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第二話 スカウト

「ううむ。今日も平和だ」

 ワイルとナイブを救出した翌日。

 俺は今日も平和な村を歩いて回る。


 一応俺は村の衛兵だが、この村は争いごとなんて起きないし、魔物も森からは出てこない。


 そのため、今日も一日、歩いて回って終わりそうだ。


 そんな暇な時間を過ごす俺だが、暇であるが故に、色々と考え事をする。


 たとえば、最近は魔物の動きが活発であることとか、だ。

 昨日ワイルとナイブは村の大人たちに何があったのか色々と聞かれていた。


 ワイルは迷って森の奥へと入ってしまったと言ったが、普段みんなが入るところより奥であるというだけで、あそこはまだまだ森の浅いところだったはずだ。


 それなのに魔物に襲われた。これはひょっとすると、魔物が増えてきているのかもしれない。


 魔物の増加。それは、とあるおとぎ話を彷彿とさせる。


 魔王。魔より生まれし存在の王。千年に一度生まれるという、強大な存在だ。

 魔王が生まれると、魔物が増えて活発になると言う。


 ひょっとすると、世界のどこかで、すでに魔王が生まれているかもしれない。

 しかしその場合、対となる存在も生まれているはずだ。


 勇者。神の加護を受けし存在。生まれつきだったり、後天的に勇者になったりと様々だが、一つだけ決まっていることがある。


 それは、魔王が生まれれば勇者も生まれる、ということだ。

 ……まぁ、その逆もまたしかり、だが。


 ここ最近、勇者が生まれたという話は聞いたことが無い。

 この数年はこの村にいたが、にしたってカインさん辺りから情報は仕入れている。

 それでも聞かないということは、可能性は二つ。


 一つ。すでに勇者は生まれているが、誰かがその存在を隠している。

 二つ。勇者は未だ生まれていない。


 このどちらかだろう。勇者が生まれれば大抵すぐに周知されていたが、今回は違うのだろうか?

 俺は見回りをしながらそんなことを思う。


 と、そんな時だった。俺は、村の入り口の方がざわついていることに気がつく。


「——、——」

 何を言っているのかはわからないが、甲冑を着て、馬を連れた、騎士らしき者がいた。


 騎士の相手は村長がしており、横にはカインさんがいた。

 カインさんはあくまで聞いているだけで暇そうなので、俺はカインさんに何が起こったのかを尋ねる。


「カインさん。何かあったんですか?騎士みたいな人が来てますけど……」

 俺は改めて騎士の姿を見る。鉄でできた鎧は、体の大部分を覆っているが、関節などは黒いシャツが見えている。


 また、頭全体を覆う兜をかぶっているため、人相はわからなかった。


 デザインこそシンプルだが、この村に来るこんなデザインの騎士は、ほぼ確実に、セントラル王国の騎士だろう。


 この村は、端の方とはいえセントラル王国の領土だ。

 何かが起こったことは確実だが、セントラル王国の騎士がこの村に来ることはおかしな話ではない。


 俺がそこまで考えた時、カインさんが返事をする。

「ああ、ヤマトか。いやな、最近魔物が活発になってきているとかで、王国が人材育成に力を入れ始めたんだとよ」

「人材育成?」

 俺はカインさんの言葉をおうむ返しにする。


 確かに魔物の動きが活発になってきているし、それで人材育成に力を入れるのはわかるが、どうしてまたこんな村に?

 俺がそんな疑問を持つと、カインさんが説明してくれる。


「ほら、王都には勇者学院だなんてものがあるだろ?どうやら、世界中から人材を集めて、次(・)の(・)勇(・)者(・)を(・)作(・)り(・)出(・)す(・)つ(・)も(・)り(・)ら(・)し(・)い(・)」

「……は?」

 カインさんの言葉が信じられず、俺は間抜けな声を出す。


 次の勇者を作る?もしかして、国はすでに魔王が復活していると考えているが、勇者がまだ見つかっていないのか?

