第三話 入学試験①
翌日
俺は朝早くに起きて、昨夜用意しておいた旅支度を持って家を出る。
俺が村の入り口まで歩くと、そこには騎士団長とカインさんがいた。
「おはようヤマト」
「はい、おはようございます」
カインさんの挨拶に、俺も挨拶を返す。
「用意ができたみたいだな」
少しの荷物だけを持った騎士団長が、俺の姿を見て準備ができていることを確認する。
「はい。持っていきたいものだけですから、これで全部です」
俺は、肩に下げたバックを見せて言う。
「それにしても」
カインさんが呟く。
「お前にあんな力があったとはなぁ。まったく、水臭いじゃないか」
カインさんが俺の力について触れる。
見せてしまった以上は説明しなければならない。
しかし本当のことを言うわけにはいかない。
となると——
「すみません。旅をするには力を隠している方が便利で。いつかは話そうと思っていたんですが」
と、俺は嘘の説明をする。
カインさんには恩がある。路銀が尽きて困っていたところを助けてもらった。職も、住むところも、色々なものをもらった。
いつか話そうとしていたのは本当のことではある。
ただそれが、しばらく先にはなりそうだが。
そして俺は、あることを思いつく。
「そうだカインさん。子供たちはまだ、俺がいなくなることについてよくわかっていないかもしれませんから、よろしく言っておいてください」
と、俺はカインさんに頼む。
子供たちもあの試合を見ていたが、それでも俺がこの村を離れるかどうかまではよくわかっていないはずだ。
「まじかぁ……。人によっちゃぁ、泣く奴もいるぞ?」
カインさんが頭をかきながらぼやく。
「はは。それくらい思ってくれてたらいいですね」
ないとは思うが、そうだといいなと俺は笑う。
「本当なんだがなぁ……」
カインさんが再びぼやく。
「ま、なんにせよ、だ。これは貸しだな。商人として、いつか取り立てるとしよう」
と、カインさんが笑う。
「王都に来たら何か奢るくらいはしてあげますよ」
カインさんは商人だ。仕事で王都に来ることもあるだろう。
その時は、俺が王都を案内するのもいいかもしれない。
「そろそろ行こうか」
騎士団長が俺に呼びかける。
「はい」
俺は端的に答え、カインさんに背を向ける。
「馬には乗れるか?」
騎士団長が俺に尋ねる。
「はい。旅をしていたので、そこで」
「ならいい」
俺の答えに、騎士団長が満足気に笑う。
「元気でな、ヤマト」
俺と騎士団長が馬に乗ると、カインさんが言う。
「はい」
俺は首だけを振り返り、笑顔でそう答えた。
「それじゃあ行くぞ!」
騎士団長が馬を出発させる。
俺も馬を操り、それについていく。
村の入り口で、カインさんは俺たちが見えなくなるまで見守っていた。
五日後
俺たちは無事に王都まで辿り着いた。
入り口では身分確認の列が並んでいたが、騎士団長のおかげで簡単に入ることができた。
「これが、王都……!」
俺は、二十年ぶりに見る王都の景色に感動する。
記憶に残っている部分もあるが、やはり街並みが変わっている。
城壁に囲まれた、石造りの街。活気だけは、二十年前とまったく変わっていない。
俺たちはひとまず、騎士団の厩舎に馬を返しに行く。
騎士団の本部は王都の中心からやや外れたところ、王城のすぐ近くにある。
セントラル王国の王都にはとある特徴がある。
それは、王城を中心として、四つの重大施設が四方を囲んでいることだ。
一つ目は騎士団本部。ここが今俺たちのいる場所だ。
二つ目は勇者学院。様々な国から人が集い、切磋琢磨する学院。
三つ目は賢者機関。この国のあらゆる魔術が研究されていると言われている場所。そこのトップの魔術師は賢者と呼ばれるらしい。
そして四つ目は冒険者ギルド。世界を旅し、様々なお宝や魔物を探し求める冒険者たちが集う場所。
お宝や魔物の素材の換金もおこなっており、時に経済の中心点となる時もある。
この四つが、王城を囲う四つの重大施設。
俺はそのうちの一つ、勇者学院に入るのだ。
馬を厩舎に返した後、騎士団長が言う。
「さて、今日はもう、君は休め。騎士団の宿舎の一つを手配するから、そこで休むといい。私は推薦状を学院に出してくる。試験は明日だからな。ギリギリ間に合ってよかった」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は騎士団長に礼を言う。
それにしても、試験前日で推薦を出されるなど、学院側からすればいい迷惑だろうな。
しかし、俺とて事情がある。
勇者がいなければ俺が勇者に、本物の勇者がいれば、成長するまで守り切る。それが俺の目的だ。
今一度目的を定め、俺は騎士団長のお言葉に甘え、騎士団の宿舎で休むことにした。
翌日
俺は騎士団の宿舎から出て、学院へと向かう。
学院へ向かうために騎士団本部の入り口へと向かうと、そこには騎士団長がいた。
「推薦は無事受理された。小言は少々もらったが、まあ気にするほどじゃない」
と、あっけらかんと言い切る。
「学院の人は大変ですね」
俺は、顔も知らない誰かを憐れむ。
「まだ学院で色々と手続きがあってな。馬車を呼んでおいた。一緒に行こう」
「わかりました」
俺は騎士団長が呼んでくれた馬車に乗り込む。
セントラルの王都は、四つの重大施設を繋ぐ、円を描いた大通りが存在する。
俺たちはそこを馬車に乗って進んで行く。およそ二十分もすればつくはずだ。
馬車に揺られながら、騎士団長が話す。
「推薦を出したからな。君の合格自体はすでに確定している。ただ、試験自体は受けなければならない。クラス分けも兼ねているからな」
なるほど、力量の近い者同士が競い合った方が成長する。
そのため、試験によってクラス分けをするのだろう。
しばらくして、学院に辿り着く。
学院の前まで辿り着いた時、騎士団長が言った。
「推薦人の私に恥はかかせないでくれよ?」
いたずら気な笑顔。一応緊張をほぐそうとしているのだろうか?
