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呪いの魔女ですが、大嫌いな騎士様を呪ったら私への恋心まで返ってきました  作者: ウミノリリオ


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12.騎士様の恋心は、バレていました

「ジンがサクラのことを好きだってわかったからだよぉ!」

「……は?」


 チェチェの邪気のない言葉にジンは、驚いたように目を瞬き——そのまま沈黙した。

 当然である。

 どこの世界に自分の隠していた恋情が想い人にバレていたと知り、驚かない者がいるだろうか。


「チェチェのばか! どうして言っちゃうの!」

「ええ? だって、このままじゃジンに何が起こるかわからないんでしょぉ? だったら全部話して、ジンと一緒に呪いのことを考えた方がいいよぉ」

「だからって……!」

「チェチェ、ジンに何かあったら嫌だよぉ……」

「うっ……!」


 涙目でそう訴えられ、サクラはそれ以上チェチェを責められなくなった。

 たしかに、最初からジンへ呪いのことを話していればここまで事態はこじれなかったかもしれない。

 元をたどればすべてサクラの自業自得だ、これ以上隠し事をするべきではない。


(そうわかっていても、気まずいものは気まずいじゃない……!)


 サクラは恐る恐るジンへ顔を向けた。


「ジ、ジン……?」


 うかがうように名前を呼ぶ。

 すると押し黙っていたジンの目が何度か瞬き——しばらくののち、わずかに耳を赤くした。

 その変化に、サクラの頬まで熱を持つ。

 カッと体内の熱が上がったのを感じて、サクラは誤魔化すように言った。


「あ、あなたが私のことを好きなわけないわよね! チェチェの勘違いよね!?」

「勘違いじゃないよぉ。サクラだってそう思ったから、ジン追い出し作戦を始めたんでしょぉ?」

「追い出し作戦……?」

「チェチェ!」

 

