↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの魔女ですが、大嫌いな騎士様を呪ったら私への恋心まで返ってきました  作者: ウミノリリオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/28

19.初恋

「あなたはどこで私を知って、いつから好きになったの?」


 サクラはそう言うと、薄桃の瞳でじっとジンを見つめた。

 ジンはわずかにたじろぎ、目を泳がせる。

 それでもなお目を逸らさないサクラに、やがてジンは根負けしたように深く息を吐いた。


「……つまらない話ですよ。あなたがもうすっかり、忘れてしまっているような」


 その言葉に、サクラはわずかに目を見開いた。


「やっぱり私たち、どこかで出会っているのね!? いつ、どこで!? どうしましょう、私、本当に覚えていないわ!」

「そりゃあそうでしょう、もう20年近く前のことですし」

「20年……って、あなた、子供じゃない!?」

「そうですよ。はじまりは幼い初恋なのです」

「はつこい……」


 まるで初めて聞いた言葉のように、ジンの放った言葉を繰り返す。

 恐ろしいほど冷たい鉄面皮にはおよそ似つかわしくない、可愛らしい響きだった。

 どこか訝しげなサクラに、ジンは開き直ったように語り始めた。


「……まだ俺が、10歳かそこらのことです。その日は国直属の呪(まじな)い師が、神殿でまじないの儀式をするということで、王都中が賑わっていました」

「それって……」

「そうです。サクラさん、あなたのことですよ」


 サクラは神子として、年に数度、まじないの儀式のため王都へ招かれていた。

 その時に、幼い頃のジンと出会っていたのだ。


「でも、おかしくない? たしかに私は王都に行くこともあるけど、そこで言葉を交わす相手なんて限られているわ。まして子供なんて……あ、もしかしてジン、王族や神官の親戚か何か!?」

「いえ、まったくもってど庶民です。その日も、母に頼まれておつかいに出かけた帰りでした」

「ええ……? じゃあ尚更、覚えがないわ……」


 サクラはそう尋ねながら、眉を寄せ首を捻った。


「儀式関係で出会ったわけではありませんから。俺もその時、あなたがあの『神子』だなんて知りませんでした。……俺が出会ったのは、王都の路地裏でうずくまる布の塊です」


 ジンはそう言うと、口元だけでくすりと笑った。


「母に頼まれたおつかいの帰り、路地裏で震えている布の塊を見つけたんです。下町では見ないような上質な布でした」

「……まさか、それが私?」

「はい。あなたはその日王都の街で迷い、どうしようもできず路地の隅でうずくまっていたのですよ」

「……!」


 ジンは言うと、にやりと口元に意地の悪い笑みを浮かべた。サクラをからかう時によくする表情だ。


「う、嘘よそんなの! 私が一人で街に出るなんて……!」

「おや、覚えがないと?」

「……ある」


 ジンに言われ、少しずつ記憶が戻ってくる。

 何年前のことかまでは覚えていないが、たしかに神殿から王宮に移る際、祭りのような人混みに巻き込まれ護衛とはぐれてしまったことがあった。


 王都は人混みで、少しぶつかるだけでも誰かを不幸にしてしまう。

 そう思っただけでサクラは恐ろしくて、身を隠すようにひと気の少ない裏路地を渡り、ついには道の端に座り込んでしまったのだ。

 誰にも触れられないようにと、着ていたローブにくるまりながら。


 路地の隅で頭まですっぽり隠していたサクラは、道ゆく人には異様に映っただろう。

 そんな彼女に、ただ一人声をかけてくれた人がいた。あれが——


「いやあ、驚きましたよ。自分より十は年上に見える大人の女性が、道に迷って泣いているのですから」

「うっ……!」

「何をしているのか聞いても、混乱して要領を得ませんでしたし……王都の道なんてそこまで入り組んでもいないのに迷うなんて、こんなにポンコツな大人がいるのかとむしろ感心しましたね」

「誰がポンコツよ!」


 なんとか話を聞き出すうち王宮へ行きたいらしいことがわかったため、ジンはサクラを王宮まで案内した。

 サクラがあの有名な神子——『呪いの魔女』だということは、その時に知ったらしい。

 家に帰り母にことの次第を話したら、たいそう驚かれたとジンは語った。


「なるほど……あの時の子供がジンだったのね」

「思い出していただけましたか?」

「おおまかには……それで?」

「え?」

「だから、そのあとよ。そのあと、初恋が始まるような何かがあったんじゃないの?」

「以上ですが」

「以上!?」


 あっさりと言ってのけるジンに、サクラは驚いて身を乗り出した。


「以上って、そ、それだけ!?」

「それだけとは失礼ですね。人の可愛らしい初恋話に」

「自分でかわいいとかよく言えるわね。……というか、今の話に恋の要素なんて一切なかったじゃない。迷った私を、王宮に送り届けたってだけに聞こえるのだけれど」


 サクラは怪訝に眉を寄せた。


「実際、それだけですからね。言ったではないですか、幼い初恋だって。国でも有名な女性が困っているところに立ち会い、助けただなんて、10かそこらの少年が恋をするには十分なエピソードでしょう」

「それは、そうかもしれないけれど……」


 幼い初恋のきっかけとしては、わからなくもない。

 けれどジンは、その恋を抱えたまま塔の護衛にまで志願したのだ。

 そこまで想われる理由が、サクラにはわからなかった。


 自分で言うのもなんだが、サクラは恋の相手として、あまりに厄介な存在だ。

 国を支える神子であり、破滅をもたらす『呪いの魔女』。そして、神の理(ことわり)により決して触れられない相手である。


 ……どうして?

 地位も名誉もあるような彼は、サクラでなくとも素敵な女性といくらでも恋に落ちることができただろう。

 そこまでするほどの恋のきっかけには、サクラにはどうしても思えなかった。


「……可愛らしいと、思ったんですよ」


 なおも釈然としない顔をしているサクラに、ジンが低く声落とした。


「王宮まで案内すると言って手を差し出すと、あなたは更に怯えて泣き出しました。その理由は、当時はわからなかった。……でも、触れられるのを怖がっていることだけはわかったので、俺はその時着ていた外套を手にぐるぐると巻いて、それを差し出したんです」


 その言葉に、サクラの脳裏に一つの記憶が蘇った。

 褐色肌の、痩せた少年。木枯らしの吹く寒空の下で、なんの躊躇もなく外套を脱ぎ出したこと。


『——これなら、怖くない?』


 ——そして、ぐるぐるに巻かれた布越しに、小さな手を差し伸べられたこと。


「……笑ったんですよ、あなたは。それを見て、心から安心したように。さっきまで泣きべそかいていたせいで、ひどい泣き笑いの顔でしたけどね」


 ジンはそう言うと、まるで思い出を慈しむように、優しい眼差しで目を伏せた。


「自分よりずっと年上に見える女性が、不安そうに泣いて、怯えて——だけど俺のしたことで、ほっとしたように笑ったんです。幼い俺には、それが本当に、可愛らしく映ったんですよ」

お読みいただきありがとうございます。

明日の投稿ですが、諸事情により投稿時間が大幅に遅れる予定です。

明日中には投稿いたしますので、お待ちいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。