 それならば、この行動にも納得がいくというものだ。


 その時だった。騎士の背後から、さらなる集団が登場する。

「一応伝令使を向かわせたが、少しばかり早くついてしまったな。突然すまない村長。私は——」

 その先頭の人物は、馬から降り、兜を外して言う。

 俺は、その人物を知っていた。


 いや、多少この国のことを知っている者なら当然だった。

 この国の騎士団の騎士団長であり、世界最高の騎士とも称される英雄——


「セントラル王国騎士団。騎士団長。ルクセリア・シュヴァリエと申す」

 亜麻色の髪で端正な顔を包んだ男はそう言った。



 続けて騎士団長は言葉を続ける。

「伝令使からも伝えてもらったと思うが、今国は、新たな人材を求めている。勇者学院に入学し、新たな勇者となる者を探しているんだ。だから今、騎士団の半数が国中で新たな人材を探していてね。心当たりはないだろうか?」

「人材、ですか……」


 騎士団長の言葉に村長が困る。当然だ。この村は何も無い。争いごともないが誇れるものも無い。そんな村に、新たな勇者となれるような人材がいるはずもなかった。


「ううむ……。心当たりはありませんなぁ」

 村長も候補を絞り出せず呻く。

「そうか。ならば仕方ない。お騒がせて悪かった。我々は次の村へと向かうのでここで」

 再び騎士団長が馬に乗ると、騎士団は踵を返そうとする。


 騎士団長自身、あまり期待はしていなかったのだろう。

 その時俺は思った。もしもすでに魔王が復活しているのに、勇者が見つからなかった場合、人類はかなりの危機に追い込まれるだろう。


 最終的には勇者が現れて魔王を倒すかもしれないが、それまでにどれほどの被害が出るだろう?

 当然、この村とていつまでも平和とは言えない。


 俺は人間じゃない。かつては魔王と呼ばれた存在だ。

 けれどこの身は、一度勇者に救われた。

 長い長い孤独から救われた。

 

 そんな俺が、我が身可愛さに人類の危機を放っておいていいのか?

