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異世界トリップしても俺TUEEEなんて夢のまた夢でした  作者: 棘田 清棘
異世界トリップしても平穏な時なんてありませんでした
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ままならない現実

「謝らないでよ。凪は悪くないんでしょ」


 那美は必死に嗚咽をこらえ、それでも目から涙があふれてくる。

 それでも必死に心配させまいと堪えてる様子がうかがえた。


 何をやってるんだこの世界の俺は……。

 兄貴とは何のために先に生まれてくるのか、妹を守れずに何が兄か?

 妹を残して行方不明となった兄に腹が立った。


「凪を探してここまで来たんだよ……? お母さんやお父さんと離れるのは寂しかったし、凪が居なくなってふさぎ込んでるお父さんやお母さんを残してくるのはすごい不安だった……。でもここなら……日本でも最大級の大きさのこの学校なら見つかるかもって思ったんだ。それでもまったく情報がなくって、いろいろ探しても凪の情報はどこにもなかった……。ここにも凪の手掛かりがないのかって諦めかけてたよ。でもね、この前高等部に転校生がやってきてそれが双神凪って名前だって知った時はもしかしたら、って思った。それで今日会ってみて凪だって思った。嬉しかった。何か理由があるのかも、私にいなくなった原因があるなら直そう。もしかしたら記憶喪失かもしれない。色々不安だった。でもすごい喜んだよ。だけどね、別世界から来たって聞いて、私が探してた凪じゃないって聞いて、今までの喜びがなんなんなのかわからなくなった。どうすればいいのか分からなくなった。もう心の整理がつかないよ…………」


 那美の心からの叫びだった。

 その心の叫びを聞き、気づいてしまった。

 妹をほったらかす兄に自分が含まれることを……。


 言い訳ならある。

 自分の意志で来たんじゃない。俺だって必死にやっていた。異世界に来たショックで考える余裕などなかった。どうしようもなかった。抵抗する余地などなかった。

 でもだ。

 それが妹を、那美を悲しませていい理由にはならなかった。


「ごめんね、こんな話を聞かされても君には関係ないよね。ごめんね、ただのやつあたりだから気にしないで……」


 そう言うと那美は反対を向いて走り出してしまった。

 本来はここで追いかけるべきなのだろう。

 だが、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。


「凪よ……」


 俺の様子に心配してくれたんだろうか?

 次元が話しかけてきた。

 だが――


「悪い、次元……。一人にさせてくれ…………」


 ――今の俺は誰にも会いたくなかった。

 幸いなことに少しためらったみたいだったが、何も言わずにいなくなってくれた。


「あーぁ。どうして俺はこんなにもダメなんだよ……」


 自然にこぼれたのはそんな自虐的な言葉だった。

 空を見上げる。

 澄み渡るような青空が広がっていた。

 自分の気持ちなど関係なしに広がる青空がものすごい腹立たしかった。

 完璧なまでにやつあたりだ。

 空に自分の気持ちを考えろなんて言ってもまったくの無駄であろう。

 そんなことは分かってる。わかってるんだが抑えることができない。

 だが、そんな苛立ちとは別に何もやる気になれなかった……。


 そして気づく、またしても家族のことを考えてないことに――。

 一度固く誓った自分を粗末にしないということ。

 それを破りそうになるぐらいには追いつめられていた。

 だが、その最後の一歩を踏み出さないで済んだのは脳裏に浮かぶあの時の両親の姿だった。


 気づけば夜になっていた。

 快晴だった空も赤みがかかり、日が落ちようとしている。


「戻るか……」


 そうやって呟いて体を起こした時だった。

 気づいたのは偶々だった。

 まったくの偶然。体を起こす時に視界の端に捕えたのだ――。

 ――刀を大上段から振り下ろす男の姿を…………。


 俺はあわてて躱す。

 そして俺がいた場所に残されたのは地面に広がる斬撃の痕……。

 学校はコンクリせいじゃないのか? 少なくとも刀で切れるような軟な素材ではないのは確実なはずだ。

 ならばあの刀に……? いや、ここは超能力がある世界。

 だとすれば何らかの超能力で何かをしたのだろう。


 そして男の視線に気づく。

 その眼は攻撃がかわされたにもかかわらずニヤニヤし、俺以外の何かを見てることを。

 俺は横に必死に跳んだ。

 ほとんど癇だけで跳んだがそれが幸いにして攻撃を躱すことに成功する。

 破裂音が聞こえたと思ったら地面には穴が開いていた。

 先ほどの男とは別の手に拳銃を持った長身の男が立っている。


「よくぞ避けたな。それでこそ双神凪ってことだ」


「っだが我ら魔銃、聖剣コンビにはかなうまい。ギブアップするなら今のうちだぞ?」


「魔銃? 聖剣? 知らねぇなぁ、そんなやつら」


 完全なる嘘だ。

 その名前は一度聞いたことがあった。

 SSSランクの傭兵兄妹魔銃、聖剣使いを……。

 なぜそんな有名な人物が俺を……?

