52-呪縛
麗叶は人形のように、ダランと身体を預けている。
「圭ちゃん、ど、どういう事か、私…」
「俺が、勝手に好きになったんだ。勝手に…。俺にとって麗ちゃんは…。ごめんな、麗ちゃん…ごめん…」
圭吾の声が涙を含んでいる。
「で、でも…圭ちゃんは私の」
「分かってる! 分かってた!!」
圭吾の肩が上下する。絞り出した言葉。
「でも…姉じゃなかったんだ…俺には…」
パラパラと水滴がふる。海の水を風が運ぶ。
「今だけ、今だけ、こうしててくれ。今だけでいい…」
圭吾の腕に力が入る。
「麗叶、ずっと愛してた…」
圭吾は泣いた。肩を揺らし、泣きながら麗叶を抱きしめた。
麗叶は息も忘れて。。。
海がたんわりと、麗叶のふくらはぎを濡らし始めている。
「麗ちゃん。さよならじゃ」
「…」
「俺は結婚した。子供も産まれる。そう分かってても気持ちは変えられなかった。どんなに頑張っても、出来なかった…」
圭吾は震える手で麗叶の肩を握り、必死に二人の間に距離を作った。
「でもな?」
麗叶の目の前で、見たことのない人物が、苦悩している。
「男じゃけぇね。家庭を守らんと、いけん。妻と子供を一番に大切にせんと…」
圭吾は泣きながら微笑んだ。
「もう…姉と弟には…戻れんわ…」
麗叶の涙は、風に飛ばされた。
「知られなかったら…俺が気持ち、、隠せてたら…」
圭吾は鳴咽した。
「もう二度と、麗ちゃんに会わん………会えん…」
圭吾は麗叶の頬を両手でおおい、唇を近づけた…
震える唇…
思考力を失った麗叶はなすがまま、近づく圭吾を眺めた。
二つの息が触れる、瞬間
「…けい…」
「…!!…くっ」
バッと麗叶から身体を離した。
「うっうっうっ…」
ぽろぽろと、砂浜に圭吾の涙が吸い込まれていく。
圭吾は揺れる肩を抑えながら、声を絞り出した。
「麗ちゃん…元気で暮らすんで」
麗叶は動けない。言葉も出てこない。
「ほいじゃーね」
圭吾は口の端をあげた。
そして、静かに麗叶から離れ、立ち去った。
麗叶は冷たい砂の上に、座り続けている。
嵐が海を、激しく揺らしていた。
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「麗叶ぁー!! れーかぁーーーー!!」
二人を見失った芯が、汗だくで叫び続けている。
(早く見つけねぇと。取り乱して何するか分かんねぇ!)
キョロキョロと見渡しながら走っていると、ベンチでうな垂れる圭吾を見つけた。
「……」
カッカッカッカと、芯は近づき、胸ぐらを掴んだ。
「…て、めーーー!!」
泣きはらし虚ろな目の圭吾を、睨みつける。
「てめぇ、何やってんだよ!!追いかける相手が違うだろ?!麗叶は、麗叶はどこにいんだよ!!」
「君は…」
「どこにいるか、早く言えよ!!」
「広島で…」
「あいつを一人にしちゃダメなの、てめぇだって分かるだろ?!」
「おっきくなったな…」
「うるせー!!」
ガン!!
芯は圭吾を殴った。
「うっせーんだよ!!」
圭吾はヨロヨロと倒れこんだ。
「あぁそうだよ! 広島で告白して撃沈したのは俺だ! 麗叶は気付きもしねぇがな! 」
芯はもう一度、圭吾を立ち上がらせた。
「なぁ、なんで隠せなかったんだ?! 一生誰にも言うなっつっただろ?! あんたは墓まで持っていくべきだったんだ。なんでだ! おい!! なんでだよ!!」
「もしかして」
「あ?!」
「キミはまだ…麗ちゃんのこと…」
ガッシっ!!
芯は力任せに圭吾を地面に叩きつけた。
「だったら悪ぃかよ!!」
「……」
圭吾は涙に濡れた顔を持ち上げた。
「ハァハァ…」
芯は肩で息をしながら、圭吾を見下ろしている。
「なんで?」
「は?」
「きっとキミは、今は芸能人なんだろ? 芸能界なら、いっぱい出会いもあるんじゃないのか? なんで…」