 答えは否だ。


 そこまで考えた時、俺は手を挙げていた。

「待ってください」

 俺はそう呟く。

「何か心当たりがあるのか?」

 俺の呟きを拾った騎士団長が振り返る。


「俺が、その人材に立候補します」

「ヤマト……!?」

 側で聞いていたカインさんが驚く。


「……君はヤマトと言うのか。それで、君にはその価値があるのか?」

 騎士団長の目が、値踏みをするものに変わる。

 新たな勇者を探すのに、有象無象の相手をしていられない。

 そういった目だ。


 だから俺は、シンプルなやり方で認めさせることにする。

「騎士団長。俺と試合してください。俺があんたに勝てば、その価値はあるということでしょう?」

 俺は、騎士団長を指差して笑った。


「騎士団長。必要ありません。もう行きましょう」

 騎士団長のすぐ側にいた騎士が言う。

「この子供からは魔力がほとんど感じられません。おそらく一般人レベル。意味は無いかと」

 人を魔力量だけで判断するなど、酷い奴だ。まぁ、魔力無しで勇者になれるかと言うと、そう甘くはないのだから、正しいとも言えるが。


 しかし騎士団長はそう判断しなかった。

「いや、良いだろう。何故か君は非常に気になる。君と試合しよう。なんなら、何本かやって、君が一本でも私から取れば、君を学院に推薦しよう」

 そう言って、騎士団長は馬から降りる。


「言質は取りましたよ?早速やりましょうか」

 俺と騎士団長の試合が始まる。









 村の真ん中、何も無い広場で俺と騎士団長が相対する。

「本当に真剣でやる気かい?何か別の、例えば木の棒でも……」

 騎士団長は、腰の剣を抜きながらもこちらを心配する。


 騎士団は言うなれば遠征の途中であるため、真剣しか所持していない。

 また、この村も、俺の持つ剣はあるが、木剣などは無い。

 そんなものは、仕事には必要無いからだ。


 そのため俺は、真剣での手合わせを提案した。

「俺は構いませんよ。そちらは鎧ですから、死にはしないでしょう?」

「ほう……?」

 俺の言葉に、騎士団長が引っかかる。


 俺は今、俺にあなたの剣は当たらないと言ったに等しいのだ。

 騎士団長ほどの人間からすれば、それは侮辱に近い。


「当てる気は無いが、それでも恨むなよ」

 騎士団長が剣を構える。

「気にする必要は無いですよ」

 俺もまた、自身の剣を構える。


「行きます!」

 俺は、勢いよく駆け出す。

「正面からか!それで勝てると思うなよ!」

 騎士団長が叫ぶ。突っ込んではこない。おそらく彼の剣は、“待ち“の剣。


 相手の攻撃をいなしたり防いだりして、できた隙を攻撃するタイプだ。

 だがしかし、それは確実に相手に反応ができるからこそ輝く剣だ。

 意表を突く攻撃に弱い。


 騎士団長との距離が一メートルほどになるかと思われた時、俺は呟く。

「封印解除。五%」

 途端、俺の体から魔力が噴き出す。


「なっ!?」

 突如として魔力が噴き出し、さらに加速した俺に、騎士団長が驚く。


 俺は跳び上がり、魔力を剣に纏わせる。

「【降雨大征】」

 魔力によって、重く鋭くなった剣は、雨が降るが如く地面に向かい、騎士団長を襲う。


「ぐうっ……!重い……!」

 両手で剣を持ち、俺の攻撃を耐える騎士団長。

 その顔には、わずかに焦りが見て取れた。


 とはいえ、流石に世界最高の騎士。この程度ではやられはしなかった。

「こ、のっ!」

「くっ……!」

 騎士団長は力を込めて、無理矢理俺を弾き飛ばす。


 並大抵の魔物なら、あれで真っ二つだが、世界最高の騎士は伊達じゃないということか。


「ふぅ……。流石に少し驚いたよ。まさか魔力を隠していたとはね。あまりにも自然でわからなかったよ」

 すでに騎士団長は落ち着きを取り戻していた。

 俺が魔力を隠蔽していたと思い、その自然さを褒める。


 ……まぁ、自然も何も、ついさっきまでの俺は、本当に一般人程度の魔力しかなかったのだがな。

 そんなどうでもいいことを思いつつ、俺は再び騎士団長に斬りかかる。


「さっきは驚いたが、もう崩されないぞ!」

 騎士団長が叫ぶ。そしてその言葉は正しかった。

 

「【飛行刃】」

 俺は剣撃に魔力を乗せて、飛ばす。

「ふっ」

 しかし、たったの一振りで魔力の刃は弾かれる。

 しかしそれはただの牽制。本命は俺自身!


