4-チープな挑発
「芯、アキラ、ルゥ、ノリ! コイツが、てめーらのマネージャになるからな! 落ちぶれねーよーにしろよ!」
あの一件の全責任を負わされ、マネージャを解任された中野は、隣に立つ後任マネージャーを顎で指した。
室内の空気が一瞬にして キンッ!! と冷える。
「てめーら?」
昨日まで猫なで声で慇懃無礼な態度をとっていた中野の急変に、ノリは、ぽかんと口を開けている。
ルゥはイヤホンを外すと椅子の背を中野の方に向け、硬い背もたれに腕と顔をゆっくりと乗せた。
『ルゥ』と、初めて愛称で呼ばれた嫌悪感を隠そうともしない。
アキラの大きな目が、目深にかぶったハットの隙間からギラリと光る。
背中ごしに暴言を聞いていた芯は、静かに顔を上げた。そして、スッと振り返って…
中野を目で捕らえる。
「ままま、まぁな、、、無能なアイドルは、消えるのも早いってか、あはっ、ははは」
彼らのあまりの迫力に気圧されながら、それでも中野は必死に悪態をつく。
ダンッ!!
アキラが近くの椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。ノリはパッと腰を浮かす。
しかし、芯もルゥも動かない。火のついたアキラを止める気はなさそうだ。
ノリは心配そうに立ち尽くしている。
新マネージャーの麗叶がチラッと視線をやると、中野が口の端を引きつらせ ヒクヒクと笑いをこらえている。
(やっぱり…。TV局内で騒動を起こして、この子達を潰したいんだ)
ガッガッガッガ
息のかかる距離まで詰め寄ったアキラが、殺気を放って中野を見下ろした。
一触即発。
中野の口は左右に歪み、醜悪さは増している。
(コイツ、仕返しするつもりね。ほんっとに最低最悪)
ひと呼吸おいてから、麗叶は落ち着いた声で挨拶した。
「はじめまして。青木麗叶と申します。本日よりチーフマネージャーを山内勝彦、サブマネージャーは私が担当いたします。前任者同様、未熟者ではございますが、どうか宜しくお願いします」
しかし、アキラの意識は、中野から動かない。
「本来なら山内を交え、会社の事務所で引継ぎの挨拶はするものなんですが、この…いえ。前任者の中野が、テレビ局内の、楽屋で、スペシャル番組で大勢のスタッフや出演者がいる本日に、どうしても挨拶したいと強く主張したもので……」
「!?!」
芯とルゥは、瞬時に麗叶の真意を掴みとった。ルゥが立ち上がった時、芯は既に歩き出していた。
麗叶は、出来るだけハッキリと発音する。
「大勢のマスコミがいるテレビ局内で…」
芯は、中野を睨み続けるアキラの後ろに立った。アキラが動き出したら、すぐに止めるつもりなのだろう。
「…申し訳ございません」
芯が麗叶を見る。反射的に麗叶も芯を見上げた。
「!?」
思いがけず聡明な芯の瞳に、麗叶は衝撃を受けた。
(なんて綺麗な目…)
吸い込まれそうな強力なパワーの中に、シャイな色をたたえ、その目は真実を見抜いていた。
何かを隠そうと、強気と冷淡の鎧を身につけている。が…
ふわっ
と芯の瞳が、、揺らぐ
(その瞳を 覆うものは…… なに?)
トクン。
麗叶の胸の奥、微かになにかが動いた。
「アキラ!!座れよ」
ルゥの声が響き、止まっていた時間が動き出す。
それを合図に、芯と麗叶の絡んだ視線が緩んだ。
「どけっ」
くるりと身を返したアキラが、芯を押しのけ椅子に座る。それを確認したルゥも腰をおろした。芯は表情を変えず、そばの椅子に腰を掛け、
「じゃ、今後の話をしようぜ。こいつ抜きの、5人で」
中野を視線で押さえつけながら、キッパリと宣言をした。
「芹沢さん!!…ぃや、し、…芯っ! もうオレは用無しってことですっ、ことかっ!!今まで散々世話になっといて!あぁ~?!」
「……」
「中野さん? 何を仰りたいのか分かりかねるのですが、今この瞬間から、私、青木麗叶が|SevenC'sのマネージャーです。引継ぎ事項は、既に全てうかがっているはず。何か問題でも?」
「お礼もお詫びも無しかよ。クソガキ!」
しかし、クレバーな彼らに中野のチープな挑発など、もはや通用しない。ここで騒動を起こすことが中野の目的なら、それを達成させてやる事もない。
「無視かよ、無視かよ!!そうだよな? お前らはずっと俺を無視してた。ぜーんぶ俺のお陰なのに、バカにしやがって。芹沢さんは舞台で肋骨折ったって教えてくれなかった。来栖さんは見ず知らずのババァのために無茶したあげく、警察の表彰式をすっぽかす。マネージャーのくせに何も知らなかったのかって俺は怒られたんだぞ!」
(表彰式?…あ~。来栖直弥が引ったくり犯を捕まえた時の…)
こめかみに青筋を浮き立たせ、尖った口から唾が撒き散しながら喚く中野のことが、麗叶はなんだか哀れに思えてきた。
「指輪騒動ん時だって…」
「ぷっ!」
アキラとルゥが吹き出した。
「あ~あれか。ノリが母親の指輪して記者会見出たやつな?」
「クックック。まぁね、あれは確かにナイね」
ルゥは笑いをこらえきれず肩をゆすっている。
「ザワザワさせてる当の本人が、えーなになに?? って一緒になって笑ってて」
アキラは涙を流しながら、笑い転げる。
「だって!知らなかったんだもん!!いや、結婚の指は知ってるよ。 当然じゃん。生まれた時から知ってるし。ほら、みんなだって親の結婚指輪なんてじっくり見たことないでしょ?
お母さんがサイズ直しに出すって指輪外してたんだよ。それをね、わざわざ見せびらかすみたいにテーブルに置いてるからさ、わ~キレイだなぁ~って」
「左手薬指に、はめてたじゃん」
「うっ、確かに、はめてたなぁ… 、、、、、そうそう!!!
色んな指で試してた途中で、たまたま左手薬指の順番が来た時に車の迎えが来ちゃったんだよ。ナイスタイミングってやつ。そのまま家出て、車乗ってなに話すんだっけって考えてたら、あっという間に舞台上でさ」
ノリの言い訳の声が徐々に小さくなっていく。
「すごいザワザワしてるしさ、、、カメラのフラッシュ。。凄かったね、、」
「凄かったね、、、じゃねーよ!!ダハハハハハ!」
「薬指の順番ね。クックック。ナイス・タイミングだわ。ノリ」
大笑いしている2人を前に、中野は脂汗をたらしながらギリギリと奥歯を噛みしめた。
芯だけが黙したまま、中野に鋭い視線を向け続けている。
ハッと自分の目的を思い出した中野が、必死に余裕の笑みを作ってみせた。
「あ、あ、あははは。面白いよな? あ~面白い。特に例の、クラブの、騒動とか、面白い、よなぁ~?」
(っ??!!)
緩みかけていた空気。瞬時にピンっと張り詰めた。
「あ~んな面白い話、世間に流れなきゃ、いーいーなぁ~?」
「、、ぇ」
「…なにを」
「てめぇ…」
「……」
急激に室温が下がる。
ニヤニヤしながら、汗だくの中野が口を開く。
「アキラ~!!本当はお前も妹も、ヤクでラリってたんじゃねーのぉ~?!」
ダダダ、ダンッ!!
バシっ!!
椅子を蹴散らし、3人が立ち上がった。
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