 また余計なことを口走ったチェチェの口を塞ぐ。

 ジンはそんな一人と一匹をしばらく見つめたあと、諦めたように息を吐いた。


「……なるほど。その様子では、チェチェさんの言葉に間違いはないようですね」

「そ、それは……」

「誤魔化そうとしなくて結構ですよ。というかあなたは嘘が下手なのですから、かえって悪手です」

「なんですってぇ!?」


 いきり立つサクラに、だけどもジンは平然としたまま真っ直ぐに彼女に向き直った。

 狼狽える様子すらないジンに、サクラは思わず口をつぐむ。


「……知られたからには、仕方ありませんね」


 そしていつもと変わらない声で、ジンは告げた。


「ええ、好きですよ。ずっと前から、あなたのことが」

「……っ!」


 真っ直ぐに告げられた言葉に、サクラは息を呑んだ。

 次いで、むず痒いような感覚がじわじわと這い上がってくる。

 頬が熱い。とっくに気づいていたはずなのに、直接聞かされる衝撃とは天と地の差がある。


「え、えと……その……」

「しかし、なるほど。俺の気持ちを知ったから、塔から追い出そうとしていたんですね。これで最近の奇行にも説明がつきました」

「奇行とは何よ!」


 もじもじと言葉を探すサクラをよそに、ジンは得心したように何度も頷く。

 あまりにあっけらかんとした態度に、サクラのこめかみで何かがぴきりと音を立てた。


「……ちょっと。どうしてそんなに平気そうなのよ」

「何がです?」

「だから、その……」

「ああ、俺があなたを好きだという話ですか?」

「わー! わー!」

「サクラ、真っ赤だねぇ」

「チェチェは黙っていて!」

「なんであなたの方が照れてるんですか」

「ジンも黙って!」


 さらりと繰り返された言葉を打ち消そうと、両手を振り回す。

 チェチェがそんな彼女を見ながら楽しそうに笑った。


 サクラばかりが狼狽しているというのに、ジンは相変わらずの無表情だ。

 そのことにだんだん腹が立ってきた。


「だから、どうしてそんなことを平気な顔で言えるのよ!」

「平気ではありませんよ、開き直りです。伝わっていませんか、俺のこの胸の痛み」

「伝わっているからたちが悪いのよ……!」


 ジンの言う通り、サクラの胸では先ほどからバクバクと痛いくらいに心臓が高鳴っていた。

 こんな痛みも伝えてくるなんて、なんて厄介な呪いなのだろう。

 サクラはもはや項垂れることしかできなかった。


「……私だって、あなたを嫌っているわけではないわ」


 サクラは俯き、ジンから表情を隠したまま呟いた。


「研究熱心なところは尊敬しているし……この前、一緒に魔術具を作ったのだって、楽しかった。だから、その……」

「——俺が言っているのは、そういう意味ではありません」


 ぽつぽつと重ねていた言葉を、ジンの静かな声が遮った。

 顔を上げると、ジンは真剣な顔でこちらを見ていた。その表情に、息が詰まりそうになる。


「……いつの間にか知られていたのは心外ですが、知られてなお誤魔化されるのは我慢なりません」


 ジンは言いながら、座っていた椅子から立ち上がった。

 テーブルを回りサクラの傍らへとやってきて、その場で片膝をつく。

 サクラの耳元で、チェチェが「きゃあっ」と嬉しそうな声を上げた。


「ちょ、ジン——」

「サクラさん」


 低く名前を呼ばれ、サクラは続く言葉を失った。


「俺はあなたを、一人の女性として愛しています。——いつか、その手に触れたいと願うほどに」

「……っ!」

 

 恭しくそう告げられる。

 同時、褐色の手がサクラへと差し向けられ、サクラの喉は引き攣った。


 その手が触れるよりずっと手前で止まっていたことに、サクラは気づいていた。

 それでもサクラの身体は強張った。

 『いつか触れたい』——先ほどチェチェへ打ち明けたばかりの恐怖を、ジン本人から突きつけられた。


「さ、触らないで!」


 考えるより先に、拒絶の声が飛び出した。

 サクラは長椅子の上で大きく身を引いた。背中が背もたれへぶつかり、がたんと椅子が鳴る。


「お願い……それ以上、近づかないで……!」


 声が震えた。

 明らかに恐怖している様子に、ジンの差し出した手が止まる。


「——冗談ですよ」


 短く告げ、彼はゆっくりと手を下ろした。

 その言葉に安堵するより先に、サクラの胸へ鋭い痛みが走る。


「——っ」


 胸を内側から引き裂かれるような、深い痛みだった。

 ジンの痛みだ。

 想いを寄せる人に、触れ合うことを拒まれた痛み。

 そして、想いを向けたことさえ恐れられたのだと、傷ついた痛みだった。


「すみません。出過ぎた真似をしました」

「待っ——!」


 ジンはそれだけ言うと、跪いていた姿勢から立ち上がった。

 いつもと変わらないはずの横顔が、ひどく傷ついている見えた。

 サクラは思わず、立ち去ろうとするジンの服の裾を掴んだ。

 ジンが足を止め、振り返る。 


「……何ですか」

「……」

「触れないでと言ったのは、あなたですよ」

「触れてはいないわ。これは、あなたの服だもの」

「屁理屈ですね」

「それでもこれが、神の理(ことわり)よ」

「……やはり屁理屈だ」


 ジンは自嘲気味に呟いた。

 自分でも、何をしているのだろうと思う。

 だけど、このままジンを一人帰してはいけない気がした。

 何より、あれほど真剣に告げられた想いを、真剣に取り合わないのはジンに対して失礼だ。そう思ったのだ。


「……チェチェ」


 サクラはチェチェを小さく呼ぶと、少しの間ジンと二人にするようお願いした。

 チェチェは少し心配そうな顔をしていたが、しばしの逡巡の後花びらのような羽根を羽ばたかせて居間から出ていった。

 二人きりになったその場所で、サクラはジンに向き直る。


「……ごめんなさい。あなたの想いを、私は真面目に取り合おうとしなかった」

「……そんなの。あなたのお立場なら当然の反応です。それくらい、俺にもわかりますよ」


 ジンはサクラから視線を逸らした。

 今度はジンの方が、サクラの言葉を誤魔化す番だった。これから何を言われるか察したのだろう。サクラの胸にまたつきんとした痛みが届いた。


「……いいえ。それでも、あなたに対して失礼だったわ」


 その痛みに気づかないふりをして、サクラはジンの瞳を真っ直ぐに見据えた。

 逃げずに、自分の言葉で答えなければならない。

 ジンの服を握る指先に、わずかに力が入った。


「ごめんなさい、あなたの想いには応えられない。だって、私は——」


 声が震えそうになるのを堪え、はっきりと告げる。


「あなたに、触れられないもの」

お読みいただきありがとうございます!

ここでちょうど前半戦終了。ということで、明日(9/24)より夜(19時半ごろ)のみ投稿とさせていただきます。

ここからちょくちょくシリアスが顔を出しますが、基本的にはコメディなので気軽に読んでいただけると幸いです。

少しでもお気に入りいただけましたら、評価やブックマークなど入れていただけると嬉しいです!

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