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瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


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3-紙面上を踊る

『Seven C's アキラ JK 妹に酒?!』

『Seven C's アキラ、芯を殴打! ~俺の妹にキスするな!~』


大小の文字が紙面上で踊っていた。しかし、真の爆弾はそこではない。

事前に入手したゲラ刷りを、険しい表情で見つめる社長たちを待っていたのは、予期せぬ新事実であった。


「社長、実は…」

「何ですか?中野くん」

「同日、同じクラブに、デュラン・ウィルソンが来ていたそうです」

「アメリカのジャズシンガーの?」

「翌日帰国してすぐに逮捕されまして…」

「容疑は?」

「コカインです」

社長は、手にしていたゲラ刷りをグシャっと握りつぶした。

「ぅあっ!!し、しかし、芯からもアキラからも薬物反応は出ませんでしたから!!」

「ですが…」社長の声が地面を這う。「世間は、そうは思ってくれないでしょうね」

「麻薬常習者って書かれるかもしれません…」

「マスコミにとって、事実かどうかは重要じゃないですからね…」

「おい、中野!! この記者はそのネタで1000万円要求してきたのか?!」

「いえ!!山内部長。 奴はまだ何も知らないようでした。Seven C'sのネタだから、高く買ってくれるだろ?って。しかしっ!!!」

先ほどまでオドオドしていた中野が、急に背筋を伸ばすと、もったいぶった態度で咳払いする。

「ゴホン! わたくしぃ~、世間にバレる前に早く手を打つべき!と、マネージャーとして、そう存じましてぇ~、すぐにご報告をぉ~」

「だいたい、お前はどういう管理をしてたんだ!?」

誇らしげだった中野へ、山内はゲラ刷りを力任せに投げつけた。


数枚が中野の顔に当たり、残りはヒラヒラとゆっくり床へ落ちていく。ノンビリとしたその動きが、この張り詰めた空気の中、中野をますますマヌケな男に仕立て上げた。


「はぇ…?」

「お前は、あいつらが未成年を連れてクラブなんぞに行くって知ってたのか?」

「い、いえ。電話しても全然出てくれなくて」

「知っていれば、防げた話だ!」

「しかし、誕生日のお祝いだそうですし、条例に触れない時間だったと…。そうだ!!妹はお酒を飲んでませんっ!」


「ばかやろう!!どんな理由があろうと、未成年をクラブに連れて行って良い訳ないだろう!!もし妹がアルコール飲んでたら、あいつらの芸能人生は終わってた!! 実力派と、もてはやされたって、ファン層が広いったって、ファンの多くは未成年者だぞ! Seven C'sはアイドルなんだ!!! そんなことも分からんのか?お前は! そんなだから、あいつらと信頼関係が築けなかったんだ!」

筆で書いたような太い眉をガッと持ち上げ、山内が大声で怒鳴りつける。


「で、で、でも…」

「1本です」

社長はゆっくりと背を向け、大きな窓から眼下のビル群を見下ろした。

「最近じゃ、マスコミへの圧力がすっかり難しくなりました。とは言え、要求通りに払うのは、かえって危険ですからね。

山内くん、その記者に取引を持ち掛けなさい。金は1本。その代わりネタを提供します。そうですね、ネタは、奥村剛(おくむらつよし)に、しましょう」

「あの、トップアイドルだった?」

「社長!まさかあのネタを?!」

「それから、青木麗叶くんを呼んで下さい」

「……か、かしこまりました」

そっと汗をぬぐう山内の隣で、社長は中野に正対する。

「中野、、勇二くん、でしたか?」

「はい!!中野ゆうっ」

「さぞかし大変だったでしょうね。あの子達のマネージャーは」

「は、はい!はい!!!ほんとに!」

「ご褒美に、すこし休暇をあげましょう」

「……ぇ?」


「後の事は心配しないで。どうか、ゆっくりお休みなさい」

社長は恵比寿顔でニッコリと微笑んだ。


山内は、恐ろしいモノから目をそらすーー


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