5-不協和音
と同時に、麗叶が、中野の頬を思い切りひっぱたいていた。
驚いた。
メンバーも。中野も。
誰より麗叶本人が。。。
漫画のように左頬を両手で押さえ、崩れ落ちそうな体を壁に預けながら、中野は驚いた顔を麗叶に向けている。
(あー。。あ。。。やっちゃった。。。)
右手がジンジンと響いている。
「な、なに…?お前…」
「ぁ。あ、っと、蚊が…」
「へ?」
「ほっぺたに蚊がとまって、まして、、」
無音。
…っ。どわっっはっはっは!!
笑い声が地響きのように広がった。
「キャハハハハ。マンガみたぁ~い!」
「マジ?!今どき、そんな言い訳する?クックック」
「見えた見えた。俺にもその蚊、見えたわ。あはははは」
「いててて。腹痛ぇ~。面白すぎ。超おもれぇ!ダハハハハ」
麗叶は、顔が熱くなるのを感じた。
「顔、真っ赤だよ~」
麗叶は、面白がる彼らに背をむける。
(こうなったら、もう仕方ない!)
「中野さん、蚊ごときに力が入りすぎてしまい大変失礼しました。クラブの件ですが、今後、根も葉もない噂を風潮する者がいましたら、是非ご報告を。出来れば穏便に、不可能なら強行で臨みます!」
中野はすごい形相で麗叶を睨みつけ、勢いよく部屋を出て行った。
(まずい!)
「中野さん!!」
(まさかクラブ騒動を世間にリークするつもりじゃ…?!)
廊下に飛び出すと、中野はもう遠くを走っている。楽屋からは、まだ収まらない笑い声。
麗叶が急いで走り出そうとした途端、
「なんだ、楽しそうだな」
顔見知りのプロデューサーが笑いかけてきた。
「聞いたよ~。今度から、Seven C'sは青木ちゃん担当なんだって? 中野さん、相当、評判悪かったしねぇ。青木ちゃんなら、Seven C's、今よりもっともっと売れちゃうんじゃない? 青木麗叶が担当したら売れるってジンクス、有名だよ」
「とんでもない。本人の努力と実力あってこそです。でも、ジンクスに負けないよう頑張りますので今後ともSeven C'sをよろしくお願いいたします」
中野の姿はもう見えない。
(仕方ない、あとでフォローしなきゃ)
廊下でプロデューサーと談笑しながらも、麗叶が今後の処置を考えあぐねている頃、大爆笑していたアキラのスマホが鳴った。
笑いの火が消える。
さっきまで一緒に笑っていた芯とアキラが距離を作るのを見て、ルゥはため息をついた。
「…早く仲直りしろよ」
「ねぇねぇ、ルゥ。さっきの口笛って何?」
「ノリは知らない? アキラのメール着信音」
「メールってことはお母さんからだね。でも前は違う音だったような、、」
「回数多いから、音短くしたんじゃない?」
「音消すとか、バイブにしたらいいのに」
「それはしたくないんでしょ」
アキラが鞄の中をガサゴソとあさり、スマホを探していると、番組ADが入って来た。
「おはようございまーす。ではスタジオまでお願いしまーす!」
「うっす!!!」
「お願いします」
「行くぞ」
「ハ~イ」
不協和音を水面下に沈め、Seven C'sが光の中へ向かう。
ーーーーーーーーーーーー
数日後、麗叶とSeven C'sの4名は、社長室に集められた。
大きなガラス窓から差し込む冷たい日差しを威光に変え、社長が判決を言い渡す。
「合宿を行います。」
仕事以外は、外泊はもちろん外出も禁止。
期間は3ヶ月以上。
ダンスと歌のレッスンは週4回以上を義務付ける。
つまり軟禁だ、と4名は理解した。
「この合宿は極秘だ。先日の喧嘩の件でマスコミが張ってるから気をつけろよ!」
山内チーフマネージャーの口調は厳しかった。
(あれ?)
麗叶は怪訝そうに山内へ視線を向けた。
(マスコミにはアジアワールドツアーの強化合宿だと発表するって、どうして教えてあげないんだろう?)
マスコミへの発表は、後日、時期をみて行うと聞いている。しかしなぜ4人に、アジアワールドツアーの存在自体を隠すのか?その理由を麗叶が考えていると
「これは罰です」
社長が
「しっかりと、反省、なさい。いいですね?」
グッサリと釘を刺した。
重苦しい沈黙。
それを破るように、芯が社長を睨みつけた。
「おい」
「芹沢っ!社長に対してなんて口の利き方だ!」と山内が怒鳴る。
「おい、なんで全員なんだよ? ペナルティ食らうのは、俺とこのバカ、2人だけで十分だろーが!」
こういう場面では真っ先に反抗すると思われたアキラは、芯にバカ呼ばわりされた事にさえ気付かず、部屋の隅で青ざめ、俯いている。
「連帯責任だ!」
山内は言葉で押さえつけようとした。しかし、芯の怒りはまっすぐ社長へ向かう。
「こいつらは何もしてねぇだろ!」
「Seven C'sとしての責任がある!」
社長の代弁を続ける山内を横へ押しのけ、芯は社長に詰め寄った。
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