだよ。2年ほど前に誘拐されてさ。いやはや、意識が覚醒したままのメスなんて当たり前でさ、何度も気が狂いそうになったよ。いや、気が狂いそうというよりは気が狂ったかな? おかげで絶対に一生能力は変わらないって言われてたのにものの見事に変わったよ」


 普通なら様々な感情が入り混じり、かなり複雑になった表情。

 しかし俺にはその表情から何を考えてるのかわかった。

 俺も同じ感情になったら同じ顔をするだろう。


 怒り、悲しみ、嘆き、殺意、罪悪感、恐怖、切なさ、苦しみ、恨み、劣等感、空虚、軽蔑、無念、不満、後悔、自己嫌悪、恥じ、軽蔑、嫉妬、欲望、焦り、苛立ち、惜しみ、悔やみ、失望、落胆……。

 負の感情が何十種類も、何百種類も入り混じったその感情は見ていて言葉を失った。


「どうせ那美を危険に晒したんだ。やっぱり絶望を味わってもらわないと俺の感情は収まらないよ」


 それは同意だ。

 別の世界のとはいえ、家族を、自分を危険にさらしたこいつを許すことはできない。

 自分を含めて……。


 ”自分”?


 何かが引っかかる。

 何にだ? 自分って言葉にだ。

 なぜ引っかかった?

 それが何かに結び付きそうだからだ。

 何かってなんだ?

 吹上先生の今までの言動に……


「那美を危険にさらした」「2年前に誘拐されてさ」「能力は変わらないって言われてたのにものの見事に変わったよ」「双神凪の誘拐を企んだ奴を吐いてもらわなきゃならないからな」「悪いことを言わないからもう会うな。それがお前のためでもあるし、那美のためでもある」「史上初めて上位ランクを倒したお主と同姓同名、同じ姿の双神凪も闇にのまれたのかもしれんな」「見た目をごまかしてるがあの小僧はまだまだ若い」「あ奴は一年ぐらい前に道で死にかけてる時に拾ったからな」「なんか数年前に行方不明になったって聞くしその凪って子」「お前は何の目的でその姿で居る? その姿でいる目的はなんだ?」


 那美への異常時な執着、2年前に誘拐されたこと、最初の質問。

 一つ一つは大して気にならなかったがすべてが同じ理由だとすると一つの答えが得出てくる。

 那美への異常な執着はなんだ?

 ただ大事なだけだ。

 なぜ大事なんだ? 中等部と高等部の担任で接点はないぜ?

 それ以前に大事になるほどの交流があった。


 2年前に誘拐された?

 数年前、2年前。

 2年前は那美は小学生だ。

 そのころなら双神凪が行方不明になり、超能力で有名なこの学校に進路の変更は十分であった。


 最初の質問はなんだ?

 「お前は何の目的でその姿で居る? その姿でいる目的はなんだ?」だ。

 妹である那美でさえ兄だって言ったのに知り合いであるだけで最初から偽物判定などできまい。


 校長の言った「見た目をごまかしてるがあの小僧はまだまだ若い」という言葉はそのままの意味だったのではないか?

 若く、実は20も行ってない年、それをごまかして教員を務めてる。

 この世界は何でもアリかと思うほど不思議な力が存在している。

 電撃系だった能力は度重なる実験により壊れ、性格と根本的につながっている能力は心が完全に壊れたことにより変わった。

 そしてその能力は先ほど見せた姿を変える能力。

 それにより年をごまかし、戸籍をごまかし、その組織ってやつから身を隠しているとしたら?

 前の能力が電撃系の能力だったのではないか?

 元の名前は……


「双神……凪…………?」


 吹上鉈欺

 ふがみなたぎ

 ふ た がみな ぎ


 たの位置を変えるだけで俺の名前になるではないか。

 いかにも厨二病だった俺が好きそうな発想だ。

 自分で自分を否定しないと決めた俺が名前を捨てるなどあり得ない。

 だからこそ名前を変えなきゃいけなくとも元の名前を残したのではないか?


 つまりは……。


「お前は俺なのか?」


「そうだよ」


 吹上先生、否。

 この世界の俺、双神凪から発せられたのは俺の考えが正しいという肯定の言葉であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