53-それでも、家族だから。
「ハァハァハァ……」
芯は唇を噛んだ。「あんたと同じ」
「…」
「忘れようと頑張っても、無理なもんは無理だった」
「…あ、はははは」
圭吾は大粒の涙を拭きもせず、声を出して笑った。
「誰かに殴って欲しかったけど、殴ってくれたのがキミで、良かった」
「あんたの為に殴ったんじゃない」
「あはは。そうだな」
そう言うと、圭吾は顔をあげ、海岸を指差した。
「麗ちゃ…姉は向こうのビーチにいると思う。俺は、、もう二度と会えない。そう言った。さよならって。」
膝に手を置いて正座しなおした圭吾が、頭を下げる。
「姉を、どうかよろしく、宜しくお願い、します」
芯は、もう一度胸ぐらを掴み、強引に引き寄せた。
「会えよ!!」
息がかかるほどの距離、うつむく圭吾の頬に強い視線が突き刺さった。
「時間かかってもいいから、ちゃんと会え!!」
「……」
「あいつをこれ以上苦しめんじゃねぇって。いっぺんに家族失って、弟も失って…」
グッと襟首を掴み直す。
「いつか会おうって言ってやれ!! 弟として、絶対会いに行くって約束してやれよ!!」
圭吾は苦悩の表情で芯を見返すと、声を絞り出した。
「それは……出来ない」
「何で!!?」
「じゃぁ君は出来るのか?! 想いを断ち切れない苦しさは、君が一番分かってるだろ!?」
「それでも言ってやれ!」
「どんなに頑張っても、想いは消せないままなんだぞ!!」
「あいつと約束してやれよ!」
「想いを知られてしまったんだ!」
大声で怒鳴りあう。
「弟として会うなんて出来ないのに…。俺はこれ以上、麗ちゃんに嘘つくわけにいかないんだ!!」
しばらく睨み合っていたが
「……クソッ…!」
力任せに圭吾を放し、芯は海へ顔を向ける。
あそこに麗叶がいる。
「でも…嘘でも…いつか会おうって言葉が、支えになったりするだろ……?」
芯はつぶやき、麗叶の元へ向かった。
圭吾の上を、
ゴォォォと風が通っている。
ーーーーーーーーーーーーーー
麗叶は無心でホテルへ向かっていた。
歩いても歩いても進まない。身体が震える。寒い、のかもしれない。
思考は強制的に止められたままなのに、降り出したスコールが身体を叩き、嫌なものを思い出させる。
(…ドノ? ドノ イヤナ オモイデ?)
ピカっ!!
「キャーー!!!!」
雷の光が、空を一瞬明るくした。
叫んでしゃがみこむ。フラッシュバックが襲ってくる。
襲われたあの夜。自分の上に乗って来た顔…顔…
顔は…
(…ぇ?圭ちゃん?)
力が抜けていった。
「ッウッウッウ…」
うずくまり、声を出して泣いた。
激しい雨粒がぶつかってきて、背中から押し潰そうとする。
『さよならじゃ』
『亡くなった親友の』
『ずっと愛してた』
『芹沢芯に新恋人!』
『へへへ。蚊。だよ…』
『恨むならあいつらを!!』
ピカッ!!!
「イヤーーー!!」
ショックで記憶が混乱する。
麗叶は駆け出した。下を向いたまま、必死にホテルまで走る。
(助けて。誰か。助けて…し、)
「芯!!」
心の声が外に出ていた。
「ねぇ、どこ?! 助けて…お願い…」
「麗叶!!」
かすかに耳に届いた…芯の声。見回すと、ずぶ濡れになった芯が走ってきた。
芯はスピードを落とさず、そのまま麗叶を抱きしめた。
「ハァハァハァ…、良かった。。なんもなくて…」
ぎゅっと抱きしめられ、息も出来ない。それでも麗叶は構わなかった。
(このまま息が止まってしまえばいい)
麗叶はそう願っていた。
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ホテルのロビー。
びしょぬれの麗叶は、雨の入る廊下に立ち尽くし、芯を待っていた。
そんな麗叶の耳に、ホテルマンたちの会話が断片的に飛び込んできた。
『しつこいぐらいルームサービスの配達時間を守れって言ってたのに?』
『結婚のセレモニー』
『キャンセルの連絡がないのは、やはりオカシイ』
『携帯電話にかけてもつながらない』
『ご主人も帰って来ていない』
『こんな嵐で身体が…』
『妊娠…』
『ミズ』
『AOKI』
(まさか圭吾たちと同じホテル? そんな偶然ないよね?)
麗叶はホテルマンに駆け寄り、英語で尋ねた。
「それは誰? まさか、青木美波ですか?」
「お知り合いの方ですか?」
「彼女まだ帰ってきてないの?」
「失礼ですが、彼女とのご関係は?」
「彼女は…」
ピカ!
稲妻が麗叶の右頬に反射した。
芯が鍵を受け取って戻った時、麗叶はロビーから消えていた。




