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深井戸の星。  作者: 風子
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第7話 婿殿。

最近うちの婿殿が私の後を付いて回るようになった。可愛らしいから、いいけれど。


「なあ、ジュリ。これは何でこうなってるんだ?」

帳簿もつけようとしているが、前途多難だ。伸びしろしかない。うちの事務官が手取り足取り教えている。私の呼び方もジュリ、にしたらしい。長いからね。


うちの領は、村ごとに大きな牧場を管理して、主に肉牛を育てている。領主館近くの牧場は主に馬。乳牛のところもあれば、牛、馬混在するところもある。定期的にそれぞれの牧場を見に回っている。ここにも婿殿は付いてきた。


牧場でも質問攻めだ。楽しいから、いいけど。

「なあ、ジュリ。じゃあオス牛はみんな食用なのか?」

「そうだな、種牛以外はオスは基本的には出荷される」

「ふーん。種牛に選ばれる基準は何だ?」

「肉の付き方、体型の良さ。毛並みも大事だ。あと、もちろん、健康なことだな」

「なるほどね」


実は婿殿が休日にこっそり、教会に併設した学校に通っているのも使用人に聞いた。

年齢が近いせいなのか、領内の子供たちになつかれているらしい。

先日、図書館でばったり会った時は「子供に質問されたことがわからなかったから調べていたんだ」とほんの少し顔を赤くして言った。


ブリア国から馬の買い付けの商人が来た時も、挨拶だけして私の後ろに下がって話を聞いていたようだ。学院に通っていたと聞いていたから、ブリア語は達者なのだろうと、たいして気にもせずにブリア語で客人と話していたが…。

その後から、夜になると彼の連れてきた従者のアンドレに付ききりでブリア語を教えてもらっているらしい。


馬に乗って領内を見回りに行こうとすると、婿殿が走ってやってきた。どうも厩舎で藁の入れ替えを手伝っていたらしい。

「ねえ、ジュリ。僕も行く」

そう言うので、ヤンにもう一頭馬を引き出してもらう。もじもじしているので、念のため聞いた。

「乗れるのか?」

「……」

私は婿殿を後ろに乗せて、出発することになった。いじらしいから、いいか。


私と婿殿は二人乗りで領地を回り、チーズ工場で昼食をとった。お茶を出しに下がった工場長を見て、シリルは驚いていた。

「工場長?…って、女が?」

思わず婿殿の本音を聞いてしまった気がした。

「たまたま能力のある者が女性だったというだけのことだ。彼女の旦那さんはこの工場の製品担当技師だ」

「…なるほど」


王都の貴族男性によくいる物凄い男尊女卑の思想持ちなのかと一瞬疑ったが、婿殿は納得すると理解は早いようだ。美味しそうにチーズとハムのサンドを食べ始めた。


納得するまでは質問攻めになったりすることもあるが。

まあ…知らなかったことを学ぶのはいいことだ。


私の後ろを付きまとっていた婿殿が最近見えないな?そう思っていたら、蕎麦蒔きの準備が始まった畑に通っているらしい。農耕馬が珍しいらしく、鋤を持たせてもらって転んだりしていると報告があった。


「なあ、ジュリ。何で蕎麦なんだ?」

「?」

夕食時に婿殿が聞いてきた。

「小麦は作らないのか?」

「ああ、土地が瘦せていて上手く育たないんだ。もちろん作れるところは小麦も作っている」

「土壌は改良できないのか?」

「うん。先代も先々代も試みたようだがな。やはり、その土地にあった作物を作った方が上手く育つ。それに、飼料にもなるしな」

「なるほどなぁ」

蕎麦粉のガレットを上品に食べながら、婿殿が頷いている。


「だから私たちは、小麦を買うためにもいい牛を育てるんだよ」

「なるほど」


考えることは良いことだ。


ここを去ってからも、何かの糧になる。


ジュリエンヌはここのところすっかり日に焼けて筋肉の付いた婿殿を眺めた。

来たばかりの頃は、真っ白でひょろりとした少年だった。

今は…手の皮も少しは厚くなったか…そんなことを思って、クスリと笑った。









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