55-後悔と罪悪感
麗叶はフラフラと立ち上がった。
「……」
美波の名を叫んだつもりだったのに、音にならない。
美波さんは…妹になる子は…大丈夫だろうか。
まだ整理なんか出来てない。
親が親じゃなかった。
妹が妹じゃなかった。
弟は…
弟じゃなかった。。。
「圭ちゃんが……私を?」
何もかも失ったような、そんな気分だった。
美波の顔を思い出した。
傷ついた顔。
「ゴメン…」
偽者、だったのかもしれない。偽者の家族。でも…
「私は愛されてきた、家族として」
それを、信じたかった。
ピカピカ!
「!!」
気が遠くなる。
激しい雨に押し潰され、再び麗叶はしゃがみ込んだ。
美波さん…大丈夫?
お腹の子は??
あなたは?
あなたの心は?
ザザザザザ!!!
通りすぎた車が、激しく止まった。
「麗叶!!」
「…芯…」
芯の肩ごしに
「美波さん!」
無表情の美波が立っている。
「…良かった」
麗叶はフラフラと立ち上がった。
無言で睨み付ける美波に
「ごめんなさい」
搾り出すように麗叶が言った。
「傷つけてしまって、嫌な思いを、させてしまって…」
途切れる息。かすれていく。
「本当に、、ごめんなさい」
必死に麗叶は言葉をつなげる。
これだけは伝えたい。
伝えなきゃ。
「でも、でも、圭吾のことは、信じて欲しいんです」
「ぇ…?」
「あの子、言ったんです。あなたと子供を一番に大切にしたいって」
「………」
「家庭を守るんだって。だから、信じて、下さい。圭吾を。
私の自慢の…自慢の…おとう、と」
涙が伝う。
美波は唇をかみ締め、黙ってタクシーに乗りこんだ。
バタン。
ドアは固く閉められ、二人を残したまま車は去って行った。
いつのまにか、雨は霧になっている。
麗叶は肩を震わせて、車を見送っている。
声を殺して。
「よく、頑張ったな」
振り向くと、芯は手を広げていた。
「おいで」
しばらく見つめ合った二人の間、霧が距離を作ろうとする。
芯は黙って麗叶の腕をとり、引き寄せた。
霧が、ふわりと抜けていく。
麗叶は芯の胸にうずくまり、声を殺して
泣いた。
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「私が悪いみたいじゃない」
美波はタクシーに浅く腰かけて、フロントガラスを覆う細かい水滴を、目で追っていた。
「私は、私は…」
本当に知らなかったの? まさか。演技でしょ? 自分を可哀相にしてるだけ。。。
「被害者は、この私なんだから!!」
知っていた。そうに決まってる。あの女は絶対に計算高い!
でも
頭から離れない。あの顔。青ざめて唇を震わせていた。
必死な表情。あれが…演技?
雷におびえていた塊は、麗叶だった。
気を失いそうになりながら。。。?
「探して…」
私を…
「良い子ぶってんじゃねーよ!!」
「WHAT?」
美波の叫び声で、タクシーが止まった。
後部座席で身体を折り曲げる。
「私が悪いみたいじゃん。悪者になっちゃったじゃん」
涙が自分の膝をぬらす。
「だって、、だって、、、普通、知ってるって思うじゃない! 血がつながってないって。気づく、でしょ……? …知らなかった、、 本当に知らなかったなんて…」
後悔と罪悪感で、胸が苦しい。
家族を奪った。。。圭吾から。あの人から。
「…私が?」
あの人を悪者にしてしまいたい。その方がずっと楽なのに。
タクシーは静かに走り出し、スピードをあげた。




