6.呪いの魔女なので、魔術具を作ります
「……できたわ」
塔の庭の一角に、サクラの得意げな声が響いた。
そこは普段、ジンが鍛錬に使っている開けた場所だ。
その中央でサクラは、両手を腰に当て、完成したばかりの魔術具を高らかに披露する。
「異常を知らせる連絡回路と、侵入者を退ける迎撃機能を兼ね備えた究極の護衛魔術具——その名も、『護衛ちゃん一号』よ!」
「ふざけてます?」
目の前の機械人形を指し示すサクラに、間髪入れずジンが言った。
「ふざけてないわよ! どこからどう見ても立派な護衛でしょう!」
「どこからどう見ればそうなるんですか」
『護衛ちゃん一号』は、人間の子供を模した小型の機械人形だった。
サクラの腰ほどしかない胴体に、金属製の細い手足。顔に当たる部分は磨かれた白銀の板で覆われ、目や口さえついていない。そのくせ頭には、艶やかな薄桃色の長いカツラが被せられていた。
色だけならサクラやチェチェを思わせるが、無機質な身体との組み合わせは、かわいいというより不気味である。
ジンはしばし黙って眺めたあと、率直な感想を口にした。
「なんというか……化け物じみていますね、見た目が」
「見た目はいいの! まだ試作なんだから!」
「チェチェは好きだよぉ。サクラそっくりで、すっごくかわいい!」
「えっ、それはそれで複雑なのだけれど……」
サクラは思わず自分の顔を両手で覆った。
少なくとも、自分の顔には目も口もついている。たぶん。
「と、とにかく! 重要なのは性能よ!」
気を取り直し、サクラは人形の胸元に刻まれた術式を示した。
「護衛ちゃん一号は、塔を取り囲む結界と連動しているの。登録されていない魔力が結界へ近づけば、即座に感知。それが結界に触れた時点で、塔全体と王宮へ異常を伝達するわ」
「感知と連絡だけですか?」
「まさか。侵入者がそのまま結界を突破しようとした場合は、右腕から光の鎖を放って迎撃するのよ!」
サクラはふふんと鼻を鳴らした。
「つまり、異常の発見から連絡、時間稼ぎまで、これ一台ですべてこなせるというわけ!」
「チェチェはぁ? チェチェも通れる?」
「もちろんよ。あなたの神力は私と同じものだもの。護衛ちゃん一号には私とチェチェ、それからジンの魔力も登録してあるわ」
「わーい! よろしくね、護衛ちゃん!」
新しい友達でもできたように、チェチェは護衛ちゃん一号の周囲を飛び回った。
一方ジンは、見分するような目つきで機械人形を眺める。
その前にしゃがみ込み、胸部から両腕へと伸びる複雑な術式を目で追った。
「……塔の護衛を任せるには、いささか小さくありませんか? この大きさでは、迎撃能力もたかが知れているかと」
「だから、これは試作だと言っているでしょう!」
サクラは挑むように胸を張った。
「見ていなさい。試作とはいえ、この私が作った魔術具よ。これさえあれば、護衛騎士なんてもういらないくらいなんだから!」
その言葉に、術式を眺めていたジンの指が止まった。
しかし自らの勝利を確信しているサクラはその反応に気づかず、人形の背後に回る。
そしてその背中に手を当て、魔力を流し込んだ。
「今から起動して、性能を証明してあげるわ。『護衛ちゃん一号』——発動!」
サクラの声に応じ、機械人形がガガガ、と音を立てて動き出す。
全身へ刻まれた術式が、順番に淡い光を帯びていった。
薄桃色の髪が不自然に揺れ、のっぺりとした顔に横一線の光が灯る。
『——塔ノ結界ト接続』
程なくして、機械じみた声が庭に響き渡った。
『個体識別回路、起動。連絡回路、異常ナシ』
「ほら、ちゃんと動いてる!」
ぎこちないながらも正常に作動していることに、サクラは喜ぶ。
自分の組んだ術式を疑っているわけではないが——それでも、実際に動くのを見るとやはり安心する。
(よかった、とりあえず基本動作に異常はないわね)
となると、あとは迎撃機能だ。
自分とチェチェ、ジンの魔力は登録済みのため、今の状態では迎撃機能まで披露できない。
(あとでジンに、魔物でも生け捕りにしてきてもらおう)
それでこの護衛ちゃん一号の能力の高さを見れば、ジンだって納得するだろう。
サクラがそう考えた、そのときだった。
『——警告』
「え?」
人形の顔に灯っていた光が、金色から赤へ変わる。
次いで、その首が不自然な音を立てて回り——ぴたりと、ジンへ向けられた。
『人ナラザルモノノ侵入ヲ感知シマシタ』
「……は?」
『迎撃対象ニ指定』
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ジンは侵入者じゃ——」
『侵入者ヲ排除シマス』
サクラが止めるより早く、護衛ちゃん一号の右腕が展開した。
掌にはめ込まれた結晶が眩く輝き、光の鎖が撃ち出される。
「——ジン!」
サクラは思わず叫んだ。
だけどその声にも、迫る鎖にも、ジンは動じなかった。
首元を狙った鎖を半歩だけ身体を傾けてかわし、次の瞬間、その右手で無造作につかみ取った。
「……っ!」
短く息を吐き、鎖を力任せに引く。
機械人形の小さな身体が宙へ浮いた。
同時に、ジンの左手が腰の短剣を抜き放つ。
銀色の軌跡が一閃、寸分の狂いもなく迎撃術式の核となっていた右腕の結晶だけを貫いた。
破砕音とともに結晶が砕ける。
光の鎖が、粒となって霧散した。
『迎撃……機能……異、常——』
護衛ちゃん一号はぎこちない声を上げ——
煙を一筋吹き、がくりとそのまま項垂れた。
「………………」
サクラはあっけに取られたまま、壊れた護衛ちゃん一号を見下ろす。
チェチェもまた、サクラの隣でなんとも言えないような顔をしていた。
なんということだ。
究極の護衛魔術具は、起動から一分も経たずに沈黙した。
「……それで?」
黙ったままのサクラに、短剣を手にしたままのジンが、ゆっくりと振り返った。
「これさえあれば、なんでしたっけ?」
「……ごめんなさい」
普段無表情な彼の顔には、驚くほどいい笑顔が浮かんでいた。




