第13話 クリスマス。
「大事に使ってね」
そう言いながら、坊ちゃまが教会の学校に通う子供たち一人一人に、なけなしの小遣いで買った鉛筆とノートを配っている。
子どもたちと賛美歌を歌い、質素な昼食を御馳走になった。
馬車で移動しながら、領内にある3つの教会全てにクリスマスのプレゼントを配り終わったとき、もう日が暮れ始めていた。
「夕食でも」
シスターにそう誘われたが、
「ありがとう。でも、妻が待っていますので」
お坊ちゃまは胸に手を当てて、少し恥ずかしそうに、丁寧に断っていた。
***
クリスマスは基本的に一人で過ごしていた。今年は婿殿がいる。
家族持ちが多いうちの使用人たちが家族で過ごせるように、夕食の準備が済むとみんな家に帰していた。オーレリアンとアンヌは今更夫婦二人きりでも、と言っていつも残ってくれる。後は厩舎の宿直当番。これは独身者が割り当てられるから、今日はエデルが残るらしい。
そんなわけだからダイニングのテーブルの上には、オードブルからデザートまでがもう並んでいる。教会に出かけていた婿殿が帰ってきたので、シードルで乾杯して、並べられた料理を頂く。
「クリスマス、おめでとう」
婿殿に子供たちの話を聞きながら、笑ったり驚いたりしながらゆっくりと夕食を摂る。
「ブッシュドノエルは僕が作ったんだ。料理長が手伝ってくれたけど。僕から、ジュリにクリスマスプレゼントだよ?え、と…ドレスとかの方がよかったかな?」
そう恥ずかしそうに言って、婿殿がケーキを切り分けてくれる。
ここ数日、厨房に入り浸っていると思ったら…そんなことをしていたんだ…。
「いや、そんなことないよ。ありがとう」
私たちは一緒に食べて、飲んで…片づけて、並んで皿を洗った。
そんなことでさえ、クリスマスの奇跡の様に思った。
「おやすみ。良い夢を」
そう言って私の頬にキスを落とす婿殿。
自分の部屋に戻って、ジュリエンヌはひどく後悔した。
婿殿のいる毎日が積み重なって…どんどん楽しく、あたりまえになっていくのが怖かった。
もう、手遅れかも知れない。
もっと距離を取るべきだった。そうしたらまた一人になっても何でもない毎日が続いて行くだけだったのに。
でもこれは決まったことだ。自分が決めた。
本当にシリルが弟だったらよかった。
そうしたらたとえ離れても、関係は変わらないのに。
「離婚したらもう、会うこともないな」
そう独り言を言って、鏡に映る自分をぼんやりと眺めた。
シリルは美しい男だ。ここに来たばかりの時より背も高くなって、筋肉も付いた。並び立ちたい女性はたくさんいるだろう。余所行き着を着ただけで人目を引く位だ、正装したら驚く位美しいだろう。
その上、素直ないい子だ。気遣いもできる。どんどん学んでいくし。
これは恋でも愛でもない。ただ私が…寂しかっただけに違いない。
あの子だって何か理由があって、こんな私のところに来たに違いないだろうし…。かわいそうに…。
ジュリエンヌは寝台に仰向けに寝転ぶと、
「失敗したな」
そうもう一度独り言を言った。




