36-気合を入れて
「あら、いい声。芯、素敵よ!」
マーミヤが手を叩いた。
「わっ!珍しっ!」
「マーミヤさんが褒めるの、僕、初めて聞いた!」
「やったぁ~!」
両手をあげて、芯は子供みたいに喜んでいる。
(やっぱり『アジアワールドツアー』効果は絶大だわ。何てったって、この子達のやる気が違うもの!)
「あなた達、んも~、可愛いっ! 私、張り切っちゃうわ」
鬼のしごきのお陰で、ダンスも歌も格段にレベルがあがっていた。
音楽番組で魅せるSeven C'sのパフォーマンスに、スタッフさえも息をのむ。
「声が出やすくなってね?」
「芯も? 僕もそうだよぉ!」
「あぁ。音域が広がった分、前より歌詞に集中できるな」
「楽に踊れるようになったしねぇ♪」
「アキラのダンス、俺、好き」
「かぁーーー!!ルゥ、なんだよ 急に」
「なぁに照れてんだよ。真っ赤っかのタコアキラ」
「芯、うっせー!!」
アキラは楽しくてしかたない。
「俺らの世界征服が始まるなぁ~♪」
「征服?進出だろ」
「芯、いちいちうるせぇ。なんでも一緒だろ? 今回のツアーはアジア限定だけど、今度はアメリカ行きてぇ!」
「僕も!!」
「んで、ブロードウェイとか 立ってみたくね?」
「ブロードウェイ? ミュージカルってこと?」
「ノリ、それだ!それ! だって、歌もダンスも芝居も全部いっぺんに出来たりすんだぜ!」
「でもさぁ~、アキラのママさん、寂しがりそうだねぇ。パパさんもアキラも、二人ともアメリカ行っちゃったらさ」
「アキラパパ、本物のパパより頼られてるしね」
「…。」
ノリとルゥの言葉を聞いて、
元気だったアキラの顔が、少しだけ曇る。
時折、自らの情愛がアキラ自身を苦しめる。
家族の――特に母親の存在が、アキラをその場に縛り付けてしまう。
分かってる。
それでも、家族を切り捨てることなんてできない。
(切り捨てたいなんて…。
そんなん思ってねーよ!そんな奴、軽蔑する!でも、、、俺、、、
こいつらと世界、獲りたい。アメリカ、行きてぇ!)
「もう家を出てんだし、日本もアメリカも変わんねぇだろ」
芯がアキラの帽子を弾いた。
「お前はどこ行っても、家族 だぁい好きバカ。
日本だろうがアメリカだろうが、ジャンジャン送られてくる かぁちゃんからのメール。
同じことだ」
芯が、からかうように笑う。
「わりぃかよ!」
いつも、芯がアキラの心を軽くする。
にしても、最近の芯は、前にも増して優しい。
カメラの前でも、よく笑うようになった。
その余裕。隣で見てても、なんかカッコいい。
(そんなこと、死んでも直接言わねぇけど)
芯が本気になった時の引力はスゴイ。
芝居も歌も上手いのは有名だが、芯のスゴイとこは『作品』だとアキラは思っている。
芯の作る歌は、なんか泣ける。ステージのアイディアに、なんか感動する。
ルゥの衣装センスも尊敬している。自分にはデザインなんて無理だ。
ノリはとにかく愛される奴だ。だから、バラエティに1人で呼ばれるようになってる。
んじゃ、俺は?
やっぱりダンス!!音楽に身を任せるあの快感。
やっぱ芝居!!作りこんで作りこんで開放するあの快感。
どっちも大好きだ。
(俺らのグループってやっぱ、すげー!)
アキラは気合をいれて、鏡張りのレッスン場に立った。
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トントン。
トントントン。
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