 騎士団長が魔力刃を弾くと同時に、俺は騎士団長の脇腹を狙う。

 しかし、剣を振るう俺の手に、突如として鈍い痛みが走る。


「甘い!」

 騎士団長が、剣の石突で俺の手を殴ったのだ。それにより、俺の攻撃は止められた。

 そして、騎士団長は俺の腹目掛けて蹴りを繰り出す。


「くっ……!」

 どうにか俺は剣の腹で蹴りを受け、防御する。

 少し距離を離された。体勢もあまりよくない。


 それでも、俺は無理矢理攻撃に転ずる。

 斬る。防がれる。防御する。斬る。防がれる。防御する。


 何度も何度も同じことを繰り返す。

 何度も何度も、何時間も——






 試合が始まって、数時間は過ぎた。

「はぁ……。はぁ……。いったい何なんだ、君は。どうしてまったく疲れが見えない!」

防御に専念しているとはいえ、全力で自身を狙ってくる攻撃を、頂点に近かった陽が、地平線に近づくまで凌ぎ続けたのだ。


 さすがの騎士団長も、剣に疲れが見え始めた。

 俺は不死身だ。力を封印されて尚、それは変わらなかった。

 そしてその不死性は、スタミナですら無尽蔵のものにする。


 故に俺は、何時間も、何日も、何週間も戦い続けようと、疲れることは無い。

 あまり力を見せずに勝つために、スタミナの多さでの勝利を狙ったのだ。


 そしてもう、その時は近い。

「まだまだ行きますよ!」

 俺は試合開始時点とまったく同じ速度で騎士団長に突っ込む。


「く、この……!」

 騎士団長は俺の攻撃を防ごうとする。

 その時だった。


 今までは剣を弾いて攻撃を防いでいた。

 俺を殺さないようにするための配慮だろう。

 だがしかし、疲れた頭は判断を鈍らせた。


 騎士団長の剣が、俺自身に振るわれる。

 回避はできない。いや、俺にはする気が無い。


 故に騎士団長は、焦る。

「まずっ——」

 防(・)御(・)を(・)忘(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)に(・)。


 騎士団長の顔に、赤い液体が飛び散る。

「これで、俺の勝ちですね」

 俺は左腕で剣を受けながら、騎士団長の首元に剣を当てた。


 刃が腕に食い込んで、今にも取れてしまいそうだ。


「——馬鹿か君は!試合で腕を無くしてどうする!」

 我に返った騎士団長が、すぐに俺を叱る。


「衛生兵!早く!彼に手当てを!」

 衛生兵を呼び、俺に手当てを受けさせようとする。

「それなら不要ですよ」

「は?」

 俺が手当てを断ると、騎士団長が振り返る。


「ほら、この通り」

 俺がそう言うころには、すでに傷が塞がりつつあった。

「これはまさか、スキル、か?」

 騎士団長が尋ねる。


 スキル。それは生まれつき、あるいは後天的に神から人に与えられる『祝福』。与えられること自体が稀であり、その能力や与えられる数も様々である。


「はい。【超再生】というスキルで、どんな傷も死なない限りすぐに治ります」

 俺は騎士団長に答える。俺のこの体質はスキルなどではない。しかし、スキルと言って差し支えない能力ではある。


 故に俺はスキルを持っていると偽り、価値を示した。

 全力を出せば騎士団長に勝つことは容易いが、それはあまりにも人の力を逸脱している。


 そこそこの力に加え、スキル持ちということにしておけば、少なくとも無視はできない。

 その程度に評価を抑えることができるはずだ。


「……魔力量、隠蔽の技術。剣の技術も申し分無い上にスキル持ち。これは確かに、価(・)値(・)が(・)あ(・)る(・)」

 騎士団長が呟いた。

「なら……!」

 俺は期待をもって尋ねる。


「ああ、私は一本取られた。約束は約束だ。君を勇者学院に推薦しよう」

「ありがとうございます」

 笑う騎士団長に俺は礼を述べる。


「となると君を、王都に連れて行かなくてはならないな」

 騎士団長が呟く。

 王都か。この国の王都は、二十年ほど前に行ったきりだ。


 十年ほど前に王が変わったらしいが、詳しい話は知らない。

「明後日、できれば明日にはここを発ちたい。それまでに準備をしておいてくれ」

「かなり急ですね!?」

 騎士団長の言葉に俺は驚く。


 そこまで急を要することではないはずだが、何故そこまで急ぐのだろう。


「あー。学院の試験が一週間後なんだ。ここから王都まで、全力で飛ばせば五日で着く。だが間に合わなければ、学院に入れるのは一年後だ」

 と、騎士団長が事情を説明する。


 なるほど……。それは確かに急がなくてはならないな。

「わかりました。すぐに準備します」

「ああ、と言っても、必要なものはだいたいあちらで揃う。どうしても持って行きたい物だけ用意すればいい」

 そう騎士団長は説明した。

 

「はい。それじゃあ俺は準備をするので」

 そう言って、俺は広場を後にしようとする。

「少しいいか?」

「……なんでしょう?」

 しかし、すぐに騎士団長に呼び止められる。


「君はさっきの試合。本気でやっていたか?」

 騎士団長の顔が真剣なものになる。

 どうやら、俺がまだ余力を隠していると怪しんでいるようだ。


 とはいえ、全てを話すことなどできようもない。

 故に俺はこう答える。

「別に、使わなかった手札があるというだけですよ」

「……君を推薦する理由が一つ増えたな」

 騎士団長は、息を吐きながらそう言った。

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