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瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


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35/58

35-伝えないまま

「ただいまぁ~」

ヒールを脱ぎながら、麗叶はいつもの独り言。

「…おかえり」

見上げると、芯が水を飲んでいた。

「ぁ…ただ、いま」


麗叶はどういう顔をしたら良いのか、分からない。

仕事場では心を閉じている。

だから動揺もしない。

普段通り…の、つもり。。。


合宿所を一歩出ると、芯は、まったく普段通りだった。

演技派といわれているだけあって、甘い雰囲気も、よそよそしい空気も出さず、いたって『普通』だった。

そんな芯に、麗叶はホッと胸を撫で下ろした。

それなのに、心の奥から切なさが滲んでくる。


(やっぱり、私に本気じゃないから?)


でもそんなこと聞けない。

芯が黙ってしまったら傷つく。

YESってことだから。


「飲む?」

「ん。ありがとう」

芯から手渡されたコップで、ゆっくりと水を流し込む。


真っ暗なキッチン。

キラリと雫が落ちた。


「!!」

突然、後ろから芯が抱きしめてきた。

「麗叶。。。」

麗叶はギュッと回された腕に、そっと手を重ねた。

「今日も麗叶の部屋、行ってもいいですか?」

耳にかかる芯の息。


「…うん。」

麗叶には拒めない。頭では分かってるのに。

心臓の鼓動が、芯の腕に響く。

「すげー バクバクいってんな?」

麗叶は、恥ずかしさで芯の腕に顔をうずめた。


長い指が麗叶のボタンをひとつ、外した。

「ぁ、ダメ…」

芯の歯が、麗叶の耳を軽く噛んだ。

「部屋まで待てない…」

首筋にキスをしながら、後ろからスカートの中に手を入れる。

「ぁっ!!ダ、ダメ…こんなトコじゃ…あっ」

(誰か来ちゃう…)

前のめりになった躰を芯の腕が支えている。

「だ、…」

背中から覆いかぶさり、麗叶のうなじにキスをしながら、拒否の言葉を遮るように動きを早めた。

「ぁっ、っ、っ」

麗叶の息が、途切れていく。

「だ、め…」

「でも、、、」

芯が自分の左手を、麗叶に見せた。

「こんなになってる…」


テラテラと光る、芯の長い中指。


麗叶は、拒めない。


ーーーーーーーーーーーーーー


久しぶりの一人の夜。

今夜、麗叶の帰りは遅い。

自室で音楽を流していると着信音が鳴った。

「洋介?」

あの日以来、洋介とは会ってない。


「お前のことだから、すぐに彼女のこと公表すると思ってたよ。

『芹沢芯に恋人!!』って見出し。Yahooニュースのトピックス、俺は毎日チェックしてるんだけど、全然だな?」

洋介がからかう。

「あいつがそれを望んでないからな」

「だろうな。。でも、芯はそれでいいのか?」

「……」

「お前の性格だったら誰に止められても公表するだろ?」

「……まだ…彼氏じゃねぇ、、かも」

「は?!まさか、お前、告ってない!?」


洋介の声が耳に痛い。


「芯らしくないじゃーん」

「…うるせぇ」

「どしたん?」

「……。」


「彼女、今 お前のこと好きだぜ」

洋介が明るい声を出す。

「それも、かなり惚れてる」


「は?!なんでお前、断言できんの?」

「男の勘」

「あてにならねぇ~!」


それでも洋介の言葉は嬉しい。

『そう』だったら、かなり嬉しい。



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