35-伝えないまま
「ただいまぁ~」
ヒールを脱ぎながら、麗叶はいつもの独り言。
「…おかえり」
見上げると、芯が水を飲んでいた。
「ぁ…ただ、いま」
麗叶はどういう顔をしたら良いのか、分からない。
仕事場では心を閉じている。
だから動揺もしない。
普段通り…の、つもり。。。
合宿所を一歩出ると、芯は、まったく普段通りだった。
演技派といわれているだけあって、甘い雰囲気も、よそよそしい空気も出さず、いたって『普通』だった。
そんな芯に、麗叶はホッと胸を撫で下ろした。
それなのに、心の奥から切なさが滲んでくる。
(やっぱり、私に本気じゃないから?)
でもそんなこと聞けない。
芯が黙ってしまったら傷つく。
YESってことだから。
「飲む?」
「ん。ありがとう」
芯から手渡されたコップで、ゆっくりと水を流し込む。
真っ暗なキッチン。
キラリと雫が落ちた。
「!!」
突然、後ろから芯が抱きしめてきた。
「麗叶。。。」
麗叶はギュッと回された腕に、そっと手を重ねた。
「今日も麗叶の部屋、行ってもいいですか?」
耳にかかる芯の息。
「…うん。」
麗叶には拒めない。頭では分かってるのに。
心臓の鼓動が、芯の腕に響く。
「すげー バクバクいってんな?」
麗叶は、恥ずかしさで芯の腕に顔をうずめた。
長い指が麗叶のボタンをひとつ、外した。
「ぁ、ダメ…」
芯の歯が、麗叶の耳を軽く噛んだ。
「部屋まで待てない…」
首筋にキスをしながら、後ろからスカートの中に手を入れる。
「ぁっ!!ダ、ダメ…こんなトコじゃ…あっ」
(誰か来ちゃう…)
前のめりになった躰を芯の腕が支えている。
「だ、…」
背中から覆いかぶさり、麗叶のうなじにキスをしながら、拒否の言葉を遮るように動きを早めた。
「ぁっ、っ、っ」
麗叶の息が、途切れていく。
「だ、め…」
「でも、、、」
芯が自分の左手を、麗叶に見せた。
「こんなになってる…」
テラテラと光る、芯の長い中指。
麗叶は、拒めない。
ーーーーーーーーーーーーーー
久しぶりの一人の夜。
今夜、麗叶の帰りは遅い。
自室で音楽を流していると着信音が鳴った。
「洋介?」
あの日以来、洋介とは会ってない。
「お前のことだから、すぐに彼女のこと公表すると思ってたよ。
『芹沢芯に恋人!!』って見出し。Yahooニュースのトピックス、俺は毎日チェックしてるんだけど、全然だな?」
洋介がからかう。
「あいつがそれを望んでないからな」
「だろうな。。でも、芯はそれでいいのか?」
「……」
「お前の性格だったら誰に止められても公表するだろ?」
「……まだ…彼氏じゃねぇ、、かも」
「は?!まさか、お前、告ってない!?」
洋介の声が耳に痛い。
「芯らしくないじゃーん」
「…うるせぇ」
「どしたん?」
「……。」
「彼女、今 お前のこと好きだぜ」
洋介が明るい声を出す。
「それも、かなり惚れてる」
「は?!なんでお前、断言できんの?」
「男の勘」
「あてにならねぇ~!」
それでも洋介の言葉は嬉しい。
『そう』だったら、かなり嬉しい。
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