「はい。できる限り頑張ります」
まぁ、緊張など欠片もしていないが。
俺が学院の門をくぐろうとする。その瞬間だった。
「そこの人ー!!避けてー!!」
背後から叫び声が聞こえた。
「何——ぐおっ!?」
俺が背後を振り返った瞬間、白い何かに衝突される。
「痛ててて……。いったい何なんだ?」
衝突された弾みで倒れた俺は、目線を上げて衝突者を確認する。
「いやー、ごめんね。新しい魔術を試したら止まれなくて」
その声は若い女性の声だった。
まず目に入ったのは髪の毛。やや金に近い、白銀とでも呼ぶべき美しい髪だった。
次に目についたのは瞳。透き通る青空のような、水色の目をしていた。
その時俺は、何故かかつて出会った勇者を思い出していた。美しい金の髪を持つ、どこか軽い雰囲気の男。
顔も性別も違うのに、何故かその勇者を思い出していた。
「ごめんね。立てる?」
俺に衝突してきた人物は俺に手を差し出す。
俺はその手をとって立ち上がる。
一見すると、短い髪の毛や少年的な顔立ちにより、男のように見えるが、声や服装から、女性だと推測された。
「私フォルゴラ・バシス。この学院の試験を受けにきたの。君は?」
白髪の少女——フォルゴラが自己紹介する。
「俺も試験を受けに来たんだ。名前はヤマト。姓があるってことは、貴族様か?」
俺は自分の名前を答えつつ尋ねる。
この国では爵位を持つ貴族にしか姓を名乗ることを許されていない。
この少女が他国の人間という可能性もあるが、バシスという姓には覚えがあった。
バシスという姓は確かこの国の——
「お久しぶりです。フォルゴラ様」
その時、騎士団長がフォルゴラに頭を下げる。
「やめてください騎士団長様!私そういうの苦手って何度も言ったじゃないですか!」
騎士団長の丁寧な礼に、フォルゴラは拒否反応を見せる。
「しかしあなた様はこの国の公爵令嬢なのですから、騎士である私は礼をしないわけにはいかないのです」
しかしすぐさま、騎士団長は弁明する。
そうだ。バシス公爵家。この国の最高位の貴族。
確か現在の当主は宰相を務めているはずだ。
「公爵令嬢って言ったって、私は本物の貴族じゃないのになぁ……」
フォルゴラが呟く。その顔はどこか、落ち込んでいるように見える。
「やっぱり貴族様か。バシス公爵家は有名だしな」
「う、うん。あでも、だから許せってわけじゃないよ!ぶつかっちゃったのはこっちだし、できる限りの謝罪はするよ!」
俺の言葉で曲解されたと思ったのか、フォルゴラが慌てる。
「そんな風には思ってないし、謝罪はもう受け取ったよ。大した怪我もないしな。それより、あんたも試験を受けるんだろ?だったら早く行こうぜ」
「…………」
俺は何か変なことを言ったのだろうか?フォルゴラが固まって動かなくなってしまった。
「ど、どうした?俺、何か変なことを言ったか?」
「う、ううん。なんて言うか、すごい新鮮な対応されてびっくりしちゃった」
と、俺の言葉にフォルゴラが返す。
「ヤマトくん。君は……、なんと言うか、大物だね。普通、一般人が公爵令嬢と話したら、珍しがるか恐れるかの二択なんだがね」
騎士団長が呟く。
どうやら、俺の反応が特殊だったので驚いただけらしい。
大物と言われても、俺は長い年月を生きている。何度も国が滅ぶところを見てきた。
そんな俺は、身分など何の意味も無いと感じているので、イマイチ普通の反応がわからないのだ。
「ま、いいや行こうぜ」
俺は改めてフォルゴラを誘う。
「うん。……そう言えば、私は公爵家に推薦されてるけど、君はもしかして騎士団長様に推薦されてる?」
歩き出そうとした最中、フォルゴラが俺に尋ねる。
フォルゴラも推薦を受けているのか。まぁ、先程も魔術を使っていたようだったし、才能があるのだろう。
「ええ、彼は私の見つけた逸材ですよ」
俺の代わりに騎士団長が答える。
「そうなんだ。じゃあ試験頑張ってね。君とは同じクラスになりたいから」
フォルゴラは快活に笑う。そこまで言われては頑張るしかないな。
俺は心の中でそう呟く。
「よし、それじゃあ行こうか!」
フォルゴラが歩き出す。
「ああ」
俺もそれに応え、共に学院の門をくぐる。
果たしてどんな試験が待っているのか。
それはわからない。けれど、どんな試験であっても乗り越えてやる。
俺は、そう決意した。




