51-ボロボロの仮面
「知らない振りして、馬鹿にして! ふつう、血液型で分かるわよ! 自分が養女って気づかないなんて、有りえない!!」
「…圭ちゃん…?」
助けを求めたが、圭吾は目を逸らしている。
(ねぇ圭ちゃん、冗談だって笑って。なんでそんな怖い顔してるの?)
騒ぎを聞きつけて、人だかりが出来ている。心配して出てきたルゥの顔もある。
「私には圭吾の赤ちゃんがいるのよ!」
「美波…」
「私たち結婚したんだから!」
「もう、ええから」
「圭吾が、圭吾が、あなたを何年好きだったかなんて、もう関係ないんだから!!」
「止めろ!!!」
バシっ!!!
頬を叩かれた美波が、驚いて息を止めた。
「バカ…バカぁーー!!」
美波は、泣きながら走っていった。
表情を無くした麗叶は、下をむいたまま後ずさりしていたが、フラフラと美波と反対方向へ駆け出した。
「待てよ!」
圭吾が追いかけようと走り出す。
麗叶の後を。
「おい!!」
芯が圭吾の腕を掴んだ。
「悪い!! 美波を頼む!」
「バカか!! てめぇが追いかけんのは向こうだろ?!!」
芯の怒鳴り声を無視し、圭吾は腕を振り払って麗叶の後を追った。
芯は、遠ざかっていく2人と、走り去る美波の背中を交互に見やる。
麗叶……。だが、明らかに身重の彼女も放っておけない………。
「クッソっ!!」
芯は美波の消えた方向へ走り出した。
ガッ
その肩を誰かが掴む。
「俺が行くから、お前は向こう行けよ」
ルゥだった。
芯はルゥの背中を見送り、麗叶の後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
どう走ったか覚えていない。
何度も圭吾に腕を掴まれながら、そのたびに振り払って走ろうとした。
頭の中は混乱して、ボンヤリしてしまう。
いつのまにか砂浜にいた。砂に足をとられて、麗叶はフラフラと砂浜に倒れこんだ。
「麗ちゃん!」
ハァハァと荒い息で座り込んだ麗叶に、海が近づいては遠のく。
月は雲の中。それでも、ホテルの明かりで波が白く泡立って見える。
「私、圭ちゃん、私…」
「麗ちゃん」
「よ、養女って?」
「……」
「嘘、でしょ? 嘘だよね? お父さんと…華と?」
「麗ちゃんは」
圭吾は、息を止めたまま言葉をつなげた。
「麗ちゃんはな、オヤジの亡くなった親友の子なんよ」
キーーーーン。。。。。
耳鳴りが頭の中で響く。
「ウソ!!!」
「……」
「なんで? 私…どうして」
視界がぐるぐると回りだす。
「私、私…知らなかった…」
『血液型で分かるわよ!』
美波の声がよみがえった。
「そう! 私、O型だよ、お父さんもお母さんも圭ちゃんも華もみんなO型! おんなじだよ!!」
「…麗ちゃんはA型だよ。犬に噛まれた時、病院で分かったんだ」
「A型…?」
圭吾は広島弁を脱ぎ捨てていた。もうそんな余裕はない。広島弁という仮面をつけ、必死で保っていた距離だった。
圭吾にはもう、距離が保てない。
「そん時は、俺もよく分かってなかった。A型ってなんか格好いいなって思ったぐらいでさ。まだ小さかったし」
ザ、ザァ~
海の上、風がすべり始めている。
「俺はなんとなくずっとそれが引っかかってて。でもなんかのテレビ見て、分かったんだ。で、オヤジを問い詰めて…。華も気づいたみたいだけど」
ザッザ~ザッザ~
麗叶の顔に強く風が当たる。
長い髪が顔の周りを踊りはじめた。
『圭吾が、あなたを何年好きだったかなんて』
思い出さないよう、必死に奥へ閉じ込めていた言葉…。
「…好、き…だった?」
ポロっ
涙が落ちた。
圭吾は苦悶に顔を歪め、
「麗叶!!」
麗叶を抱きしめた。