 疑問は尽きないが今はどう逃げるかが大事だ。

 必死に逃げ道がないか探す。


 そんなことさせないためか剣使いが駆け出す。

 俺はなるべく銃使いの射線から剣使いの体に隠れるように意識する。

 離れた瞬間に先ほどの地面に穴をあけた攻撃を食らうかもしれないからだ。


 ある能力を維持するのが精いっぱいで他の能力を使う余裕などなかった。

 幸いなのは大振りが多く素人でも何とか躱せる程度の攻撃と、動いてる相手を精密に当てる能力がない相手なことだろう。

 どちらか一方の能力が高ければすでに俺は帰らぬ人となっていた。


「はぁ……。はぁ……。 なんだぁ?てめぇ…………避けるので精一杯か?」


 そのように挑発する剣使い。

 しかしその息はかなり乱れていた。


「そろそろか?」


「あっ? 何がだよ」


「かなりへばってるようだが?」


 別にバトル漫画とかじゃないし口には出さないが聖剣使いのの周りの空気を薄くした。

 それはつまり酸素も薄くなっていることだ。

 いわゆる山の上とかと同じような状態、それでこれだけ動けば呼吸は苦しいし、息も荒くなる。

 そしてその分体力も削られるという訳だ。


 俺は攻撃に出るために一旦距離を取ろうとする。


「自分から距離を開けやがった! 馬鹿か? 俺には魔銃使いの相棒がいるんだよ!」


 その言葉と共に魔銃使いが動き出す。

 銃弾は一般人であった俺の目では捉えられないだろう。

 銃が構えられ引き鉄が引かれるーーが、その銃弾は発射されなかった。


「銃声がするって事で火薬使ってんだろ? 火薬でも湿気ってるんじゃねぇか?」


 空気を操る以外に水も操れる。

 水気がない状態で、超能力は無から生み出すことができないために空気中の水分を使っても普段作ってるような手のひらサイズまでしか作れない。

 それでも銃弾を濡らすぐらいは余裕で出来る。


「テメーちゃんと武器の手入れしやがれ!」


「してるつーの! あいつが何かしたんじゃねぇのか?」


「つかえねぇなぁ」


 聖剣、魔銃のコンビが喧嘩を始める。

 これは予想外だったが好都合である。

 今のうちに校舎内に入って隠れる。

 いくら体力や弾丸を湿らしても武器を持った二人に勝てるか分からない。

 それならば助けを求めるか、警察にでも行った方が確実だ。


「おい、待ちやがれ!」


 今更逃げるのに気が付いても既に遅い。

 俺は屋上の扉に手をかけていた。


「ッ!?」


 逃げられると確信した時に背中に強烈な痛みを感じる。

 そして体に力が入らずそのまま倒れる。

 倒れる時に頭を打ったのかかなり痛い……。

 何が起こった?

 混乱しながらもなんとか首だけ動かす。

 そしてそこには今まで存在してなかったスタンガンを持った3人目の男がいた。


「テメーらしっかりしろよ。大事な実験体が見つかったってのに逃がすところじゃねぇか?」


 考えてみれば3人目がいることに気付いても良かったはずだ。

 屋上の入り口は一つのみ。

 だったらいくらボーとしてたとしてもさすがに武器を持った男には気づいたはずだ。

 おそらくは3人目は姿を消すとか瞬間移動とかそっち方面の能力者だろう。

 今更気づいたところで遅い……。

 おそらくはどこかに連れて行かれるか殺されるかのどちらかになるだろう……。


「テメー等さっさと運びやがれ」


「「へい!」」


 聖剣、魔銃コンビが近づいてきた。

 実験体、おそらくはこの世界の俺が行方不明になった原因か?

 色々疑問があるが逃げないと……。

 だが、体が動かない……。


「俺はここで終わりか……」


 気づけばそんな言葉が口から洩れていた。

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