第20話 深井戸の星。(最終話)
「…私は、3歳の弟が死んでしまった時もその葬式の時もまだ寝込んでいた。あまり実感はなかったんだがな…それ以上に、その悲しみの中で衰弱して死んでいった母親の死が堪えた。跡取り息子ではなく、私が死ねばよかったんじゃないか、って長いこと考えた」
「…ジュリ…」
ジュリが乗ってきた馬車に乗り込んで、帰路についた。並んで座って、指を絡ませる。
「母の葬式の時に、親戚の子に水疱瘡の跡を、うつるんじゃないか、気味が悪いと言われて…本当に参ってしまったんだ」
「……」
「弟が生きていたら…そんなことを何万回も考えた。そうして、考えていた通りの少年が私の前に現れたんだよ。期限付きの結婚の提案などしたのは、その少年をしばらくの間でも自分の近くに置きたかったからだ。どうしようもない私の我儘だった。少年は一年間、好きなように暮らしてくれればよかった。ただ、そこに弟の姿を見たかっただけだ」
「……」
僕の肩に頭を預けて、ジュリが一つため息をついた。
「でも、違った。少年は弟ではなかったし…どんどんと変わっていった。それに気が付いて私は正直、戸惑った。私の中で大きくなっていくシリルへの思いに押しつぶされそうになった。一年と、期限を付けたのは私なのに…」
「……」
開いている右手でジュリを抱き寄せて、背中を撫でる。
「シリルが屋敷を出て行ってしまってから、アンヌに言われたんだ。よく見ろ、って。深い深い井戸の中にもぐるように、私は自分の気持ちを見に行ったんだよ?」
「…どうだったの?」
柔らかな優しい若草色の瞳が、僕をじっと見つめる。
「その深い深い井戸の底から眺めたら、シリルのきれいな青い瞳が見えたんだ」




