第15話 魔法。
オーレリアンに呼ばれて応対室で待っていると、シリルに案内されて先ほどの女性が入室して来た。二人並ぶととてもお似合いだ。美男美女、というのはこういうことを言うのだろうと感心してしまった。シリルは私をじっと見て、何か言いたそうな顔をしていたが頭を下げてドアを閉めた。
緩いウエーブをつけた赤毛に透き通るような白い頬。きっちりとひかれた赤い口紅。
赤いワンピースもふんわりと膨らんでいる。瞳まで赤色がかった茶色だ。
「アレクサンドラ商会のミレーヌと申します。今回はお時間を取っていただきありがとうございます」
にっこりと笑ってお辞儀をするその美しい人を、ジュリエンヌは前髪越しに眺めた。
「ヴァレリー伯爵家当主のジュリエンヌだ」
何食わぬ顔でオーレリアンがお茶を出して下がる。
「早速ですが…」
そう言ってその女性が、持ってきた資料を広げて、うちの馬の毛を使って化粧用の刷毛を作りたいという話を始めた。年間の生産本数、必要な馬の毛の部位、その毛の数量…。とても理論だっている。見目美しいだけでなく、聡明な女性のようだ。
「こちらの領に生産工場を作ってもいいかもしれません。そのためにはその刷毛の持ち手の材料のことなんですが…」
彼女に見惚れているうちに話がどんどんと進んでいく。指の先まで綺麗に手入れされている。
「合せてそれを収納するための小物入れ。これを馬の皮で作れませんでしょうか?できれば綺麗に着色して…」
領民のために仕事先が増えるのは良いことだ。ただ…。
「とても良いお話です。このお話を私の領に頂けたのは…ここにシリルがいるからですか?」
聞いてもどうしようもないことを…つい聞いてしまった。そうだ、と言われてもどうしようもないけれど。しかも、もうすぐシリルはここからいなくなる。この商会と契約を結んでから、シリルがいないのならやめる、と言われても困る。
「いいえ。ここの馬がとても綺麗だからです。あちこち馬を見て回りましたが、美しい馬の出生地がここだった、と言うことだけです。私は学院を春に卒業したら、化粧品部門を任されることになっているので、早め早めに手を打っておこうと思いまして」
きっぱりと言い切られて…少し動揺する。うちの馬が褒められるのは素直に嬉しいが。
無駄のない綺麗な仕草でお茶を飲みだしたその人は…不思議なくらい自信に満ちているように見えた。
返事は保留にしてもらって、玄関まで彼女を送りに出た。
「良いご返事をお待ちしておりますわ」
馬車のステップに足を掛けた彼女が私を振り返って耳元に囁いた。
「奥様、私は必要とあればあなたを変えることができますわ。私は化粧と言う魔法が使えるんですの。王都の私の商会を訪ねていらしてください。いつでもお待ちしておりますわ」
次は港町まで貝殻の購入の商談に行くという彼女を見送る。
…魔法、か。
私にそれがいるようなことはないな。王都に出かける用事もない。
私はずっとこの領で、静かに、今まで通り生きていくに違いない。
振り返ると、何時からそこにいたのかシリルが立っていた。
私は少し笑って、彼の横を通り過ぎた。




